仕方ないから奥の手使いますね
「同じく後宮に仕える者なのに、なぜ役職が分けられているかというと、担える役割が違うからなのです。それに、巫女様ともあろうお方が平民を傍に置いていると広まれば、侮られてしまいますわ」
全員が全員、反対という意見らしい。『もう一度考え直せ』とばかりのジリジリとした視線で、身体に穴が開きそうだ。
だが、三人の言葉は私の心にはちっとも響かない。だって、一緒にいたいと思えるのは彼女だけなんだもん。仕事ができようと、礼儀作法をめちゃくちゃ知っていようと、そんな人より私は菜明と一緒にいたいんだから。
一緒に楽しいですねって料理を手伝ってくれて、美味しいですねって、一緒の卓について並んでご飯食べてくれる菜明と。
私はスッと立てた人差し指を、三人の目の前に出した。
「まず、臨時でも仕えられるってことは、規則違反なわけじゃないですよね。次に、私は今は巫女だなんて呼ばれるけど元はただの平民で、菜明と身分の差はない。そして、私の望みは、料理を好きなだけやれること。これに関して菜明は、食材を食堂からもらってきてくれたりと協力してくれて、充分に私の望みを叶えてくれているということ。最後に、私は後宮妃ではないので、競う相手もいないので侮られたところで意味がないです」
私は、各人の反対意見にひとつひとつ理由を添えて、菜明では駄目という反対意見を潰していった。
すべて聞き終わった後、三人は肯定も否定もできないのか、腕組みをして「んー」と唸っていた。口々に「前例がなぁ」やら「聞いたことないですし」などとブツブツ言っている。頭の固い人達だなとは思いつつも、文化が違うのだから仕方ないのかもしれない。
この手は極力使いたくなかったが、この場合致し方ない。
「あーあ、そうですか。残念です」
食べかけだった黒酢餡かけ卵を、私はヒョイと取り上げた。
「あっ! 何をするんだ」
「だって、格式高い家出身の侍女が来たら、私は自由に料理できなくなりますから。今から私の料理がない生活に慣れてもらわないと。残念ながら、明日からはおやつも軽食も夜食も作れない生活になりま――」
「それはゆゆしき事態だ。宮女が侍女になってはいけない規則はないし、そこまで言うのなら、彼女を侍女にしても構わんぞ」
食い気味に被せてきた。食いしん坊め、職権濫用だよ。
「というのは、半分冗談で……」
半分は本気だったんだ。
「白瑞の巫女殿が彼女が良いと言うのなら、長官である俺でも拒否はできないからな。元より冬花殿は俺の指示下にはないのだし」
確かに。今までの冬長官の行動を振り返ってみると、私に何かを強制するようなことはなかった。面倒を見てもらってはいるが、後宮に住んでるだけで後宮妃ではないからなのかもしれない。
「それじゃあ、菜明を侍女にしても良いんですね! 良かったぁ。そういうわけでよろしくね、菜明!」
私は嬉しさのあまり、菜明の手を握りしめた。
「え、あ、はい……あの、よろしくお願いします?」
一方、菜明はまだ状況が理解できていないのか、目を瞬かせていた。
一連の流れを見届けた鵬姜様は、「ここじゃ後宮の常識が通じないのね」と口を引きつらせていた。




