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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
五品目:梅仕事とくるくるクレープ

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お手元に竹串は行き渡りましたでしょうか

「それじゃあ、お互いの紹介も終わったことだし、今から共同作業を行いたいと思います」

「待て。俺はなぜ呼ばれたんだ?」


 白瑞宮に住む人と神が一堂に会する中、ひとり、住人でない者の姿が。

 私が菜明にお願いして呼び出してもらった冬長官だ。


「菜明が侍女になったことを皆でお祝いしようかと。冬長官も役に立ってくれたので」

「役に立ったのに、俺も作業をしなければならないのか」

「美味しいもの食べたいですよね。働かざる者食うべからずです。手伝ってください」


 渡した竹籠を、冬長官は不承不承の顔をしながらも律儀に受け取った。


「それで、この籠で何をするんだ」

「梅仕事ですよ」

「梅仕事?」


 目の前には、梅さんの家である梅の木が、エメラルド色に輝く青梅をぎっしりと実らせていた。






 梅の実がこんもりと山のように積まれた竹籠が三つできあがった。

 二つは青梅で、ひとつは黄色く色が変わりはじめた梅。

 一本の木から取れる量としては異常だが、これは梅さんが、皆が喜んで梅の実をちぎる姿を見て「嬉しいですわぁ」と、ちぎったそばから次々に実を成らせた結果だ。

 おかげで、ちぎってもちぎっても終わらない、無限梅ちぎりとなった。


 ちなみに、ベスト・オブ・梅チギリャーは、白ちゃんと月兎のペア。

 白ちゃんの背中に月兎が乗って、低い位置の梅をさらっていった。

 子牛と子兎のペアに、あの冬長官ですら顔筋をゆるゆるにして時々「ん゛っ」とむせて、それを見た菜明が小声で「分かります」と頷いていた。


 わざわざ籠を分けたのは、青い梅と黄色い梅で使い道が違うからだ。


「それじゃ、皆さん。お手元に竹串は行き渡りましたでしょうか」


 梅の木の前。地面に広げた敷物で、全員が梅の実が入った籠を囲んでいた。


「酒宴か……なんだそのかけ声は。それに、この竹串は何に使うんだ」


 冬長官は口をへの字にして、手すさびに竹串を揺らしていた。


「これは、こうやって使うんですよ」


 まず最初に私がお手本で、梅のヘタを竹串でくるりと取って見せる。


「意外と簡単に取れるものなんですね。これはクセになりますね」


 そうそう、竹串をへたに差し入れて回すだけで、ぽろっと綺麗に取れるから快感なんだよね。

 どうやら菜明以外の皆も同じらしく、気付は皆無言でひたすら梅のへたを取っていた。単純作業ほど嵌まると止まらない。


「懐かしいなぁ。いつも梅雨の時期に入る前、おばあちゃんとこうして庭の梅をちぎって縁側で梅作業してたっけ……」


 新聞紙の上にできるヘタの山を見て、いつも「今年もたくさんだね」なんて笑ってたっけ。


「まあ、仲がよろしかったのですね。冬花のお祖母様はどのような方だったのです?」


 手を止めて聞いてきた梅さんの言葉に、私の手も止まる。

 ふと空を見上げた。

 抜けるような綺麗な青空。だけど、元いた世界の空とは絶対に繋がっていない空。

 まだこっちに来て一ヶ月程度だけど、あちらの世界にいたのが昔のことのように思える。


「真っ白な頭で腰が曲がってて歩くのも遅くて、どこにでもいる小柄なおばあちゃんって感じの人だったよ。いつもニコニコして冬花ちゃん冬花ちゃんって……。飴をあげようねとか、私が大人になってもずっと子供扱いしてたなあ。そういえば、私が料理をするようになったのも、おばあちゃんの影響なんだ」


 おばあちゃんが作る料理は美味しかった。そりゃ、行列のできる定食屋や有名なレストランとかにはかなわないだろうけど、私にとってはおばあちゃんが作る料理が、この世で一番美味しかった。


 私がテストで悪い点数をとって泣いて帰った日には、温かいおじやや鍋焼きうどんとか作ってくれて、良いことがあった日には、大好物のコロッケをたくさん作ってくれた。


 熱くてダレてる日には、梅素麺。

 寒くて丸くなってる日には、花型の人参入りクリームシチュー。

 おばあちゃんは、いつも私を見ていてくれた。

 料理を食べるたびに優しさがたくさん伝わってきて、それだけで幸せな気分になれた。


「何やら楽しい思い出があったご様子。冬花のお祖母様は素敵な方だったのですね」

「うん、とっても」


 おばあちゃんのような相手に寄り添った優しい料理が作りたくて、一緒に料理をするようになった。そのうち、身体の自由が利かなくなってきたおばあちゃんに代わって、食事は私の担当になった。

 作ったものを「美味しいねえ、冬花ちゃん」と言って食べてくれるおばあちゃんの姿が、今でも忘れられない。


「きっと、私が料理してるのは、おばあちゃんとの温かな日々を思い出したいからかも。美味しいものを食べてる時って、どんな時でも幸せになれるし……」

「冬花の料理は優しい味がするからのう」


 白ちゃんはヘタを取った梅の実を、ころんと私の膝の上に置いた。

 綺麗にヘタがくり抜かれた梅は、一面綺麗なエメラルド色でとても美味しそうだ。


「ありがとう、白ちゃん」


 梅を籠に入れ、私も残り半分まで減った梅のヘタ取りを再開する。


「冬花、ではご両親はどのような方だったのです?」

「さあ、よく覚えてないや。あ、冬長官。ヘタの部分以外は傷つけないようにお願いしますね。傷があると、そこから傷んで腐っちゃいますから」 

「ん」


 意外や意外に、冬長官は梅のヘタ取りに熱中していた。口数少なに、こちらを一瞥もせずひたすら竹串で梅をぐりぐりしている。美男子が

 そうして、くり抜いたヘタが山盛りいっぱいになった時、ようやく全ての梅のヘタ取りが終わった。


「じゃあ、青梅だけを二、三時間水につけます。アク抜きしないと美味しく食べられないですからね」


 丁寧に手間暇掛ければ掛けるほど、梅の味は透き通っていく。

 すると、冬長官から待ての声が掛かる。


「以前、青い梅の実は食べられないと言っていなかったか。毒があると……」


 よく覚えていたと感心した。

 梅さんの呪いを解く時にちょっと話した程度だったのに。さすがは、長官というところか。


「ふふふ、実はこれ、暗殺道具を作っていたんですよ」

「何!?」

「というのは冗談で。確かにそのままじゃ食べられませんが、しっかりとアクを抜いて、漬け込めば大丈夫なんですよ」


 井戸水を入れた大盥に、梅の実が傷つかないように丁寧に転がし入れていく。


「それじゃあ、アク抜きの間暇なんで、休憩しましょうか」




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