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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
八品目:脇役が味を引き立てる! さっぱりサクサクミルフィーユフライ定食

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ジュワアアアアアッ……は罪の音

 メニューは、白身魚の蒸しもの、青菜の黒酢炒め、野菜の(あつもの)、里芋の素揚げ、マントウ。羹はスープのことね。

 今回は、里芋の素揚げに辛そうな赤い辣油のようなものが掛かっている他は、味付けに特徴はなさそうだ。淡泊そうだし、充分リメイクできる。


「にしても……」


 私はスープをひと口飲んでみる。


「……冷めてる方だよね」


『冷たい』のではない。『冷めている』味だった。

 冷たい料理と温かい料理とでは、舌が感じる味の濃さに差が出るため、味付けが微妙に異なってくる。暑いから熱いスープよりかはマシだが、味を考えると決して美味しいとは言えない。これもリメイク対象だ。


「冬花。りめいく、とはなんじゃ?」

「料理を別の料理に生まれ変わらせることだよ」

「すでに調理されたものを、再び料理するのですか。タレをかけるくらいしか思いつきませんが……」

「ふふふ、任せなさい」


 白身魚の皿をじっと見つめる菜明に、私は人差し指を左右に振った。

 よく家では、二日目のカレーをカレー肉じゃがに、最後はカレーコロッケにしていた。料理を無駄にせず、かつ、何度でも美味しく食べられる料理の工夫だ。

 いつの間にか私の衣装のヒラヒラした袖は、わかっている菜明によってキッチリとたすき掛けで留められていた。菜明を侍女にして本当に良かった。


「それじゃあ、皆で作っていこうか」


「オー」と四本の手が上げられた。




        ◆




 最初に作るのは、【さっぱりサクサク! 紅白ミルフィーユフライ】だ。

 白ちゃんと月兎に、梅干しを外側の実だけにして、すり鉢でトロトロになるまで擦るように指示する。梅干しが結構肉厚だったから、五、六粒でちょうど良い感じだ。すり鉢を、月兎よりかは身体が大きな白ちゃんが短い手足で固定して、月兎が長いすりこ木を器用にゴリゴリと回している。


「……っっと、冬花様……これ、あのこれ……っ」

「わかる。わかるよ、菜明。私も今すごく胸がキュンキュンしてる。今すぐ絵師を呼びたいくらい」

「はぁ、はぁ……で、できればご高名な宮廷絵師様で……っ」

「落ち着いて菜明。息が荒いし、欲望が結構高望み」


 しかし、気持ちは分かる。

 この世界にカメラがないのが、こんなに口惜しいだなんて……っ!


「じゃなくて、こっちも料理はじめるよっ」


 いけない、いけない。このままだと梅ソースしかできないところだった。


「菜明は魚の表面の水分を布巾で軽く拭いて、横の台に一枚ずつ並べていって」

「かしこまりました」


 蒸された白身魚は大きめの刺身のようにそぎ切りにされており、ちょうどいいからそのまま使うことにした。すると、白ちゃんが「できたぞ」とすり鉢を前脚でコンコンと叩く。


「うん、上手上手! ありがとう」


 とろりとした輝くような赤色は、まるでルビーを溶かし込んだ湖のよう。潰したおかげで、鼻にツンときていた酸っぱい香りもマイルドになり、隠れていた爽やかさがより際立っている。


「それで、次は何をすれば良いんじゃ」

「ナニー?」


 お手伝いはこれくらいに、と思っていたが、どうやら二人はまだまだやる気満々のようだ。白ちゃんは闘牛のように前脚で卓を引っ掻いて、今にも突進してきそうだし、月兎は「ハヤク仕事ヨコセー」とばかりに、すりこ木を卓にトントンと打ち付けている。圧をかけられているが、見た目がキュートすぎるせいで、随分とマイルド。

 しかし、そこまで希望するのなら仕方ない。仕事を与えることにしよう。


「じゃあ白ちゃんは、菜明が並べた白身魚に、これでさっき潰してくれた梅を塗っていって」

「うむ。任せろ」


 白ちゃんに匙を渡す。


「そして、月兎は白ちゃんが梅を塗った上に、大葉を置いていってくださいね~」

「ネー」


 サッと洗って水気を拭き取った大葉。月兎の顔くらいある、しっかりと緑に色づいた大葉は、白瑞宮の裏庭に作った月兎の畑産だ。神様の畑だからか、農薬もなんも使っていないのに虫食いひとつない。見本のような立派な大葉だ。


 菜明が白身魚を拭いて、白ちゃんが梅を塗って、月兎が大葉を置いて、私が二つずつ重ねる。重ねた後は、卵と小麦と、マントウを荒く削って作った白パン粉をまぶして、油を張った丸底鍋に投入!


 ジュワッ、心地好い音が弾ける。同じように作ったものを次々に入れていくたびに、ジュッ、ジュワッ、ジュワアアアアア、と暴力的なまでの快音が響く。やばい、音がお腹を刺激してくる。さっきまで、食欲すらわかなかったのに。


 揚げ物って、さらに暑くなるようなことやってても、絶対美味しいってわかる音を聞いたら、誰でもこうなっちゃうよね。油の音は罪の音である。横に並んでいる月兎も白ちゃんも菜明も、目を剥いて鍋を見ていた。


 元々蒸された魚だったから、衣さえサクッときつね色に仕上がれば、すぐに取り出してオッケー。

 油切りのため、竹で編まれた目の粗いざるの中に入れる。


「のう、冬花。食べて良いかのう」

「ノー?」

「香ばしい香りのせいで、先ほどからお腹かが絞られますぅ」


 待てないとばかりに、ざるに釘付けの三人。だけど、まだまだ。揚げ物はしっかり油を切らないと、べちゃっとなって美味しくないのだ。

 油が切れるまでの間、他の料理も全てリメイクしていく。


「じゃあ、次はあつものを温めなおそうか」


 しかし、ただ温めなおすだけじゃ芸がない。

 私は鍋に、野菜の羹と一緒に青菜の黒酢炒めも一緒に投入した。


「ええええ!? 混ぜ、えっ、えぇ!?」


 菜明が鍋と私との間で、驚きの顔を交互させた。ちょっと雑すぎた? 


「【野菜たっぷり、ピリッとすっきり酸辣湯】を作っていきます!」




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