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13-2 官僚試験

2025年5月10日

サブタイトルを大きく変更しました。

『旧タイトル』

ヒロインは2人もいらない ~バグ発生中の自作ゲームに転生した偽りの伯爵令嬢は、処刑エンドを覆す~

 屋敷の帰り道のこと。

 王城の中を歩いていると、官僚と思しき男2人が会話を楽しみながら、こちらに向かってくる。


「今年も令嬢が王族に近づけると勘違いして、試験を受けるんだって」


「お気楽な令嬢たちが合格するわけないのにな」


「バークリー伯爵家の名前もあったよな」


 アンドレアの顔を世間が知らないため彼らは気づいていないようだが、本人を目の前に私の話をしている。

 そうなれば歩くのをやめ、すれ違った彼らの声に耳をそばだててしまう。


「なんかそれ、コンラート卿が止めたのに、見込みのない妹が受験するってごねたらしいぞ。採点する我々の負担を増やすのは、勘弁してほしいよな」


 すれ違いざまに聞こえた会話は、ここまでだったが、それでも十分である。


 コンラートは自分の保身に余念がないようだ。


 こうやって彼が噂を広げるから、屋敷の中にも外にも敵ばかりではないか。気が重い。


 その気持ちのまま馬車に揺られしばらくすれば、見渡すという表現が必要なほど広い敷地に、豪華な屋敷が建ちそびえる、バークリー伯爵家に到着した。


 自分の噂話が心に引っかかったまま、気分が晴れない。むしゃくしゃしてエレナに当たり散らしそうで、まずい。


 少し歩けば気分も変わるだろうと、部屋にこもる前に庭を散歩することにした。


 バークリー伯爵家は、いい仕事をする庭師を雇っているのだろう。自慢の庭は大きな噴水があり、花々どれもこれも美しく咲き誇っている。


「本当に広い庭ね」

 初めて足を踏み入れる景色を堪能しながら歩いていると、後方から小枝が折れる微かな音が聞こえた。

 誰かいる。そう感じて、すぐ横に咲く花を見ている仕草をしながら立ち止まった。


 背後に人の気配を感じるのに、どういうわけか話しかけてくる様子もない。


 このままでは動きが取れない。しびれを切らせて振り向く。


 そうすればヘイゼル専属の騎士が立っていた。


 彼の名前はヒューゴ。

 モブではなく、名前のあるキャラだ。


 幼いヘイゼルが市井で出会った彼を屋敷に招いたため、ヒューゴは妹以外には従わない、面倒な騎士である。


 彼は常にヘイゼルと行動を共にしているのだから、今、妹は屋敷の中にいるのだろう。


 正直なところ、ヘイゼルが従属の媚薬を使った相手は、ヒューゴではないかと睨んでいる。他にそれらしい従僕が見当たらないのだ。

 初めにワンピースを持ってきたメイドは、エルナの話では辞めたらしい。

 あのメイドは違うし、エルナから私の話を聞き出そうとする者もいないみたいで、不思議だ。


 ヒューゴは、こうして近づいてきたのだから、何かあるのかもしれない。


 どういう用件でお出ましかしらと思う私は、冷たく声をかけた。


「どうして声もかけずに、ずっと後ろを着いてくるのかしら?」


「危険が迫っている時以外は、目と目が合ってからでなければレディーに声をかけてはいけないと教わっていますから」


 表情も声色も一切変わらないヒューゴが、淡々と答えたため「そう」と、そっけなく返し続けた。


「それで、用事は何かしら?」


「ハンカチを落としていましたよ」

 彼が差し出してきたハンカチに手を伸ばす。


「ありがとう。今後、お世話になることもあると思うから、あなたの名前を聞かせてちょうだい」


「僕はヒューゴと申しますが、ヘイゼルお嬢様専属の騎士ですので、アンドレアお嬢様の警護に当たることはないと思います」

 はっきりと言い切った。

 

 庶民出身の私に付き従いたいと思う従僕はいないだろが、拒絶しすぎだ。やはり怪しいか……?


 いまいち確証を持てないが、身の安全のためにも、ヒューゴには近づかない方が賢明だろう。


 余計な告げ口をヘイゼルにされては困るため、「わかったわ」とだけ返し、部屋へ戻ってきた。


お読みいただきありがとうございます。

新キャラクター、ヒューゴの登場です……。

引き続きよろしくお願いします!

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