16-2 官僚初日
案内された部屋へ入ると、真正面の窓際に一台の机が置かれ、それにL字になるよう真新しい机が並んでいる。
「急遽用意させたので、手狭ですみません。王城に慣れるまでは、遠い部屋より同じ部屋がよいかと思いまして、我慢してください」
恐縮されたが、全く気にならないと思う私は、なんのことやらという感じだ。
「十分広いと思いますが……」
「あちらは、ギルバート殿下から内容を理解するようにと用意されたものです」
壁際の机にはすでに山のような本が置いてあった。
「もしかして、勉強だけですか?」
「ええ。これがアンドレア卿の大事な仕事になりますからね」
意味深に、ふふふっと笑ったルシオも、自分の机に向かい仕事を始めた。
◇◇◇
手始めにとった本は、ダンスの作法などが書かれているのだが、これが官僚とどういった関係があるのだ?
不思議に思いながらも夢中になって本を読み込み、しばらく経ったころ、ルシオが声をかけてきた。
「ギルバート殿下の所へご一緒してくれませんか?」
「仕事ですか?」
「仕事といえば、仕事ですね。僕が誘っても断られてしまいますが、アンドレア卿がいれば、成功すること間違いなしですし」
意味がわからず、目をぱちくりさせる。
「ルシオ卿が断られるなら、私だって無理ですよ」
両手を振って断った。
「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。食事に誘うだけです。ギルバート殿下は、放っておくと食事も摂らずに仕事に没頭してしまいますからね」
「私がお仕事の邪魔をして怒られませんか?」
「アンドレア卿が来るのを楽しみにしているのに、行かないと逆に怒られるでしょうね」
はぁ〜と空返事を告げると、問答無用で連れ出されてしまったが、なんてことはない。
目的のギルバート殿下の部屋は、私たちの隣にあるのだから、拍子抜けする。
イベントの行先に彼の部屋がなかったため、先に案内されなかったのか。そう納得した。
まだ、問題らしきものは発生していないし、初日が順調に過ぎていることに安堵する。
◇◇◇
ギルバート殿下は私たちの入室に気づくと、すぐさま立ち上がり、歓迎してくれた。
「アンドレアが一向に私の部屋に来ないから、待ちくたびれたぞ」
あれ? っと思うくらい拍子抜けする答えが返ってきた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
「そんなことは気にするな。試験の合格おめでとう。華々しい結果で、各部門から引っ張りだこだったぞ」
「合格できたのは、ギルバート殿下のおかげです」
尋ねたいことは山ほどあったが、ルシオが2人の会話の間に割り入ってきた。
「立ち話もなんですから、お食事しながらにしませんか? ギルバート殿下はアンドレア卿に伝えたいことがあるんですよね」
ギルバート殿下は、気まずげに「まあな」と反応したが、一体、何を伝えたいと言うのだろうか?
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