15-1 壊したストーリー
王城でギルバート殿下に出会って以降、毎日図書室に通いつめた。
彼から教えてもらった本が見分けられるか心配したが、少しの問題もなかった。
彼が手に取った本は、ゲームウィンドウで【アイテム】と表示されていたのだから。見落とすわけもない。
とにかく自分にできることは、ギルバート殿下の近くにいられる可能性にしがみつくだけ。
ギルバート殿下とヘイゼルが結ばれてしまえば、私にとってのゲームオーバーだ。
処刑エンドなんてまっぴらごめんである。
◇◇◇
そうして迎えた試験当日。
会場に向かう私以上に緊張しているエルナが、見送ってくれた。
「アンドレアお嬢様なら、きっと合格できますよ」
「やれるだけのことをやったし、それで駄目なら諦めもつくわ」
「毎日夜遅くまで勉強なさっていたんですから、自信を持ってください」
「そうね」
両手でガッツポーズ作ってエールを送ってくるエルナに、取り繕った笑顔を返す。
ギルバート殿下が勧めてくれた本はもちろんだが、禁書指定のものは粗方目を通した。
きっと大丈夫──。
そう思う私は、丸1日缶詰めにされて試験を受けた。
生気もつきかけ屋敷に戻ってきた私に、エルナが満面の笑みを向けてくる。
その優しい表情を見た瞬間、今まで抱えていた感情が一気に押し寄せ、涙腺が崩壊した。
不安で怖くて。
1人で心細くて。
もう彼は推しでもなく、ゲームのキャラなんかではなくて……。
アイテムと表示される度に思い出すギルバート殿下のことが、どんどん好きになっていくけど、この恋は叶わないのを知っていて。辛くて。悲しくて。
エルナに抱きつくと、涙が溢れてくる私のことを、全身で受け止めてもらった。
「今日までよく頑張りましたね」
「ええ……」
「何があってもアンドレアお嬢様の味方ですから、心配なさらないでください」
私の背中を撫でてくれる彼女の手のひらから、優しい温もりが伝わり、心地よい。
「エルナ……」
ヘイゼルに身代わりのブレスレットが届いたときは、出会いのイベントを放り投げてまでエルナを助けたことに、少しの後悔を感じた。
わかっていたのに自分は馬鹿だなって。
だけど、こうして私の存在を丸ごと受け入れてくれるエルナを助けたことは、間違っていなかった。そう思わせてくれた。
疲れた……。
合否通知が届くまで、束の間の休息期間を満喫しよう。
◇◇◇
(SIDE ギルバート殿下)
「た、大変です!」
私の執務室へ、ルシオが山のような資料を抱えて飛び込んできた。
「落ち着け。一体何があったというのだ?」
「この状況で落ち着けるわけがないです!」
「だから、どうしたというのだ?」
「アンドレア伯爵令嬢のことです」
私の知らないところでアンドレアがトラブルに巻き込まれているのかと案じ、話の本題を急かす。
「彼女がどうかしたのか⁉」
「もう、どうも、こうもないですよ。彼女が受けた官僚試験の結果で、各省長からの嘆願書が、こんなに届いています」
ルシオが机の上にドンッツと紙の山を置いた。
「待て……。ルシオの話の意味が、さっぱりわからない。アンドレアの試験がなんだと言うのだ?」
「信じられないことに、歴史学、経済学、生物学、考古学──。あー、もう全部の教科が満点だったんですよ!」
「ははっ、やってくれたな。さすがアンドレアだ。彼女は私の想像の上をいきすぎだ」
「もう! ギルバート殿下は何を笑っているんですか!」
「彼女は合格するだろうと思っていたからな」
図書室で出会った彼女を見て、そう確信したから私の希望を託したわけだ。
「仮に問題を知っていたとしても、膨大な問題の答えを全て暗記するなんて到底無理な話ですから、アンドレア伯爵令嬢の優秀さが、とんでもない形で証明されて、彼女を自分のところに配置してくれと要望が届いています」
「却下だ」
「ですが……いつもは冷静な外務省まで、帝国語の結果に顎を外して、なんとしても彼女を欲しいと譲らなくて」
「駄目だ。アンドレアは始めから、私の傍で働いてもらうと言っていただろう」
「これだけの嘆願書が届いているわけですし」
「それなら私もルシオ宛に、アンドレアをギルバート専属の側近にするようにと、嘆願書を書けばいいのだな」
冗談めかして言うと、呆れたルシオがやれやれとため息をつく。
「はぁ〜、これは何を言っても駄目そうですね」
「出会った初日から唾をつけたのだ。絶対に譲らないからな」
ゆっくりと立ち上がると窓の外を眺めた。
彼女と会った市井の方向に顔を向け、また、一緒に行けるだろうかと、期待に胸が躍る。
「早く彼女に会いたいな」
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