24-2 裁判
その言葉を冷静に受け止めているコンラートは、至って平然とした顔をしているが、ヘイゼルは生気を失い項垂れていた。
そのまま動く気配もなければ、わめき散らすこともない。
悔しいが、身代わりのネックレスがなければ、彼女が裁かれていたというのに……。
今、コンラートに判決が出たということは、このまま処刑場へ向かい、人知れず毒杯を飲むということだ。
この場にいた聴講者の退場が命じられ、ゆっくりと人の気配が減っていく。
残ったのは少しの関係者のみで、裁判官もいつも間にか、退席していた。
入場時は連行されていた私だが、無罪となった今、このまま自由になったということか。ここから出よう。
連れ出されるコンラートと入れ替わるように解放された私は、自分を嵌めた彼とすれ違う。
その際に、周囲の人物が気を遣い、会話をする時間を設けてくれた。
私と対面しても顔色一つ変えないコンラートは、自分の信念がある頑固な男。だからこそ優秀な成績で官僚試験に合格したのだろう。
そんな人間が、どうして私を嵌めようとしたのか、理解できない。
「私には聞く権利があると存じますから答えてください。なぜこんなことをしたのですか……?」
抑揚のない口調で冷たく告げたが、動じる気配のないコンラートは、静かに答えた。
「理由はない」
「そんな話が通じると思っているのですか?」
「本当だ。理由はない。そうしなければいけないからやっただけだ」
「しなければならない?」
浮かんだ疑問符について、問いかけた。
「いつだったかな……。お前が屋敷に来て少し経ったあとから、自分が自分ではなくなった。当たり散らすつもりはなかったが、お前に酷いことを伝えていた記憶がある……」
「それは……」
「別に言い訳はしない。ただ、すまなかった。それだけだ」
そう言って立ち去ろうとした彼は、私から視線を変えたため、慌てて引き留めた」
「待って! お兄様……もしかして──」
その言葉の先を言わせまいとしたコンラートが、人差し指を立て、私を制した。
私は大きな勘違いをしていたようだ。
ヘイゼルが従属の秘薬を使ったのは、ヒューゴという騎士だと考えていたが、コンラートだったのか。
厳格な性格ゆえ、感じが悪くてもゲーム中のキャラクターと遜色がないため、わからなかった……。
それに、自分より遥かに格上の人間に従属アイテムは利きづらいという先入観から、無意識にコンラートの可能性を外していた。
「聞いてくれアンドレア。こうなったときのために、俺は以前から準備をしていた」
「何を……ですか?」
「悪魔のような女を追放する準備だ。今のアンドレアならできるはずだ」
そう言ったコンラートは、私だけに聞こえるよう耳打ちしてきた──。
その瞬間、ドクンッと心臓が大きく脈打った。
「そんな……」
「これまでアンドレアには、酷いことしか言ってこなかった気はするが、俺の最後の希望だ。それを使って、悪魔を消してくれ」
「都合が良いことですわね」
「それは重々承知だ。本当にすまなかったと思っているから、こうして打ち明けたんだ。信じてくれ」
「……考えておきます」
自分でも驚いてしまうが、胸に響くような低い声が出た。
従属の秘薬を使われてもなお、真面目で堅物なコンラートは健在だったということか。
一人だけで自滅するつもりはないという、賢い彼らしい行動だ。
コンラートが準備していたものは、私が望んでいたこと。
だがそれを使うと、ギルバート殿下と結ばれる機会は永遠に失われてしまう──。
私に自分の望みを託したコンラートは、ゆっくりと歩みを進め、処刑場に向かっていった。
罪人の亡骸は、城壁の外に吊るされ朽ちていくのを晒される。
苦しみ悶えた表情を見せつける目的らしいが、そういう姿を見るのは苦手だ。
だから特段思い入れのない彼の顔は、もう2度と見ることはないだろう。
一人になり、そのままぼんやりとしていると、後ろからぎゅっと強く抱きしめられた。
凛々しくて力強い腕の感覚を忘れるはずがない。彼しかいない。
「アンドレア……一人で心細い思いをさせて申し訳なかった」
耳元で優しい声がした。
「ギルバート殿下?」
「今回のことで思い知らされた。私はアンドレと片時も離れたくないってことを。だから傍に置くことに決めた」
「そ、それは……?」
凄くうれしいのに、どう答えていいか定まりきらない感情が、曖昧な反応をしてしまう。
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