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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
幕間:先生は年下の天才君

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神去りの国

「神様自体がありがたい存在だけど、後宮妃で喩えるなら、僕達の生活に関わるような神様は、九嬪や二十七世婦ってところ」

「じゃあ、瑞獣は?」

「四夫人だね。姿を現すことも稀で、他の神々にも崇められる存在だよ」


 まさか、白ちゃんがそんなに貴重な存在だとは。

 今もきっと、おやつにと作り置きしてきた梅蜜掛け白玉を食べて、膨れたお腹を天井に向けて倉庫で寝ているだろうに。


 梅ものを置いているため、倉庫の中は常に梅の良い香りが充満しており、白ちゃんの最近のお気に入り昼寝スポットになっている。


「……だから、時の皇帝は、現れた瑞獣を目の前にして我慢ができなかったんだろうね」


 楚雄君の顔が悲痛に歪んでいた。


「皇帝は……何をしたの……」


 無言でページを捲る乾いた音が、もの悲しさを強調する。


「鎖に繋いだんだよ。瑞獣が酒に酔って寝ている間にね」


 瑞獣が姿を現すことは滅多にないが、全員が人間を嫌って現さないわけではない。

 中には、人間に親しむ瑞獣もいるのだとか。


 神は気まぐれだ。だからこそ、人間の前に姿を現すのも稀少なのだ。

 そして、とある瑞獣が気まぐれに王宮に姿を現した。

 今から三百年前の出来事だ。


 瑞獣と言うくらいだ。その姿を見た者は瑞兆に恵まれると言われており、誰しもがひと目見ようと王宮に集った。皇帝は瑞獣歓迎の酒宴を開き、美酒美食で囲み、少しでも長く王宮に滞在してもらおうとした。


 瑞獣は酒飲み話に、様々な知恵を皇帝に授けた。

 その知恵の多さから、皇帝はますます瑞獣がずっと王宮にいてくれればと願うようになった。酒宴は三日三晩続き、王宮には絶えず管弦の音色が響き、火は焚き続けられ、話に聞く桃源郷のような賑わいだったのだとか。


 そうして、瑞獣が騒ぎ疲れて眠った隙に、皇帝は臣下に命じて瑞獣の脚と首に鎖を掛けさせた。

 鎖には特別な術が施してあり、目覚めた瑞獣が鎖を千切ろうとしても敵わなかった。


「ひどい……そんなだまし討ちみたいに」

「皇帝の気持ちも分からなくはないけどね。瑞獣が傍にいたら、ずっと国は栄え続けるだろうって思ったんじゃないかな。皇帝は……この国のすべてに責任を負わなきゃならないんだもん。皇帝も半分は人間だし、心の弱い皇帝だったんじゃないかな」

「でも……」

「うん。だからって、鎖を掛けて捕まえて良い理由にはならないけどね。僕なら、酒宴じゃなくて議論で三日三晩使うね。そして、相手が眠くなってきたところで、蟻みたいなちっさい文字で書かれた『呼ばれたら行くよ』っていう内容の契約書に署名をさせる」

「あ、悪どい」


 いや、契約書を交わそうとしているからまだ誠意があるのか? でも、酔ったところに小さい文字の契約書は、やっぱり悪どいと思う。


「そこは策士って言ってほしいね」

「そんな爽やかな顔で……」

「ははっ、王宮(伏魔殿)は腹がどれほど黒いかで上に行けるか決まるからね。黒ければ黒いほど良いんだよ」


 こんな十六歳嫌だ。


(楚雄君といい冬長官といい……王宮に勤める人はクセが強くないと生きていけない病気なのかな?)


 急に平々凡々である自分ごときが、ここで生きていけるのか不安になってくる。


「そ、それで、その瑞獣はどうなったの」


 皇帝陛下へ挨拶に行った時、瑞獣とおぼしきものの姿は見なかった。一瞬、脳裏に『死』という言葉がよぎる。


「瑞獣は数ヶ月くらい王宮に拘束されてたみたいだけど、当時の皇国四家の当主達が、皇帝を説得して無事に逃がしたって話だよ」

「良かったあ」


 ホッとした。拘束されたまま死んだとかだったら悲しすぎたところだ。想像しただけで涙出そうだし。


「良かった……ねえ」


 含みのある言い方だった。


「それからだよ。僕らの国が『神去りの国』って呼ばれるようになったのは」

「あっ……」


 その言葉は、ここに来てからよく聞いた言葉だ。


「瑞獣は当然、地上を去った。そして、地上にいた天神達の多くも、天上へと去って行った。地神達も多くは人間の前から姿を消した。自分たちが崇める存在に鎖を掛けるなんて、畜生と同じ扱いをしたんだ。怒って当然さ」

「だから皆、神去りって自嘲するように言って……」


 確かに三百年前の人がしでかしたことだろうが、これに関しては人間側を擁護できない。

 三日三晩も王宮にいたのなら、その瑞獣はきっと人間に心を許していたはず。なのに、起きたら鎖に繋がれていたなんて、ひどい裏切りだ。人間不信になって、天上に引きこもってしまっても仕方ない。


 どんなに悲しい思いをしただろうか。

 信じていた者達に……好きだった人間に裏切られて、どれほど心が傷ついたことか。


 しかし、今のこの国の人達は、瑞獣に何もしていない。擁護はできないが、このまま見過ごすこともしたくない。


「その瑞獣は今どうしてるんだろうね」


 一応、私は白瑞の巫女だし、白ちゃんにお願いしたら会わせてもらえるかな。

 地上に降りてきてなんて言うつもりはないけど、少なくとも今の人達は、過去の人達の行いを後悔して、しっかりと自省してるよと伝えたい。


 白ちゃんや月兎、梅さんやこの間の殺生鬼様――皆とっても良い神様達だ。

 できれば、そんな良い神様達と皆も仲良くなってほしい。


「ん? 巫女様は知ってるでしょ。会ったことあるんだし」

「え?」

「その瑞獣ってのが、白澤様だよ」

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