25-2 イベントの成功
「すまない。その唇を奪うのは、きちんとけじめをつけてからにするよ」
そう言った彼は穏やかに微笑んだ。
その瞬間、頭の中でピロンという音が聞こえると同時にゲームウィンドウが開いた。
【イベントの成功おめでとう! 好感度MAXの彼と成功報酬を使って甘い時間を楽しもう】
はぁ⁉︎
どういうこと?
好感度MAX⁉
いやいやいや、嘘でしょう。それはないはずだ。
そもそも出会いのイベントを大失敗しているのだから、あるはずない。
にわかにこの現実を受け止められない私の気持ちを置き去りに、彼がやけに色っぽく見つめてくる。
「おや、なんか物欲しそうな顔をしているけど、もしかしてアンドレアは先に口づけをしたかったのかな。それならやっぱり試してみようか?」
「ちっ、違います!」
「そうは見えないけど」
「ラムネをもっと食べたいなって思っているだけです!」
そう言って手を出したが、彼は私の口にラムネを運ぼうとするため、従順なまでにそれを受け入れてしまう。
静かに笑う彼は、照れる私の反応を楽しんでいるかのようだ。
本当はキスもしたいし、その先だって……彼とならしたいと思うが、王族の彼と庶民の私では釣り合いが取れない。
「今、アンドレとキスしたら、いちごの味がするんだろうな」
真面目な顔をしている彼は、本当にやりかねない。
流されて後に引けなくなっては大変だ。ラムネを頬張ったまま、全く違う話題に変えた。
「外でだなんて……誰か来るかもしれませんよ」
「それはない。ここは王族のみが立ち入ることが許される場所だ。私以外にここを使う者はいないしな」
王族だけ……⁉
予期せぬ言葉に思考が真っ白になる。
貴族ではないと言いそびれたまま、状況だけが前のめりに進んでいる気がして、そわそわしてきた。
「それなのに、どうして私なんかを……?」
彼の美しく澄んだ瞳を真っすぐ見つめる。
「それは決まっているだろう」
呆れたように言った割に、彼が急に跪き、私の手を握った。
「私の妃になってください」
「そ、それは本気ですか……?」
「もちろんです。出会った日から惹かれていました」
その言葉が腑に落ちず、疑問符がくるくると回る。
「お言葉ですが、ギルバート殿下はヘイゼルにネックレスを届けていたではありませんか?」
「あれは、家臣が勘違いをしたせいだ。私が渡したかった相手はアンドレア、あなただ。他の女性にアクセサリーを贈ってしまったことで、あなたを傷つけたのではないかと、自分自身を許せなかった」
「あれは……私に……?」
「ああ、そうだ。危なっかしいあなたを守るつもりで贈った魔道具だったんだ。身に着ける者を救う石をアンドレアに届けたつもりでいたのに、私の説明が悪かったせいで、妹が受け取ったと聞いていた」
ヘイゼルに届いたネックレスのことは、悔しかったし、嫉妬した。忘れようと思っても、確かにずっと心のどこかに引っかかっていた。
だからこそこうして彼の本心を知り、気分が高揚する。
笑いながら、拗ねた言葉を彼にぶつけた。
「早く教えてくだされば良かったのに」
「何度もあなたに打ち明けようとしたが、言い出しにくかったんだ……。一度贈ったものを返せとは言えないため、事実を伝えてしまえば姉妹の関係を壊してしまう気がして悩んでいたんだ。だから、裁判のさなかにあのネックレスが壊れるのを見て、私がどれほど嬉しかったか、あなたにこの気持ちはわからないでしょう」
「ギルバート殿下」
「2人だけのときは、ギルバートと呼んで欲しい」
「ギルバート……様」
「様もいらない」
「ギルバート……」
「あなたのことを、片時も離したくないほど、愛しています。王城にあなたの部屋を用意していますから、2度とあなたをあの屋敷には帰しませんから」
力強く輝く瞳。熱のこもった口調。真剣な表情。
彼からの熱烈なプロポーズに心が震え、瞳が潤む。
もちろん即答したい。私も愛している。
だが、私は偽りの伯爵令嬢だ。
いや……それだけではない。
この体の本当の持ち主であるアンドレアを追い詰めたバークリー伯爵家の人間は、どうやっても許せない。
コンラートから託された切り札を使う。
そう決めたから、彼の気持ちには答えられない。
「部屋はありがたいのですが、結婚は無理です」
「それはどうしてですか?」
「私もギルバートのことを愛していますが、正直に申し上げると、私は伯爵家の籍に入っておらず、正確には貴族ではありません。それにバークリー伯爵家そのものを潰そうと考えていますので、妃になるにはふさわしくありませんから」
「よかった。そんなことなら何の心配もないな」
彼がくつくつと笑い始めたため、状況を理解できずに、その様子をきょとんと見つめてしまう。
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なお、今週末の次話の投稿時間は未確定のため、予めご了承ください。




