いただきます!
「酸辣湯というと、酢と唐辛子でしょうか」
「ちょうど青菜の炒め物に黒酢が使ってあるようだったからね。食欲がなくても、栄養はきっちりとらないと倒れちゃうし。野菜は重要」
野菜不足だと疲労感マシマシになるし、さらに食欲もわかなくなって野菜食べなくなって、また栄養足りなくなって、の悪循環に陥ってしまう。
クツクツと温まってきた羹に、さらに酢と輪切りにした唐辛子をパラパラと入れる。青菜の濃い緑と唐辛子の赤色が入って、見た目にも美しい。
「酸味って疲労回復にもなるし、辛味には食欲増進効果があるの。羹にしたことで、するっと喉に入りやすいから、これ一杯で、落ちた体力を取り戻せるから」
「私も酸辣湯は好きです。さっぱりした後にピリッと残る仄かな辛味が良いですよね」
「人間の食べ物は美味いからのう」
「ウマー」
楽しそうに鍋を取り囲む三人に火の番は任せ、私は最後の一品にとりかかる。
「里芋はせっかく素揚げされてるから、これはこのまま使おうかな。でも、かかってるタレの味だけは変えたいな」
私は、何かないかなと様々な調味料をしまっている戸棚の中を、ガチャガチャと探す。そこで「おっ」とひとつの両手大の壺を見つけた。
ちょうど良い、これにしよう。梅フライとの相性は絶対良い。
蓋を開けると、甘く芳醇な、梅干しとはまた違った甘い花の香りがする、黄色のもったりとしたもの。梅ジャムである。
「同じ梅だし、相性悪いわけないんだよねえ」
梅ジャムを味醂で緩くして、醤と塩を少々加えてあとは混ぜるだけ。
味醂だが……あった。というか、料理用としてではなく高級な酒が味醂だったのだ。
料理をはじめた頃、酒は手に入れることができたが味醂は探してもなかった。砂糖はあったから、別にいいかと思っていたけど、やはり『甘さを加える』のと『素材のうまみを引き出す』のとでは微妙に違う。ないなら自分で作るしか……と思っていたところ、冬長官に相談したら、「甘い酒のみりん? それは蜜淋のことじゃないのか?」と、あっさりと持ってきてくれた。
茶色い古めかしい瓶に入ったそれは――『見ればわかる、たっかいやつやん』のやつだった。
確かに、味醂はお酒として飲むこともできるって言うし、調味料ではなく酒として扱われていてもおかしくはない。香りを嗅いだ感じ、向こうで使っていた味醂よりもアルコールが強めのようだ。
混ぜたソースを平鍋に移し、ちょっとだけ火にかける。味醂のアルコールを飛ばす。せっかくだし、里芋を菜箸に突き刺して、直火で表面も軽くあぶる。地球のように丸い里芋の表面に、大陸のような焦げ目が作られる。新大陸、めっちゃ美味しそう。
里芋を盛り付けて、上から梅ジャムソースを垂らせば、黄金色のとろーりとしたタレが白い里芋を覆っていく。艶々としたタレの奥で、茶色い焦げ目がチラチラと見えている。白と茶のコントラストを黄金色がまとめあげ、これこそまさに黄金比じゃなかろうか!
最後に、油切りをしていたサクサクミルフィーユフライを真ん中から切れば……。
「ふわあぁぁぁぁっ」と、菜明の吐息混じりの感嘆が漏れた。
荒削りなきつね色の衣の中かな現れたのは、ほっかほかのゆげと、ふっくらした白身魚。そして白と白の間に、ルビー色の梅ソースと緑の大葉が間に挟まる。
皆の喉が、ゴクッと生唾を飲んだ。そそくさと無言で皿に載せ、広間へと運んでいく。
「いただきますっ!」と、四人の声が重なった。
さっそく揚げたてのサクサク感を味わうために、ミルフィーユフライから頬張る。
口に入れた瞬間、ザクッとした歯触りの後、じゅわりと垂れてきた梅ソースが口内を浸食した。鼻に抜ける梅の馥郁たる香りは、熱さも、暑さも忘れるほど爽やかで、大葉の独特な薬味がさらに爽やかさを増している。
ミルフィーユフライというと、大体は薄切りの豚肉を使用するのだが、蒸した白身魚を使っているおかげで、淡泊な味が梅の味を引き立てていた。梅を存分に味わってほしかったから、今回は余計な味付けは一切してないけど、それが正解だった。
噛めば噛むほどに、梅の酸味は油の甘さでマイルドになり、ふわっふわの白身魚に絡む。白身魚という素材のうま味が、衣や梅ソースといったその他全てによって引き出されている。
また、衣にマントウを使ったおかげで、パン粉よりもきめが細かくザクッと重みのある歯ごたえがある。中が柔らかい分、ザクフワのコントラストが楽しい。
「冬花はまぁ……こぇっ、めひゃくひゃおいひいでふっ!」
はふはふしながら喋っているせいで、菜明の言葉が面白いことになっていた。しかし、はふはふしながらも感嘆が漏れるのもわかる味だ。
「うん、これ白身魚にして正解だね」
しかも、一度蒸してある魚だったからか、蒸しウナギのようなふわふわ感が素晴らしい。豚肉よりも上品で、我ながら満足の仕上がりである。
他の二人はちゃんと食べられてるかな、とチラッと牛と兎の様子を窺えば、ミルフィーユフライの皿はいつの間にか空になっていて、もう羹の椀を両手で抱えていた。




