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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
八品目:脇役が味を引き立てる! さっぱりサクサクミルフィーユフライ定食

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梅ジュースってポーションだっけ?

 万灯祭での役割も無事に終え、白瑞宮には再びなんでもない日常が戻ってきた……はずだったんだけど。


「いや、なんでもなくない。この暑さは無理だって」


 私は広間で、卓にべったりと頬をくっつけて項垂れていた。さながら溶けかけた餅。仕方ない。ひんやりした場所が、ここか柱か床しかなかったんだから。


 さすがに土足で歩き回っている床に顔をつけるのは躊躇われたから、柱にしがみついてたんだけど、菜明に見つかってものすごい悲鳴を上げられた。「白瑞の巫女様は、蝉のように柱にくっつきませんー!」って、即座に引っぺがされた。だから、こうして卓で我慢しているのだ。


「もう、梅ジュースじゃ乗り切れない……」


 卓の上には、四つの器が置かれている。私と菜明と白ちゃん用の杯と、月兎用の底が浅い器。中身は全て梅ジュースだ。


 いつもこの時間は天井で寝ている月兎だが、今日はあまりの暑さで喉が乾いたんだろう。

 突然、天井から卓にぽてっと落ちてきて、「ア、アツ……」ってプルプルしていた。即座に冷たい井戸水と梅シロップで梅ジュースを作り捧げた。ちょうど良いし、私達も一緒に梅ジュースで休息を取っていたところだ。


「日が高くなるにつれて、暑さがどんどん増してる気がするぅ」


 日本での夏も、迂闊に外に出ると焼死するほどの酷暑だったけど、それとはまたちがう暑さだった。なんというか、太陽が熱いというよりも、干上がるようなカラカラとした暑さだ。


「この国の夏ってこうなの? え、無理。毎年これは無理だって」


 大きなゼリーがあったら中に入りたい。ゼリーよ、私を保護して。むしろゼリーにして。ゼリー……ゼリーフィッシュ……くらげ? くらげになろうかなぁ、どうやったらなれるかな。


「白ちゃん、私をくらげにして」

「は?」


 聞いたことない、呆れ果てた声だった。ごめんって。


「だめ、もう頭が回んない」


 白ちゃんも少なからずのダメージを受けているようだった。月兎を見て思ったけど、やっぱり神様でも暑い時は暑いままなんだね。特に、白ちゃんも月兎も毛皮着てるし、そりゃ暑いよね。おかげで二人ともいつもより圧倒的に口数が少ない。ひたすらジュースと向き合っている。


「それにしても、今年の夏はいつもより暑いですね。例年ですと、とっくに乾燥した時期は終わっているはずなのですが……」


 清槐皇国は、夏に入る前に乾燥した時期がある。もちろん、今年もその時期はあって、菜明も冬長官も喉を涸らしていた。私は予防ばっちりで平気だったけど。

 しかし、その乾燥期ももう終わったはずなのに……。


 菜明の話によると、普段はこのような暑さにはならないらしい。暑いが風は涼やかで、決して兎が天井から転げ落ちてくるほどのものにはならないという話だ。

 菜明は杯に残っていた梅ジュースを、グビッと天井を仰ぐようにしてひと息に飲み干した。


「はぁ……梅ジュースがあって良かったです。水だとお腹がタポタポなるばかりですし、食欲もわきませんし。コレのおかげでなんとか生きてますね」


 ポーションじゃないんだから。

 だが、確かにサッパリ味の飲み物があるというのは、暑さを和らげるのには確かに有用だった。


 菜明の一気飲みを見て、私も白ちゃんも月兎も、残っていたジュースを同じように飲み干す。月兎が、ジュッ! と一瞬にしてジュースを吸い込んでしまったのには驚いた。ダ●ソンかな?


 この後に昼食を控えているのだが、まったく食欲がない。作ってくれた人に申し訳ないから全部食べるけど、けっこうキツい。


「ああぁぁ、せめて味付けが変われば。このままじゃ干からびる…………って、ん? 干からびる……そうだった!」

「ヘブッ!」


 私がいきなり立ち上がったことによって、膝の上に乗っていた白ちゃんが、床で顔面を強打して変な鳴き声を上げた。

 鈍くなっていた頭が一瞬だけ高回転して、今一番皆に必要なものを思い出させてくれた。


「と、冬花様。突然どうされたのですか」


 突然の私の行動に、菜明は目を瞬かせていた。


「思い出した。もう梅干しが出来上がってる頃だよ!」

「ウメェ?」

「ぼし……ですか?」


 顔を見合わせた月兎と菜明が、一緒にこちらを向いて首を傾げた。






「完璧! どこからどう見ても立派な梅干しね」


 厨房の台いっぱいに広げられた、シワシワの赤い実。ツンとした香りに混ざる赤しその爽やかな香り。



「これがあの梅シロップと同じ梅ですか? 香りを嗅いだだけで……キュウッて口の中が絞られます」


 口がキュッとするのは、どうやら世界共通のようだ。菜明は口だけでなく目も、ギュッとつぶっていた。

 梅雨も明けたし、梅を漬けてから一ヶ月ほど経ったから、数日前に天日干ししていたのだ。天気が良かったから、いい具合に干されている。


「冬花、こんな酸っぱい匂いのするものが、本当に食べられるのか?」

「キュッ」


 謎の生物を目の前にした猫のように、白ちゃんは前脚でツンツンと梅干しをつついている。台の上に座っている月兎は、匂いにやられたのか短い両手で鼻先を覆っている。何をしても可愛い。


「もちろんこれだけでも美味しいけど、今日はこの梅干しがメインじゃないんだよね」


 台の上には、梅干しの他にも乗っているものがあった。


「せっかくだから、お昼ご飯をリメイクします!」


 それは、つい先ほど運ばれてきた昼食である。




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