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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
七品目:万灯祭とカリッとじゅわ~なフレンチマントウ

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カリッ! じゅんじゅわ~

 取り出した籠には布巾が掛けてある。その下には、白い饅頭――マントウがぎっしりと並んでいた。


 マントウは、簡単に言うと肉まんの皮でできた饅頭。中には何も入っていなくて、味もほぼなく生地のみ。主食のひとつとして食べられているものだ。普段はおかずを挟んで食べたりしている。


 ひとつ摘まむ。

 そこそこ弾力はあるがふかふかしていて、表面はつるんと光っている。この皮のテカリが惹き付けられるんだよねえ。つやつや真っ白、触ったらふわっふわ。これで惹かれないほうがどうかしている。マントウがそこらに置いてあったら、すぐホイホイされる自信がある。ゴッキーみたい? うるさい。


 さて、なぜこんなにマントウが大量にあるのか。

 それは、私が菜明に頼んだから。マントウの材料がパンとほぼ一緒と聞いた私は、厨房からたくさんもらってきてもらった。


「それって、マントウが作れるならパンも作れるってことなのよね。今度、ゆっくりパンでも作ろ」


 パンが作れるようになったら、料理の幅が広がる。コッペパンサンドとか作って、ピクニックとかしたい――って、今はパンのことは置いといて。


 私は竈に火を入れ、油を敷いた平鍋を熱する。

 その間に、卵と砂糖、牛乳を混ぜ合わせた液を作る。この時、砂糖はちょっと控えめに。


 マントウはパンよりも目が詰まっている分、液の吸収が良い。何度も液に浸して、マントウを卵液しみっしみにしていく。

 そうして、卵液がしっかりとマントウに吸われて、ずっしりと重くなったら遠慮なく即鍋投入。

 ジュウッと、心地好い音が上がる。


 (しゃく)()で饅頭を押さえつけ、表面をカリカリになるまで焼いていく。マントウから染みこんだ卵汁があふれ出ては香ばしく焼ける。

 砂糖を入れているから立ち上る香りがほのかに甘くて、お腹が減ってきた。

 焼ける音が小さくなったら裏返して、同じようにしっかりと表面を焼く。思いっきり押さえつけたから、ふっくら丸かったマントウが、半分の厚さになってしまった。

 しかし、これで正解。


 雪のように白かったマントウは、美味しそうなきつね色に仕上がった。表面のパリパリとした焦げがまた堪らない。甘さと香ばしさの香りで、クゥと腹が鳴った。

 仕上げに、砂糖と牛乳をトロトロになるまでまぜて手作った練乳を上から惜しみなく掛けた。トロリとした練乳がマントウの表面を覆って、更に美味しい水たまりを作った。


「名付けて、フレンチマントウ?」


 ちぐはぐ感が拭えないけど……ま、いっか。美味しければ料理名なんて。 



 

        ◆



 

「ん~~っ!」


 梅ソーダをひと口飲んだ鵬姜様は、長いまつげをパシパシと瞬かせながら瞳を煌めかせていた。


「驚きましたわ。水がパチパチと口の中で踊るんですもの。爽やかだし、これから暑くなるから毎日でも飲みたいですわ」


 鵬姜様はコクコクと細い喉を上下させながら、あっというまに杯を空にしてしまった。


「しかも、これがあの梅という花の実からできているだなんて……あの青いだけの実がここまで、華やかな香りを放つだなんて、クセになりそうですわ」

「いつでもどうぞ。ただし、喉を痛めている時は梅ソーダは駄目ですよ」

「あら、どうして?」


 梅は喉にも良い。梅のど飴があるくらいだし。

 ただ、炭酸自体は刺激物だから喉を痛めている時は悪化させてしまう。


「なので、痛めている時はただの梅ジュースを出しますから」

「まあ、同じ梅の飲み物でも違うのね。難しいわ」


「そうですね」と言って、私は少し離れたところに立っている菜明を手招きした。


「菜明も一緒にお茶しよう」


 いつも、お茶は菜明と一緒にしている。はじめの頃は遠慮していた菜明だったが、今では呼べばすっかり抵抗なく来てくれるようになった。

 しかし、珍しく今日は首を横に振る。


「侍女ですので。お客様がいらっしゃった時は、しかりと役目を果たさせてください。でないと、主人の顔に泥を塗ることになってしまいます。ご容赦ください、冬花様」

「あら、宮女上がりなのに、意外としっかりしてますわね」

「元々、菜明はしっかりしてますから。それじゃあ、まだあるし、後で一緒に食べようね」


 菜明は微笑むと一緒に頷いてくれた。


「侍女と主が一緒にお茶ねえ……本当、この宮は調子が狂うンンッ、おいし!」


 喋りながら食べたせいで、鵬姜様の語尾が変なことになっていた。


 分かる分かる。このフレンチマントウは、外側がカリッとしているのに、中はよく浸かった卵液のおかげでとろけるプリンみたいに滑らかで、ひと口噛むとジュワッとジューシーなのだ。そして、マントウを覆うようにかかる練乳。マントウ自体の甘さは控えめだからこそ、脳に響く甘さの練乳もちょうど良いあんばいになる。


 フレンチマントウはペロリとなくなった。注ぎ足してくれた梅ソーダで締めれば、甘くなった口内も洗い流され、サッパリなった。


「まさか、これがマントウだったなんて……こんなのはじめてですわ」


 鵬姜様も私も、お腹を撫でながらほうと息を宙に放った。

 目が合えば、なんだかおかしくって二人して小さく笑ってしまう。


「あ、マントウで思い出しましたわ」


 鵬姜様がパチンと手を打つ。


「今度、宴があるじゃない?」

「ああ、以前歌うと言っていたあれですね」

「ええ。(まん)(とう)(さい)っていうのだけれど。巫女様も出ると聞いて……」

「え、誰がです?」

「あなたですわ、巫女様」

「嘘」

「本当……って、何も聞いてないんですの?」


 見合わせた顔が、鏡写しのように傾いていく。

 すると、またしても扉が叩かれた。

 返事をしたと同時に扉が開く。これ、返事しなくても勝手に入ってきてただろうな。そして、案の定今度は正真正銘の冬長官。


「冬花殿、今度の万灯祭に出てもらうことになったんだが」


 入ってくると同時に用件を言われ、私は鵬姜様に目線を送る。


「今聞きました」

「みたいですわね」

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