表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
八品目:脇役が味を引き立てる! さっぱりサクサクミルフィーユフライ定食

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/64

白澤推しの方です?

「ばつ?」


 私は両手の人差し指を重ねて『×』印を作る。


「それではない。おお、そうだ。白澤図を出して(ばつ)と念じてみよ」


 私は「白澤図」と唱えて、手の中に白澤図を出す。そして、言われたとおり『魃』と念じてみる。すると、ページがひとりでパラパラとめくれ、『魃』と書かれているところでとまった。

 文字は薄墨で書かれていたが、読めないことはない。


「んん……? えっと、『ひでりがみ。その身に大量の熱を蓄え、周囲に振りまく』。ひ、ひでりがみ……あっ、日照り神ね!」


 魃とは神様のひとりだったらしい。


「そう、神じゃ。人間にとっては、恐るるべき神なのだろうな。干ばつなど、魃が原因のことが多いからな。しかし……てっきりワシは、人の世の夏はこういったものだと思ったのだが……」


 すると、卓に転がっていた月兎がぴょこんと耳を立たせたかと思うと。


「バツ……ダメ」


 と言うやいなや、跳躍してあっという間に姿を消してしまった。


「え、何なに!? ちょっと、月兎!? 何がダメなの、ちょっと! 怖いんだけど! ねえ!?」


 まさに脱兎。いや、どういうこと!? そんなに魃って神様、怖いの!?

「白ちゃん……!?」と縋るように見たら、白ちゃんははぁと嘆息して、どこに言うでもなく声を張り上げた。


「魃! いるのだろう、出ておいで」


 私も菜明も冬長官も、息を殺して部屋の中を見渡す。しかし、シーンとしていて反応はない。


「魃!」


 もう一度、白ちゃんが叫んだ。

 すると、部屋の一番隅にある柱の陰から、すうっと女の人が顔を出した。

 白ちゃん以外全員がビクッと肩を揺らした。いつからそこに……!


 真っ白な髪は、薄暗い部屋の隅では一等目立っていた。顔貌は、さすが神なだけあって美しい。すうっと斜め上に伸びた眉と目尻と、肩口で揺れているまっすぐに切り揃えられた髪もあいまって、全身から強い女感が滲み出ている。


 キュッと引き結ばれた口は口角が下がっており、実に不機嫌そうだ。『何かやっちゃった!?』と、私はつい身体を仰け反らせる。冬長官すらも、気圧されて僅かに身体を引いていた。


(もしかして、知らないうちに失礼なことして、魃様の怒りを買ったとか!?)


 だから、ここの宮だけこんなにも暑くされていたとか。

 しかし次の瞬間、彼女の堅固そうに結ばれていた口が、情けない形で開いた。


「は、はわわぁ、あわぁ……は、白澤様……本当に白澤様じゃあ……っ」


 おっと……?

 こちらを見つめる――というか、白ちゃんだね。白ちゃんを見つめる彼女の目は、先ほどまでキリッと吊り上がっていたのに、今は見間違いかと思うほどに垂れ下がっている。さては、白ちゃん推しだな?


「いつもの凜々しいお姿ではなく確信がもてなんだが、(わらわ)を臆せず呼びつけるその尊大さ……まごうことなく白澤様じゃあ……っ」


 尊大って、そんなキラキラした眼差しで使う言葉だったっけ? 白ちゃん、ちょっと嬉しそうにしてるけど、多分褒め言葉じゃないけど大丈夫?


「白澤様が下界へと降りられたと聞き申して、妾もと思いやって来たのじゃが……」


 すると、魃様の垂れ下がった眉宇がさらに垂れ下がり、目もキラキラではなくうるうるしはじめる。あら?


「やはり……っ、やはり、妾の存在は迷惑なのじゃなぁっ!」


 いきなり彼女は、両手で目元を押さえておいおいと泣き出してしまった。ズルズルと両足を外側に曲げてへたり込む姿は、まるで幼い女の子が泣いているようだ。本当に「わぁぁぁんっ!」って泣く人はじめて見たよ。ちょっと可愛い。


 白ちゃんと目が合えば、白ちゃんはその目を半分にして軽く首を揺らした。その様子は、『困った』というよりも『またか』という色が強い。

 白ちゃんは椅子を降りて、トコトコと魃様の元へと歩いて行く。


「落ち着け、魃よ。誰も迷惑などと言っておらぬではないか。ほら、どうした? なぜワシを訪ねて来たんじゃ。そう泣いていてはわからぬではないか。聞いてやるから理由を話せ」


 声だけ聞けば、まるで孫娘をなだめるおじいちゃんのようだ。

 視覚的には、牛と美女という、あり得ない組み合わせなのだが。しかも牛のほうが、美女の膝をトントンと叩きながらなだめている。


「現実の光景とは思えんな」

「神様の世界はなんでもありなのですね」


 冬長官と菜明も似たようなことを思ったのだろう。おののいたようにボソリと呟いていた。


「妾、妾っ、白澤様に会いに行ったらのじゃ。そうしたら天上にはおられず、地上へと降りたというではないか。白澤様が、()()()()()()()があった地上に向かわれるなど珍しきこと。しかも全然お戻りにならぬし、なんぞあったのかと心配で……っ」


 この国の歴史を知った私には、彼女の言う『あのようなこと』がなんなのか、もう理解できてしまう。冬長官と菜明が目を伏せ、僅かに顔を逸らした。

 はるほど。つまり彼女――魃様は、白ちゃんが全然天上世界に戻らないから、また人間に捕まっているのではないか心配になって、様子を見に来たということか。


「あの、魃様。ここには白ちゃんを困らせるような人はいないので、安心して――」

「できるわけがなかろう!」

「うわっ!?」


 ください、という私の言葉は、彼女の張り上げた怒声によってかき消され、代わりに突風のような熱波が襲ってきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ