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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
四品目:万能な卵料理はいかがですか

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ツンデレ陥落

 鵬姜ほうきょう様は、驚きの様子で茶碗蒸しの茶碗を手に取り、中を覗き込んでは首を傾げていた。茶碗が飴細工とでも思っているのかもしれない。

 もしかして彼女、結構可愛い性格?


「この食事が飴とはどういう意味でしょうか。私には美味しい料理としか思えませんでしたが」


 気付いてないみたいだけど、さらっと『美味しい料理』って言ってる。

 私の中で、彼女はドジっ子属性つきのツンデレ姫様と認識された。


「菜明に渡した飴は、喉に良いハッカと麝香草じゃこうそうという薬草を使って作ったものです。そして、これらの料理も喉に良いもので作った料理なんです」


 まず卵は栄養価が高い。喉枯れでも風邪でも、身体に不調が出る時は、栄養不足で身体に元気がないときだ。また、卵は固さがないから飲み込みやすく、喉への負担も減らせる。餡を掛けたり、茶碗蒸しにしたのも同じ理由だ。とろみや出汁を加えることで、スルリと喉を通れるようになる。もし、喉を痛めているときならさらに効果的。


 ネギもセリも生姜も栄養価が高く、なおかつ今回は細かく切って入れているため、舌触りの邪魔にならない。


「そして、今飲まれているお茶も、加蜜列という薬草のお茶で喉に良いんですよ」

「これも……」


 茶器には、淡い黄色のお茶が注がれている。

 彼女は興味深そうに眺め、ごくごくとひと息に飲んでしまった。


「薬草と言うから覚悟しましたが、控えめな花の香りで美味しいです」


 気に入ってもらえたようだ。


「あくまで、のど飴は補助です。喉を守りたいのなら、ちゃんと栄養をとって、身体を元気でいさせることです。毎日毎食のど飴って馬鹿ですか。偏食どころの騒ぎじゃないですよ」

「ば……っ!? わ、私に……この、鵬家の宝と言われる鵬姜に馬鹿と……っ」


 しまった。つい本音が……。

 鵬姜様は、ただでさえ大きい目をさらに見開いて、口をわななかせていた。

 菜明も手にしたお盆で口元を隠しているが、こちらを見る目が「あちゃー」と言っている。

 まずったなと思いつつも、この際だからすべて言ってしまおう。


「きっと侍女の皆さんは言えないので、私が先に代弁しました。友人が馬鹿な食生活をはじめようとしてたら、普通止めますよ」

「ゆ……っ、友人!?」

「あ、失礼しました。私の立場は妃嬪の皆様と同じだと聞いたので、だったら友人かなーと」


 上下関係ではないし、私は後宮妃ではないから同僚ともライバルとも違うし。

 鵬姜様は、目を白黒させた次は頬を赤くしていた。忙しい人だ。


「飴ばっかり食べて生きていけると思います? たとえ喉が枯れなかったとしても、栄養が偏りすぎて顔は土気色になるし、痩せて肌のハリはなくなるし、最後には腹に力が入らなくて声すら出せなくなりますよ」

「それだけは嫌ですわ!」

「だったら、飴だけに頼らず食生活から意識してくださいね。後宮の食事って、冷めてますけど、飴よりかは栄養ありますから」


 味は置いといて。

 懐から小さな巾着を取り出して、彼女の掌に乗せてやる。


「な、なんですの、これは?」

「のど飴です。いざという時にでも食べてください」


 そんな緊急事態で食べるものでもないのだが。

 彼女にはこうでも言っておかないと、すぐ追加をもらいに来そうだなと思った……のだが、巾着を懐にしまう手つきが思いのほか丁寧で、多分大丈夫だろう。

 鵬姜様は用件は済んだとばかりに席を立ち、出て行こうとする。

 しかし、扉の前で足を止めた。


「あ……ありがたく、もらっておいて差し上げますわ」


 僅かに振り返り、肩越しに告げられた言葉は声が小さくて聞き取りにくかったが、赤い耳を見て察した。

 私にはもう「ありがとう」としか聞こえなかった。


「ちゃんとお昼ご飯食べてくださいねー」


 さて、これで一件落着だと気を緩めようとしたその時、「キャア!」という彼女の悲鳴が響いた。


「どうしました、鵬姜様!」


 扉の外を見て固まる彼女へと駆け寄ったが、彼女が見上げている者を見て、私はうんざりした。

 鵬姜様が、先ほどよりも顔を真っ赤にして彼の名前を呼ぶ。


「ら、雷宗様がなぜこちらに……!」


 扉の向こうに立っていたのは、鵬姜様に負けず劣らずの美人。


「お、部屋から良い匂いがするな。ちょうど良い時に来たかな」

「ちょうど良くないです」


 ひとつ問題が片付いたと思ったら、問題事しか持ち込まない男がやって来た。


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