23-2 イベント攻略
鉄格子に巻きついた鎖を、ガチャガチャと外す音が響き渡る。
「さあ牢から出ろ! お前の裁判だ」
そう命じた近衛兵に従い歩みを進める。今は何時かと聞いたが答えない若い近衛の彼は、随分と横柄だ。
容疑者とはいえ、近衛兵よりも私の方が立場は上だ。
この態度を見るからに、私は処刑確定の罪人だと認知されているのだろう。悔しい。
審議室はすでに人がひしめいており、審判を受ける者が、最後に到着したようだ。
ヘイゼルやコンラートは傍聴席に座り、王族であるギルバート殿下はみんなとは違う席に座っていた。
ここに立てと言わんばかりの台が中央部にあるため、とりあえずそこへ向かう。
ゆっくり歩いて、静かに立ち止まる。その判断は間違っていなかった。
そこに私が到着したのを見計らい、裁判官と思しき黒一色のガウンをまとった人物が、口を開く。
「王城に許可なく毒物を持ち込んだ、アンドレア・バークリー伯爵令嬢の裁判を行う」
ここで意義を唱えようかと思ったが、不利に働いてはいけないと考え、言い返したい言葉を喉の奥でグッと堪えた。
裁判官の話はそのまま続く。
「アンドレア・バークリー伯爵令嬢が毒物を机の中に所持していたのは紛れもない事実であり、城内の禁忌事項に触れた。よって死刑と処す」
それを聞いた瞬間、ひゅっと喉の奥で息を吸い込む、乾いた音がした。
嘘でしょう……。
そう思う私は、今回の裁判を甘く見ていた。
もう罪は確定していて、罪状を皆の前で突きつけるために開催された裁判のようだ。
うかうかしていては、処刑される!
そう感じて声を荒げた。
「私はやっておりません!」
その言葉に、いの一番に反応したのはコンラートだ。
「裁判長。バークリー家の人間が、裁判中に許可なく無礼な言動を発したことを、当主に変わりお詫びします」
冷静に発した彼の横で、ハンカチで口元を隠し、肩を揺らして笑っているヘイゼルがいた。
私が裁きを受けるのを確信し、嬉しくてたまらないのか。最低だ。
半日足らずで、真犯人を見つける証拠を集めるのは無理な話だ。
それを責める気はない。
もう二度と会えないのであれば、彼の顔だけ焼きつけたくて、ギルバート殿下を見つめる。
私と目が合っていた彼の視線が横にずれた後、愛おしい声が耳に届く。
「今の発言、コンラート卿も同じく無礼ではないか……? 誰がこの場での発言を許した?」
怒りが滲む低い声を出すギルバート殿下は、コンラートを射殺しそうなほど鋭い視線を向けていた。
「大変申し訳ございませんでした」
コンラートが深々と頭を下げると、それまで楽しげだったヘイゼルも慌てるように真顔に変わった。
会場の空気がピリつき裁判官が、進行を躊躇っていると、ギルバート殿下のバリトンボイスが優しく響く。
「アンドレアの机から見つかった毒は、彼女が用意したものではありません」
「どういうことでしょうか?」
裁判官と同じ感想を持つ私も、彼の一言一句を聞き逃さないよう、真剣に聞き入る。
「彼女の机に入っていたのは、ラムネ菓子の空き瓶。今では人気の店の品ですが、それは貴族の間で話題になって以降だ」
「それはどういう意味ですか?」
「彼女の机から見つかったラムネの瓶は、菓子店のもので間違いありませんが、あのキャップの形状は、約2年前に形が変わっています」
「ギルバート殿下の説明を、もう少し詳しくお願いします」
司法には、王族であれど口出しは許されず、この場で一番権力を持っている者は裁判官だ。
それでもギルバート殿下の立場と影響力を鑑みれば、裁判官も無下にすることはできなかったようだ。
それまでハンマーのような物を手に握っていた裁判官が、それを下ろした。
「アンドレアの机の中に入っていたのは、今販売されているものとは蓋の形状が違う。だが当時から貴族をターゲットに販売していた菓子店の値段は変わらない。1年半前に伯爵家に引き取られたアンドレアが、貴族向けに売られていた菓子を購入できたとは思えない。ラムネを用意したのはアンドレアなのか? その一点だけ、真実の秤にかけて判断してくれ」
ギルバート殿下が言い終えた直後、ルシオが2種類の瓶を裁判官に提供したため、会場からはざわめきが起きた。
否定する者がいないということは、この蓋について、知っている貴族が一定数いるということ。
「わかりました。ギルバート殿下のご提案のとおり、魔道具を用意いたしましょう。真実を見抜く秤で、嘘を隠すことはできませんから」
そう言い終えた裁判官が、私を見やり確認を取る。
「異論はないですねアンドレア・バークリー伯爵令嬢」
念押しされた言葉に、前をまっすぐ見据えて答えた。
「それでしたら、どちらが真実を述べているのか判断していただきたい人物がいますので、その者も一緒に秤にかけてくださいませ」
静かに背後を振り返り、ヘイゼルと視線を重ねた。
ヘイゼルに怯える日々を、今日で最後にするためにも、もう一人のヒロインには退散してもらうから──!
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