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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
四品目:万能な卵料理はいかがですか

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裏:とある後宮妃がニヤける理由

「それでは(ほう)(きょう)様、おやすみなさいませ」


 侍女が出て行くと、部屋は静まり返る。おかげで、今日一日にあった刺激的なあれやこれやを思い出してしまう。


 今し方去って行った侍女の顔が脳裏に浮かぶ。

 しかし、浮かぶ顔は曖昧でハッキリとしない。よくよく考えたら、彼女達の顔を細部まで思い出せるほど、まじまじと見たことなどない。


「侍女に対してあんな風に思ったことないわね」


 巫女が、侍女に平民の宮女を選んだ。

 その選択にも驚いたが、その際に宮女に掛けた言葉にも声を失った。


『私は菜明が嫌がることはしたくないし。でも、もしこれからも一緒にいても良いって思ってくれるんだったら、全力で冬長官でも皇帝陛下でも説得するよ。私は、菜明に傍にいてほしいな』


 まさか、たかが侍女――しかも平民の宮女――のために、陛下に訴えるとまで言うとは。侍女がいてほしいとは思うが、彼女のように特定の誰かに対して、いてほしいと思ったことはない。

 自分が不利になるようなことをしない、仕事をしてくれる娘なら誰でも良い。

 なのに、彼女ときたら……。


「そんな彼女が、私をお友達って……」


 さらりと言われた彼女の言葉。

 後宮に来て、充媛となって、自分に対してそのようなことを言った人ははじめてだった。


「お友達……ふふっ、お友達ですって」


 自然と口元が緩んだ。

 もらった飴は、巾着のまま引き出しにしまってある。父親から買ってもらった首飾りや、母からもらった耳環やら、大切なものばかり入っている侍女にも触らせない場所。


「本当、変わった人。それに、料理までするなんて」


 料理など使用人や平民がするもので、高貴な身分の者がするものではない――と、ずっと思ってきた。

 身分の高い女性は働くものではない。他人にかしずかれていくらだ。もし、料理が趣味などと話せば、貧乏くさいと笑いものになるだろう。


「でも、とても美味しかった……」


 温かくで、彩りが良くて、するりと食べやすくて。気がついたら完食していた。

 後宮の食事は義務のようなもので、美味しいとか美味しくないとか考えたこともなかった。冷たくて固くていつも残していて、(スープ)くらいしか食べる気がしない。


 しかし、食べることで喉が守られるなら、これからはしっかりと食べなければ。

 目を閉じると、黄金色の黒酢餡かけ卵と、ふるふる揺れる茶碗蒸しが脳裏に浮かぶ。

 お腹がキュウと鳴いた。


「また、食べたいわ」


 思わず美味しいと感想が漏れたとき、彼女はとても嬉しそうに頷いていた。

 相手を喜ばせるのも、きっと友の役目だろう。

 彼女なら、訪ねていけば受け入れてくれる気がする。

 だって、侍女にただの宮女を選んだ規格外の人だから。




面白い、続きが読みたいと思ってくだされば、ブクマや下部から★をつけていただけるととても嬉しいです。

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