立花と過ごす休日
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「くあ……」
日曜日の朝、俺はいつもの時間に目を覚ます。
というか、今日は立花の奴と遊びに行く約束をしてるんだけど……うん、つい先輩やサンドラと会う時の癖で、約束の時間の一時間以上前に待ち合わせ場所に行く前提で起きてしまった……。
『すぴー……すぴー……』
そして、[シン]の奴は今朝も気持ちよさそうに寝てやがる。
「おーい[シン]、朝だぞー」
俺は[シン]の身体を揺すって起こそうとすると。
――かぷ。
「痛たたたたたたたたたたたたたっ!?」
チクショウ! [シン]の奴、俺の手を噛みやがった!?
『ムフフー、このアイスは固いのです……』
「バカヤロウ! いい加減目を覚ませ! お前がかじってるのはアイスじゃなくて俺の手!」
『はぐはぐはぐ……って、あれ? マスター?』
「うう……!」
ようやく起きた[シン]は、ボーっとしながら俺を見ている。
と、とりあえず手は解放されたけど……うう、歯型がバッチリついてやがる……。
『マスター……おはようなのです……ふみゅ……』
「ああコラ! いい加減起きろ!」
俺は二度寝しそうになった[シン]を無理やり起こした。
『マスター……今日は日曜日なのですよ……? [シン]にだって寝る権利はあるのです……』
マスターに対して権利を主張する精霊って一体……。
「ま、まあいいや……ホラホラ、今日は立花の奴と遊びに行くんだから、ちゃんと起きろ」
『むー……立花アオイ、許すまじなのです……!』
どうやら眠りを邪魔された[シン]の怒りは相当なものらしい。
普段なら愛称で呼ぶ[シン]が、フルネームで呼び捨てにするんだからな。
まあ、そんな[シン]は、ルフランのジェラートで手を打ったらすぐに機嫌が直ったけど。
◇
「あ! 望月くん!」
家を出て待ち合わせ場所の駅前に来ると、既に立花の奴は来ていた。
だけど、まだ約束の時間より三十分も早いぞ?
「おう……な、なあ、立花はいつから来てたんだ?」
「え、えへへ……実は一時間前から……」
立花ははにかみながら頭を掻くけど……立花よ、お前も先輩やサンドラと一緒か。
そして、立花のファッションセンスは……どうなんだ?
いや、白シャツにデニムジーンズだから、別におかしなところはないんだけど……何というか、その、こういった服装の女子って、いるよな……。
「望月くん?」
「はえ!? あ、い、いや、何でもない……」
「?」
危ない……思わず立花のことをジッと見てた……。
「そ、それより、早速ゲーセンにでも行く?」
「うん!」
というわけで、俺は気を取り直して立花と一緒に駅前のゲーセンに入る。
「立花―、お前はどのゲームすんの?」
「ボク? ボクはコレかな」
そう言って指差したのは、いわゆる音ゲーで、画面表示に合わせて六つのパネルを叩くゲームだった。
「いくよー!」
可愛くガッツポーズをした後、立花は音楽に合わせてリズミカルに、そしてテンポよくパネルを叩く。
「よ! ほ!」
そして。
「……パーフェクトかよ」
「えへへー! やったね!」
そう言って、立花はハイタッチを要求するので、俺も両手を上げると、ぴょん、と飛び上がって立花はタッチした。
「なあ……ひょっとして、立花ってゲーム得意?」
「え? えへへ、実は……」
俺の質問に、照れくさそうに答える立花。その仕草は、まさに女子のソレだった。
その証拠に見ろ、周りの男連中が、立花に見とれてやがる。
「じゃあ、次は望月くんの番! カッコイイところ、見せてよね!」
「お、おう……」
妙にテンションの高い立花に促され、俺も音ゲーにチャレンジするけど……。
「あ! クソ!」
「望月くん頑張れー!」
当然だけど、俺は立花みたいに上手くプレイできず、まあ、人並みの結果に終わった。
「いやあ、難しいな、コレ」
「えへへ、そんなことないよ。望月くん、その……カ、カッコよかったよ?」
オイオイ!? お前が俺のカッコよさを求めてどうするんだよ!?
しかも、顔を赤らめながら上目遣いでそんなこと言うなよ!?
とまあ、そんな感じで俺はある意味ドキドキしながら立花とゲーセンで遊んだ。
◇
「えへへ、楽しかったね!」
「お、おう……」
『んふふー! ウマウマなのです!』
ゲーセンを出た俺達は、ルフランに来てお茶を飲んでいた。
で、当然[シン]はジェラートを食べてご満悦である。
「いや、立花がそんなにゲーム上手いなんてなあ……」
「えへへ……ま、まあ、前の学校にいた時は、毎日行ってたからねー」
そう言って、立花は苦笑した。
「そういえば、立花って前の学校ではどんなだったんだ? ホラ、コッチには精霊が発現して転校してきたんだろ?」
俺は立花の言葉が気になり、ついそんなことを聞いてみた。
『攻略サイト』にも特に主人公の転校前のエピソードとか載ってなかったし、意外と謎だらけなんだよなー。まあ、所詮ゲームだし、シナリオライターが手を抜いたのかもしれないけど。
すると。
「あ……うん……」
立花は、気まずそうに目を逸らした。
ああー……コレ、ひょっとしたら聞いちゃいけなかった系かあ……。
「は、はは、そういやお前も知ってると思うけど、俺って入学したての頃は、クソザコモブなんて呼ばれてたんだぜ! な、なあ [シン]!」
『ハイなのです! みんな、[シン]のことをゴブリン呼ばわりなのです! [シン]には、[ゴブ美]っていう可愛い名前があるのにです!』
俺は話題を逸らすために話を振ったのに、[シン]の奴、あの時の怒りが再燃してしまったみたいで、スプーンをブンブンと振り回していた。
結局、気まずい雰囲気のまま、俺達はしばらくの間ルフランで過ごした。
うう……失敗したなあ……。
◇
「えへへ、今日は楽しかったね!」
ルフランを出てからも、俺達は本屋に行ったり、またゲーセンに行ったりとダラダラ過ごしていると、既に夕方の六時前になっていた。
「おう、また遊ぼうな」
「うん! そ、その……」
すると、立花の奴が急にモジモジし始めた。
「ん? どうした?」
「ええと……ルフランでの話……」
「ああー……その、悪かったな……」
俺が不用意に立花に聞いた件な。まあ、人には言いたくないことや聞かれたくないことだってあるし、あれは完全に俺の失敗だった。
「う、ううん! そうじゃなくて、その……望月くんがバカにされてたって話……」
「ソッチか!」
予想外の返しに、俺はついツッコんでしまった。
いや、今となっては懐かしい話だし、俺としてはもう何とも思っちゃいない……[シン]の奴は別だけど。
「そ、それで……ボ、ボク達って一緒だよね? 本当の友達、だよね?」
「お、おう! 当然だろ!」
おずおずと尋ねる立花に、俺はとりあえず強く返事した。
だけど、さっきから立花が何を言いたいのかサッパリ分からない。
「えへへ……うん、やっぱり望月くん、大好きだなあ……(ボソッ)」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何にも!」
そう言って最高にはにかんだ立花は。
「それじゃ! また明日!」
「お。おう……またな」
手を振りながら、家に帰って行った。
「…………………………ハア」
本当は最後の呟きもバッチリ聞こえてた俺は、ただただ深い溜息を吐いた。
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