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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
六品目:炙りツナマヨおにぎりと鶏カラ醤…

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やっぱり旅にはお弁当!

「神様がいるって言われた池がこんなんじゃ、その神様も悲しくなると思う」


 以前なら、神様はただの概念でしかなかったけど、今では私達と変わらない存在で、ちゃんとそこにいるって知っているから。

 本当にここに神様がいたかは知らないけど、汚れたものをそのまま残して帰るのって、なんか気分悪いしね。


「ごめんね、私の自己満足でしかないけど。手伝ってもらって良いかな」

「そうですね。私も神様がいたと言われた池の姿を見たいですし、私は冬花様の侍女ですから。冬花様が望むことの手助けをするのが私の役目です」


 仕方ないなあ、とばかりの微苦笑で頷いた菜明は、私の髪が汚れないように、頭の高い位置で結い直してくれた。


 後ろで「まったく……冬花様は」と小さくぼやいていたが、その声は呆れというよりもどこか楽しげで、つい私も「ごめん」と小さく肩を揺らしてしまった。


 菜明は『侍女だから』なんて言うけど、私にしたら面倒見の良いお姉ちゃんみたいに思える。一人っ子だけど、いたらこんな感じなんだろうなって……。ちょっとくすぐったい。


「冬長官も良いですか。身体動かすのとか慣れてなさそうですけど」


 いつも座り仕事の人だ。しかも長官なら、掃除もやったことないのではなかろうか。

 冬長官はひとつ大きく息を吸って、長く吐き出した。


「……仕方ない。確かに長官になってから身体を動かす機会も減ったからな。ちょうど良い運動だ」


 付き合ってくれるらしい。

 池を見れば分かると思うが、自分も汚れるというのに。

 意外と情はあるのかもしれない。


「しかし、本当に危険はないのか。特にお前の身に何かあったら、俺も菜明も首を斬らねばならんぞ」


 同じく菜明に髪を結われている冬長官が、怖い脅しをつけて尋ねてくる。

「大丈夫です、私は白瑞の巫女ですから。なんか多分……神々しい何かで守られてるような気がします!」

「自信満々に曖昧さを押し出すな」


 それに白澤図もあるし。何かあれば、白ちゃんに駆けつけてきてもらおう。


「ま、確かにお前は簡単には死ななそうだ」


 どういう意味だ。




        ◆



 さすがに掃除道具の用意はしてなくて、村にある菜明の家を訪ねた。

 池を掃除すると言ったら驚かれ心配されたが、大丈夫と押し通して掃除の準備を終えた。



 袖をまくり裾をまくり格好など気にせず、藻をかき寄せ、泥を掬い、木片を取り除く。水深はそこまで深くはなく膝上程度だ。底の掃除は身長がある冬長官に任せ、私と菜明は大きな物や水面の汚れを掃除していく。


「このままぷくぷく~って泡も復活してくれたら良いのになあ。ああ~炭酸飲みたい~」

「それほどに炭酸とは良いものなのか?」


 炭酸を渇望する私の愛おしげな声に、冬長官の耳がピクッと揺れた。

 食べ物に関する話題には、すぐに食いつくんだよね、この長官様は。


「飲んでも美味しいですし、料理をさらに美味しくする万能水なんですよ」


 天ぷらの衣に炭酸水を使うと、それだけでサクッサクの天ぷらになるし、パンケーキに混ぜるとふわっふわになる。一度使うと、料理のクオリティが手軽に上がるし、やめられないチート材なのだ。


「えっ、冬花様のあのお料理の数々が、まだ美味しくなるんですか!」

「数々? 菜明はそんなに冬花殿の料理を食べたことが?」


 なぜちょっと不穏な空気を出すのか、彼は。


「当然ですよ。私、お腹空いたらよく料理してますし、その時は菜明と一緒に食べますから。さすがにひとりだけで食べるとかしませんって」

「侍女の特権でございます」


 菜明もあおらないで。


「……次から俺も呼べ」

「なんでですか。仕事が忙しいでしょう」


 山のような仕事があるくせに、白瑞宮まで来て休憩している暇はないだろう。

 しかも、彼は呼ばなくても勝手に来るし。


「仕事をしてほしければ、お前の料理を食べさせろ」

「その脅しが私にきくって思ってます?」


 部下にしかきかないと思う。

 そうこうしている内に、池の水の透明度が上がってきた。どうやら水は絶えず湧いては、底のほうから流れ出て循環しているようだ。


「あらかた綺麗になったし、一度休憩して水が落ち着くのを待つか」


 冬長官の提案で、私達は池から上がり池の畔で小休憩を取ることに。


「ちょうど良かった。お腹空くかなって、昨日泊まった宿で厨房を貸してもらって、お弁当を作ってたんですよ」


 私は風呂敷に包んでいた竹籠を取り出し、広げて見せた。

「わぁっ!」と菜明の喜声と、「おう」という冬長官の感心の声が上がる。


「食材をあんまり使うのは良くないかなって、ちょっとおかずは控えめですけど」


 もちろん食材代は宿代と一緒に払った。冬長官が。

 竹籠の中身は、笹にくるまれたおにぎりと卵焼き、そして鶏肉の串焼きだ。

 青々とした笹の包みからご飯が出て来るの、絵面がもう美味しい。


「笹の葉のこれ……あっ、中身はご飯なんですね」

「おお、(ちまき)か。久しぶりに食べるな」


 二人は、まず笹包みのおにぎりを手に取った。

 笹特有の清々しさと、微かに香る味を邪魔しない程度の甘い匂いは、時間が経ったおにぎりでも食欲をわかせてくれる。

 私も二人と同じく、最初におにぎりを手に取って齧りつく。

 両側から「ん!」と、二人の驚いた声が上がる。


「ご飯の中に何か入ってます!」




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