24-1 裁判
真っ青になったヘイゼルが立ち上がり、聴講者に訴えかける。
「わっ、私は真実を見抜く秤にかけられる理由がございません。お姉様が無罪なのは歓迎いたしますので、これ以上裁判を長引かせなくてもよろしいかと」
ヘイゼルの懇願もむなしく、ギルバート殿下が彼女の意見を完全に否定した。
「アンドレアが無罪であれば、真犯人がいるということだ。意味はある。それに、裁判の聴講は、突然実施する真実の秤にかけられることに同意すると、承諾しているはずだ」
「ぞ、存じません」
一瞬で真っ青になった。
真実の秤……。
魔道具を着けられ、質問に答えるものだ。嘘をつけば針が大きく振れるため、すぐにわかる。
その精度が100%のため、裁判の証拠とされるのだ。
私は前世のゲームで、さんざん処刑シーンを見てきたし、その前の裁判も見ているから知っているが、傍聴者も巻き込まれることをヘイゼルは知らなかったのだろう。
ぷるぷると首を小さく横に振り、口唇を揺らしているヘイゼルは、まったく予期せぬ事態に転がり、動揺を隠せていないみたいだ。
「それではヘイゼル・バークリー伯爵令嬢はこちらに」
裁判官が、ヘイゼルも私の横に並ぶように促すと、今にも泣きだしそうな彼女が叫び出した。
「お兄様が! コンラートお兄様が私の代わりに裁判を受けますわ‼」
半狂乱で叫んだヘイゼルが指名したコンラートに、一同の視線が集まる。
ヘイゼルは未成年だ。
今しがた当主の代わりとして意見を述べたコンラートが保護者といっても過言ではない。
真実の秤の証言者になんの心構えもなく指名され、理性を失ったヘイゼルに証言を求めるのは酷だ、という顔をしている傍聴者も、混じり始めた。
会場中の人間が、コンラートはどんな反応をするのだろうと、固唾をのんで見守っていると、椅子に腰かけたままの彼は、静かに口を開いた。
「申し訳ございません。私が王城の池に毒を落とし、その後アンドレアの机にそれを入れました」
その言葉を聞いた傍聴者たちの視線はコンラートに集中し、ドッとざわつきが起こる。
それと同時に、横にいたヘイゼルの緑の宝石が、はじけるように割れた。そうだった。身代わりのネックレスを着けていたのだ。
石が飛び散っているのだから、パリンという音でも発していそうだが、周囲の雑音に掻き消え、私には聞こえなかった。
石が割れたことに気づいているのは、本人と私、強烈な冷気を放っているギルバート殿下くらいか。
「静粛に!」
いら立ちを含む声で、裁判官が制した。
徐々に周囲が静まり返ったタイミングを見計らい、予期せぬ発言をした真意を確認しようとする裁判官が、コンラートへ問いかけた。
「コンラート・バークリーが、自分の妹であるアンドレア・バークリーの机に瓶を入れたということなのか?」
「そのとおりでございます。この件について、真実の秤にかけていただいて構いません」
そこまで確認した裁判官は、ギルバート殿下が在席するこの裁判を長引かせるつもりはないようだ。
胸を大きく膨らませるほど息を吸い込むと、腹の底からゆっくりと吐き出した。
「コンラート・バークリーを死刑に処す」
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