15-2 壊したストーリー(SIDEヘイゼル)
(SIDEヘイゼル)
1年半年前、我が家に似つかわしくない娘をお父様が連れてきた。アンドレアという汚らしい庶民の子どもだ。
あの女の母親は、この屋敷でメイドとして働いていたらしい。
どうせ金に目がくらみ、女がお父様に色仕掛けでもしたのだろう。
騙されたお父様は気の毒に。
挙句、卑しい女は自分が産んだ子どもをお父様に押し付けてきて。
その娘と私が姉妹なんて、受け入れたくない。
バークリー伯爵家がけがれるから、一刻も早く出ていって欲しいのに、娘に同情するお父様は追い出すようなことはしない。心配する価値もない女なのに。
アンドレア……。本当に忌々しいわ。
すぐにいなくなると思っていたら、図々しく居座りついて、その挙句とんでもないことを言い出した……。
「私、王城官僚試験に合格しましたわ」
予期せぬ言葉が耳に届き、夕食の前菜を食べるために握ったフォークが、小刻みに震える。許せない。
顔に出すな。そう自分に言い聞かせるが、我慢ならない。
目の前にいる満面の笑みのアンドレアが、王城官僚試験の合格通知をひけらかしているのだ。あり得ない。
それも、配属先がギルバート殿下の側近というのだから、目と耳を疑った。
王族は皆、警戒心が強く、代々馴染みのある家名の人間しか傍に置かない。
だから、コンラートお兄様のように優秀であっても、王族付きの側近になれないのに。
それなのに、どうしてこの卑しい女が、ギルバート殿下の側近になれたというのだ。許せない。
必死に怒りを堪えているのに、何も知らないアンドレアが、私に微笑んできた。
「ヘイゼルは貴族の家業とか、とても詳しいわよね」
「ええ、まあ。お茶会や社交界でよく聞きますから」
「羨ましいわ。私はあまり貴族の情報に詳しくないから、いろいろ教えてくれると助かるわ」
「わ、私でお役に立てることがありましたら、お姉様のために何でもお力になりますわよ」
心にもない台詞のせいで、どもってしまった。
それをごまかそうと、おほほと、笑っておいた。内心、舌打ちを返したいのに。
お兄様も、今日、屋敷へ帰ってきたときからずっと浮かない顔をしている。
おそらく、王城でアンドレアの合格を知らされていたのだろう。
それも、お兄様が目指していた王族付きのポジションに配置されると聞いて、さぞかし憤慨しているに違いない。
自分を差し置いて、元庶民の妹が選ばれるなんて、かわいそうに。
一言も発しないお兄様を見て思う。
我が家の空気を乱す者は、この伯爵家に必要ない。
バークリー伯爵家の令嬢は2人もいらない。あなたは退場してくれて結構だ。
そう思いながら、上機嫌に食事を頬張るアンドレアに視線を向けた。
調子に乗りすぎよ。そろそろ消えなさい。
◇◇◇
はらわたが煮えくり返る私は、彼の元を訪ねた。
そう……。
最近、手に入れた私の従順な彼。
本棚に置いてある恋愛小説を読もうとしたとき──。
よくわからないが、私の部屋に見たことのない本があり、不可思議な薬が入っていた。
従属の秘薬で、攻略キャラには使えないと。
攻略キャラの意味はわからない。
だけど半信半疑ながらにそれを使ってみたら、しっかりと効果を発現したのだ。
ほらね。由緒正しい令嬢には、神の贈り物が届くのよ。本物は偽物と違う。
そう考えていれば、呼び出した相手が部屋から出てきた。
「何か?」
前触れもなく訪ねてきた私を訝しみながら聞いてきた。
「悔しいわ。どうしてアンドレアは試験に合格しているのよ。それも今回の合格者は、あの女だけって言うじゃない。あり得ないわ」
「大丈夫です。あなたはギルバート殿下からネックレスをいただいているではないですか」
私を慰めてくれる言葉に口角を上げ、まあね、と返す。
「私の殿下の近くにあの女がいるのは許せないわ。即刻排除して」
丸くて愛らしいラムネの入った瓶を差し出すと、「御意に」と小さく発した彼は躊躇いもなく受け取ってくれた。
お読みいただきありがとうございます。
今回はヘイゼル視点でした。
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