もう一つの領域
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「む……しかし、幽子とマテリアルが現れないぞ……?」
自爆したクロケルの身体があった場所を眺めながら、先輩が訝しげな表情を浮かべながら呟く。
「あはは……多分、倒したんじゃなくて自爆したからじゃないでしょうか?」
「むむ、残念だ……」
俺は苦笑しながらそう答えると、先輩はガッカリした表情を浮かべた。
まあ、先輩が幽子に固執する気持ちも分かる。
だって……俺が先輩の薬指にはめた、“シルウィアヌスの指輪”のせいで、吸収できる幽子量が半分以下に制限されてしまっているんだから。
「あ……き、君が気に病む必要はないんだぞ!? こんな領域の一体程度、この階層の幽鬼を根絶やしにすればおつりがくるのだし!」
先輩の言葉で俺が落ち込んだんじゃないかと勘違いした先輩は、わたわたと弁明した。
まあ、本当は落ち込んではいないんだけど、先輩のその気持ちが嬉しいから何も言わないでおこう。
それに……その問題は、この領域を踏破すれば全て解決するから。
「それにしてモ、これで終わりなノ? だとしたら、やけにあっけないわネ……」
プラーミャはそう呟いて辺りを見回す。
まさか。二周目の領域がこの程度で終わるわけないだろ?
――ゴゴゴゴゴ……!
「な、何ですノ!?」
突然地響きが鳴り、サンドラが驚きの声を上げた。
だけど、この地響きこそが次へと至るためのプロセスだ。
しばらくして、地響きが収まると。
「む、これは……」
「階段……ですわネ……」
穴の側面に沿うように、下へと続くらせん階段が現れた。
「この階段の下に、次の階層があるみたいネ……」
プラーミャはそう呟くが、それは正解でもあるし不正解でもある。
「とりあえず、階段を下りてみよう」
俺はそう言うと、らせん階段を下りていく。
みんなも、俺の後に続いた。
「結構深いですわネ……」
「そうだな……」
何の不思議もなく階段と疑わずに下りていく俺達。
だけど……本当は階段を下りてないんだ。
「む、出口か?」
階段の先に光が見え、先輩がそう呟いた。
そして、俺達は階段の終点へとたどり着くと。
「な、なんだこれは!?」
先輩が驚きの声を上げる。
だけど、先輩の気持ちも理解できる。
だって……俺達は階段を下りていたはずなのに、まるで昇ってきたかのように別の階層にたどり着いたんだから。
そう……これが“アトランティス”領域の最大の特徴。
“メビウスの輪”のようにねじれた階段を通ることで、階層……いや、別の領域に繋がるのだから。
そして、眼前に広がる赤い土と、石でできた建物が立ち並ぶこの領域こそ、“レムリア”領域だ。
「……あの“アルカトラズ”領域もかなり特殊だと思ったが、この領域も変わっているな……」
「はい……そうですね……」
すいません先輩、残り三つの領域も、同じように変わってます……。
「それで……どうしますノ……?」
サンドラがおずおずと尋ねる。
このまま、この“レムリア”領域を攻略するのか、それとも、引き返すのか。
「まあ、今日はここまで、かな」
レベルが低く、幽鬼も弱いとはいえ、“アトランティス”領域の攻略にかなりの時間を費やしたんだ。この領域だって同じように時間がかかることは目に見えている。
「とりあえず、次は来週にでも来て攻略の続きをしよう。特に、プラーミャ」
「私?」
俺が名前を告げると、プラーミャはキョトン、とした。
「見る限り、ここの幽鬼は火属性みたいだ。となると、【火属性無効】を持つプラーミャの独壇場だ」
「マ、マア確かニ」
俺がこの階層を闊歩する幽鬼を指差しながらそう告げると、プラーミャが頷く。
「だから、さ。頼んだぞ!」
「ッ! わ、分かってるわヨ!」
はは、プラーミャの奴、頼りにされて照れてやがる。
まあでも、実際にここの攻略にはプラーミャは欠かせない。
後は……できれば立花や加隈も一緒に来られると、ここの攻略が圧倒的に楽になるんだけどなあ……。
なにせ、“アトランティス”領域はこの領域に繋がる穴を目指せばいいだけだから、ある意味一直線だったけど、ここの領域ボスを出現させるには、この領域の端から端まで行かないといけない。
だからこそ、手分けして攻略したほうが効率的なんだよなあ。
「ふふ……ならば、彼等には“グラハム塔”領域をぜひとも踏破してもらわんとな」
「先輩……」
はは、さすが先輩だ。俺の考えなんてお見通しか。
「エー……その時は、絶対にアオイと同じチームにしないでヨ!」
ここで、察したプラーミャがそんな要求をしてきた。
「なんだ、立花のこと嫌いか?」
「そうじゃなくテ! ……だって彼、アナタと一緒じゃなかったらその時点で不機嫌になるシ」
「はは……」
プラーミャの言葉に、思わず乾いた笑みを浮かべる。
本当に、俺に依存するのはやめてほしいよなあ……。
「……分かった、善処するよ」
そうして今日の探索を終え、俺達は元の世界へと帰った。
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次回は明日の夜更新!
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