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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
六品目:炙りツナマヨおにぎりと鶏カラ醤…

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しゅわしゅわ求めて三千里!

 聞けば、菜明の実家近くの竹林の中に、ポコポコと泡立つ池があったそうな。

 昔は水場にも使われていた美しい池だったそうだが、村に井戸を作ってからは池に行く人も減り、今は水の色は緑に濁り、異臭が漂い、誰も近付かなくなっているという。


 汚いし埋め立ててしまおうという意見もあったが、いざ池を埋め立てようとすると、水が泡立ち、頭痛や吐き気を訴える村人が出て作業が出できず、立ち入り禁止となって未だに手付かずにのままらしい。


「私も、小さい頃から両親に池は危ないから近寄るなと聞かされていて……一度こっそりと遠くから覗いたくらいでして、確かに澄んでいるようには見えませんでしたね。すみません、そのような水が使えるはずありませんよね、余計なことを言いました」


 申し訳なさそうに頭を下げた菜明が再び顔を上げる前に、私は手を打った。


「よし、行こう!」

「え」


 中途半端に頭をもたげた菜明が、「どこに」という顔をしていた。


「ひとまず、後宮の外に出るんだし許可はいるよね。菜明、内侍省とその池までの案内よろしくね」

「ええぇ!? 後宮を出るということですか!?」

「当然」


 少しでも可能性があるのなら、私に行かないという選択肢はない。


「そこまでして、その、たんさんとやらがほしいのか」


 白ちゃんが、もう何杯目か分からない梅ジュースを飲みながら、呆れたような目を向けてくる。


「だって、ウ●ッシュが飲みたいんだもん!」


 こればっかりは諦められないのだ。



 

        ◆



 

 辿り着いた内侍省入り口で、菜明が「白瑞宮の者ですが、冬長官にお話があります」と歩いている官吏の人に言ったら、官吏は小さく飛び上がってすぐに冬長官の部屋まで案内してくれた。


「というわけで、お外に行ってきますね」

「待て待て待て。庭に出るくらいの気軽さで、後宮を出ようとするな」


 冬長官は盛大な溜め息を吐いて、筆を置いた。

 そんなに変なことを言っただろうか。


「後宮は特別な許可がない限り、女人が出ることは許されていないんだ」

「それって、後宮に勤めてる女の人の話ですよね。私、皇帝陛下の后妃じゃないですし、対象外かと。むしろ後宮の居候みたいな立ち位置ですよ」

「そこまで過小評価せずとも……」


 でも実際に、后妃達みたいに皇帝の世継ぎを産むとか、菜明みたいに誰かの世話をするとかいう仕事もない。白瑞の巫女だなんて言われてるけど、じゃあ国の役に立っているかというと、そうでもない。居候以外の何者でもないと思うが。


 それにしても、彼が残業まみれなのも分かった。

 先ほどから、ひっきりなしに執務室の扉を叩く音がしている。そのたびに、案内してくれた官吏が「来客中です」と追い返している。きっと、同じ内侍省の官吏が決裁や確認に彼を訪れているのだろう。


 机の上にも、未処理だろう紙や巻物がごちゃっと置かれている。

 もしかしたら、彼にとって白瑞宮でのおやつや夜食は、息抜きなのかもしれない。


「外出を許してくれれば、冬長官にも良いことがありますよ」

「なんだ、そのぬるい交渉は」


 私は、菜明の村へ行くことと、その目的を伝えた。



「たんさん? というのは、それほどに良いものなのか?」

「もちろんっ!」


 私は拳を握って熱弁を振るう。


「炭酸が手に入れば、梅シロップだけでなく梅酒にも使えます。口に含んだ瞬間、シュワッと弾ける刺激と梅の爽やかな香り。ただの水割りよりものどごしも飲み口の爽快感も段違いです。それに、料理にも使えるし、健康や美容にも良いんですよ」

「なんですって、詳しくお願いします!」


 後ろで来訪者をさばいていた官吏が、いきなり噛みつくような勢いで会話に入ってきた。

 后妃のように綺麗な顔をしているが、鼻息がとても荒い。

 思わず気圧されて閉口していると、彼は自分の圧が強いことに気付いたのか、咳払いをして一歩脇に避ける。


「えー、申し遅れました。長官の補佐をしております(セイ)(シン)と申します。白瑞の巫女様にお目にかかれて光栄です。ご用がありましたら、いつでもこの青沁をお呼びください。損はさせませんので、是非よろしくしていただだだだだだだだだッ!」


 冬長官の長い手が、青沁さんの耳を引っ張っていた。


「引っ込んでいろ、青沁。お前にはこれをやるから、あっちで静かにやっていろ」


 そう言って冬長官が彼に渡したのは、巻物の山。


「ひどい! 面倒なやつじゃないですか!」

「お前みたいだな。ちょうど良いじゃないか」


 冬長官は彼の喚きに一切耳を貸さず、耳を持ったままズルズルと引きずって部屋から追い出していた。ストレートなパワハラを見た。


「さて」と冬長官は何事もなかったように、話を続けはじめる。


「炭酸がとても重要なものだということは理解した。だが、当然ひとりでは行かせられん」

「ひとりじゃないですよ、菜明も一緒です。彼女がいないと、池にはたどり着けませんから」

(はく)様は?」


 白瑞宮の外では白澤様と呼べないため、白様と呼ぶようにしたらしい。おにぎりをくれる白い龍神を思い出す。



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