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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
六品目:炙りツナマヨおにぎりと鶏カラ醤…

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「【急募】ソーダ●トリーム」

 梅仕事から一週間。


「わぁ! すっごく良い香りですね、冬花様」


 壺の封を解いた瞬間、立ち上る梅の芳醇な香り。私も菜明も壺の上で何度も深呼吸して、良い香りを目一杯堪能する。

 柄杓で壺の中をかき混ぜると、とろみのあるシロップが「たぷんっ」と音をたてた。


「砂糖も溶けてるし良い具合だね」

「では……」

「うん。梅シロップの完成だよ」


 ヤッターと二人で拍手した。

 さっそく、梅シロップを水で割って梅ジュースを作る。

 水は、毎朝菜明が、井戸から汲んで厨房の水瓶に入れてくれているから、すぐに水が飲めるようになっている。水瓶の底には竹炭が敷いてあるから、汲みたての水よりも美味しいんだよね。


「んっ! 美味っしいぃ~」


 梅ジュースを飲んだ菜明は、ひと口目は驚いたように手を止めたが、二口目からはごくごくと美味しそうに飲んでいた。


「美味しいよね。私も好きなんだ」

「はい! 甘いのにさっぱりしていて、これはついつい飲み過ぎちゃいますね。以前いただいたハーブ水も美味しかったのですが、あれはどちらかというと水って感じでしたけど、これは甜点(デザート)のような」


 水で割ってるからそこまで濃くはないんだけど、そのおかげで梅の風味がより際立つんだよね。ただの甘いものよりも、梅の酸味が爽やかでするすると喉に入っていく。


「あぁ……きっと(かん)()(すい)とはこのようなものだったのでしょうね」


 頬に手をあてがい、ふうと息を吐く菜明はとても満足そうだ。


「甘露水?」

「天地の気が調和した時に天から降る甘い水のことですよ。古来より伝わる神話です」

「へぇ。空から甘い水が降ってきたら、皆急いで壺持って外に出るよね」

「ふふ、そうですね」


 空になった菜明の杯に、もう一度梅シロップと水を注いでおかわりを作ってやる。彼女は「まあっ」と嬉しそうに、また口をつけていた。


「これから暑くなってくるし、梅ジュースは水分補給にもちょうど良いから」


 壺にはまだまだ大量の梅シロップがある。

 これさえあれば、料理の幅が広がる。

 ヨーグルトに掛けても良いし(ヨーグルトないけど)、肉料理のソースにも使えるし(肉が貴重で中々手に入らないけど)、デザートに梅ゼリーなんかも作れるし(ゼラチンないけど)……。


「……ほぼ活用できないじゃん」


 今更ながら、現代の豊かさを嫌というほど思い知らされた。

 肉は食事で時折使われているけど、あまり食べられていないみたいなんだよね。どちらかというと、魚料理のほうが多い。魚料理に使えないこともないけど、やはり肉料理で食べたい。ただの私の欲望だけど。


 しかし、肉を個人的に厨房から拝借するのは気が引けるから、せいぜい今のところは、水で割ってジュースとして飲むしかない。

 それも美味しいから良いんだけど、せめて他の飲み方もしたいな。


「おお、その壺はこの間仕込んだ梅の壺か?」


 すると、トコトコと子牛が厨房に入ってきた。


「あ、白ちゃん。そうそう、梅シロップができたんだよ」


 白ちゃんは、卓の上に置かれていた壺を見るなり、狼の尾のようにもっふりとした尻尾を振る。興味津々なのがダダ漏れだ。


「白ちゃんさんも飲まれますよね。とても美味しいんですよ」


 菜明は手慣れたように、白ちゃんをひょいと抱えると椅子に座らせる。

 最初は白ちゃんが白澤ということに恐縮しまくっていた菜明だが、今では以前通りのペットに対するような態度まで戻っていた。言葉遣いは敬語になったけど。


 実は、この間の梅仕事の後の酒宴(パーティーってより完全に酒盛りになってた)で、酔っ払ってお腹を見せて大の字で寝転がる白ちゃんを見て、菜明は「神様でも人間みたいな寝方するんですね」と、どこか拍子抜けしたように言っていた。


 そこから、白ちゃんに対する畏れが薄らいだように思う。ちょっと親しみを感じたのかもしれない。白ちゃんも、菜明に関しては心を許している感じがあるし良かった。


 私はというと、起きたら寝台にいて、菜明から冬長官が運んでくれたと聞いた。あと、伝言でなぜか「愚か者」と叱責を受けた。なぜ?

 白ちゃんは杯を器用に両手で掴んで、梅ジュースを飲んでいた。


「プッハァ! いけるのう、この水! おかわりじゃ、菜明!」

「はい、白ちゃんさん」


 横柄な旦那と貞淑な妻、みたいな図を横目に、私は梅ジュースをもっと美味しく飲めないか考えていた。


「……ソーダがほしい」


 数ヶ月後、梅シロップのほかに梅酒の完成も控えている。

 梅酒のロックも水割りも良いが、やはりそこは炭酸で割りたいところ。


「白ちゃん、ソーダストリーム……」

「そ、そだ……なんじゃ?」


 さすがに全知全能の神でも無理か。


「あー炭酸がほしいよ。炭酸が飲みたいよ」


 炭酸の美味しさを思い出したら、途端に口が炭酸の口になってきた。

 ぐでんとはんぺんのように、卓に突っ伏す。


「冬花様、炭酸とはなんですか?」

「シュワシュワして、パチパチして、ヂカヂカする水のことぉ」

「何かが弾けているということだけは伝わりました」


 菜明の質問から、この国には炭酸水のような飲み物はないと分かった。

 つまり、自分でどうにかして作るか、炭酸水の源泉を見つけるしかないということか。炭酸って確か、二酸化炭素が水に溶け込んだやつだよね。つまり、大量の二酸化炭素が出る何かを手に入れれば、炭酸が作れるんじゃない。

 え、無理に近くない? 何、二酸化炭素が出るやつって。息しか思いつかない。牛? あ、それメタンガスだ。


「弾ける水ですか……」

「そう。何もしなくても水がぷくぷく泡立つの……なんだけど……」


 そんなものありはしな――。


「もしかしたら、私知っているかもしれません」

「えっ、本当!」

「ただ、飲めるかどうかというと……難しいかと思いますけど」

「どういうこと?」

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