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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
幕間:干からびる? それって最高じゃないですか!

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海釣りに行こうと思うのですが

「そういうわけで、釣りに行ってきます。外出許可ください」

「待て待て待て。だから、散歩に行く感覚で後宮を出ようとするなと……」


 内侍省長官室の主は、私の言葉に額を押さえた。


「それに『そういうわけで』の意味がまったくわからん。訪ねて来て開口一番に言う台詞ではないぞ。まったく、なんだその格好は」


 私の右手には釣り竿が握られ、腰には魚籠(びく)が結ばれている。ヒラヒラとした美しい衣装は、たすき掛けで袖が結ばれている。


「……後宮の女人がしていい格好ではないな」


 冬長官が目頭を揉んで言った。ぼそっと「芋」って言ったの聞こえたぞ。


「私は後宮の居候なので問題なしです」


 本当はこのびろびろと長い裾もはしょりたかったが、菜明に泣いて「それだけは!」と止められた。別に皇帝の奥さんじゃないから、格好なんか最低限でいいと思うんだけど。


「はぁ……で、今度はなんで後宮から出たいんだ?」

「だから魚釣りに行くんですって。許してくれないんだったら、后妃様達の宮の池を釣りツアーで巡回しますが?」

「悔しいが、その巡回はちょっと見てみたい……が、面倒事になるのは間違いないから、ひとまずやめろ。しかし、魚釣りとはまたどうして? 料理がしたいのであれば、食膳処で魚は手に入るようにしているはずだが」


 私が好きに料理ができるようにと、冬長官が後宮の食膳処に融通してくれていた。だから、食材や調味料も頼めばもらえるから、ありがたい。(多分、私の料理が冬長官の食事源だからってのもあると思うけど)


 ただ、生ものに関してはやはり鮮度が落ちる。どれだけ良い食材でも、王都に運ばれ王宮の食膳処に辿りつくまで、それなりの時間がかかる。基本的に生ものは、近場で取れたものを使っていたり、氷室を使い鮮度が落ちないようにと工夫はされているようだが、それでも私が今回使いたいものは、もっと活き活きしている必要がある。


「釣れたてピチピチの魚がほしいんですよ」

「釣れたてピチピチ……」

「しかも、今回は川魚じゃなくて海の魚がほしいんです」


 近場で捕れる魚という制限があるせいで、国土の中央に位置する王都では、海の魚はなかなか出回らない。菜明に聞いたが、祭の時や皇帝や皇后が所望した場合などは、早馬を使って特別に輸送してくるらしいが、普段の料理にはそこまで手間は掛けられないのだろう。


「海までどうやって行くつもりだ。この間のような幌馬車では、一番近い海辺でも片道五日はかかるぞ」

「あ、そこは白ちゃんがどうにかしてくれるって話なんで」


 天上から地上まで股に掛ける神の前では、長距離なんかないに等しいのだ。


「忘れそうになるが、そういえばお前は白瑞の巫女だったな」

「私もよく忘れます」


「お前は忘れるなよ」とお小言をもらう。仕方ないじゃない。だって、料理くらいしかやってないし。


「わかった。白様もご一緒なら安心だ。外出を許可しよう」

「やった! ありがとうございます」


 そうと決まればさっさと出発しよう、と部屋を出て行こうとしたのだが、その前に冬長官に「待て」と引き留められる。


「おい、(セイ)(シン)!」


 冬長官は扉に向かって、彼の補佐官の名前を呼んだ。

 彼の執務室はそれなりの広さがあり、いくらなんでも座ったまま、どこにいるかも分からない補佐官を呼んでも声は届かないだろうと思った、のだが……。


「はぁい、呼びました? ピッチピチの青沁ですよ」


 すぐさま入り口の扉が開いた。


「お前、やはり聞き耳を立てていたな」

「やだぁ、僕がそんな下品なことするはずないじゃないですか。ちょっと立ちくらみがして、扉に寄りかかっていただけですよ。ほら、僕はこれこの通り、か弱く儚く美しい生き物ですから寄りかかるのもやむなしなんです」


 初対面の時も思ったが、この青年、結構面白いぞ。いけしゃあしゃあと自分を褒めちぎっている。


「この間、三人分の荷物をひとりで悠々と肩に担いでいた剛力が何を言ってるんだか……」

「きゃああああッ! みっ、見てたんですか!? いや違っ、それは僕じゃないです!」


 真っ赤になった顔を両手で隠して、イヤイヤと首を横に振る姿は、声の高さもあって官服を着ていなければ、女の人と間違えそうなほどだ。


(なのに、三人分の荷物をひとりで……)


 この青年、やはり面白いぞ。


「それで、僕に何か用ですか?」


 切り替えが早い。


「お前、海沿いの州出身だっただろう。釣り場を、ちょっとそこの妙な格好した巫女様に教えてやってくれ」

「えっ、僕が巫女様のお力になれるんですか!? やった! 恩を売る良い機会じゃないですか!」

「……冬長官、あの……」


 私が、青沁さんの滅茶苦茶あけすけな言葉を、冬長官に『これ官吏として大丈夫!?』と目で問えば、彼は瞼で頷いた。


「こういう奴だ。裏表がなくてわかりやすいだろう」

「ないっていうか、隠すべき裏が表に出ちゃってるんですけど、それは良いんですか」

「問題ない」


 問題大ありのような気もするが、彼の上司である冬長官がそう言うのなら、後宮では問題ないのだろう……多分。冬長官の目に、半分諦めの色が浮かんでいたのは、見なかったことにしておこう。


 それに私も、ここまで開けっぴろげだと嫌な気もしない。むしろ、このバ……素直さを、温かく見守っていこうと思えた。




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