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21-2 ラムネ

 ギルバート殿下を裏切る真似はしていない。それだけは絶対に信じて欲しくて、彼の目をまっすぐ見て伝えた。


「お願いです。信じてください。机に入っていた毒のことは、私は何も知りません」


「本当に良かった」

「何がですか?」


「間違って、あのラムネをアンドレアが口にしなくて。食べていたことを想像すると、心臓がえぐられそうだ」

「殿下……?」

 予想外の言葉に思考が止まる。


「つい熱くなってしまった。あの毒は、夜中に仕込まれたということか」

 彼から深いため息が聞こえた。


「いいえ。見つけたのは、昨日、ギルバート殿下と昼食を摂り、執務室に戻って来たときです」


「昨日だと……?」


「はい。それまでなかった、ラムネのようなものが詰まった瓶が引き出しに入っていたので、驚きましたけど」


「なあ……。ラムネをどうしてすぐに食べなかったんだ? あれは令嬢であれば飛びついて喜ぶ菓子だと聞いたんだが」


 イベントの成功報酬と勘違いしたから。というのも事実だが、そもそも飛びつくほどの魅力も感じなかった。それも本音だ。


「お恥ずかしながら、あのラムネがそんな有名な代物だなんて、知りませんでした」


「知らなかった……だと」


「私はバークリー伯爵家に引き取られるまで、母と2人暮らしでした。なので高価なお菓子を食べる機会はなかったため、その手の話には疎くて」


 それを聞いたギルバート殿下が「なるほどな」と大きく頷くと、続けた。


「必ず私の腕の中に取り戻すから、待ってろよ」


 彼の腕の中に私の居場所はないのに、励まそうとしてくれているのか。

 私を喜ばせることを言ってくれるのだから……。


 私がこのまま処刑されるか、妹のヘイゼルが犯人という証拠が見つかるのか、どちらに転ぶかわからない。


 でも……こんな事件を起こしたバークリー伯爵家はどうなるか……。


 少なからず汚名が残るであろうことは、無知な私でも想像ができる。


 ギルバート殿下との未来は、ますます絶望的になったが、目先の問題は無実の証明だ。

「ギルバート殿下のことを信じて、待っていますから」


 ひと際真剣な口調で伝えると、静かにうなづいた彼は、この場所から去っていった。


 ◇◇◇


 少しの間、ギルバート殿下との会話の余韻に浸っていた。


 すると、ゆっくりこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。


 カツカツと、女性のハイヒールがぶつかる音だ。

 警戒心を最高潮に高めながら音の先を見ていると、この場に似つかわしくない、ピンク色のドレスが目に飛び込んできた。


「ヘイゼル……?」

「……お姉様」


 私のつぶやきに、呼応するような反応を見せた妹は眉をハの字に下げ、まるで私を心配しているとでも言いたげだ。


「どうしてあなたがここにいるのよ……」


「お兄様に差し入れを届けにきたんです……。そうしたら、お姉様が捕まったと聞いて、お兄様に場所を教えてもらったのです」


「ずいぶんとタイミングがいいのね」

 疑念がゆるぎないものに変わったせいで、少しのためらいもなく、皮肉が口をついた。


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