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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
三品目:ハーブティーは万能薬ですので

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おや、皆の様子が……風邪ですかね?

 朝、なんだか良い香りで目が覚めた。


「ぅん……んん……うん?」


 いつのも青々しい爽やかな香りではなく、甘くちょっと酸っぱい香り。


「おはようございます、冬花様」


 身体を起こすと、寝台の傍らに洗顔用の水桶を持った菜明が立っていた。


「おはよう、菜明。なんだか良い匂いがするんだけど……」

「梅の花ですよ。もう散り花でしたが、木の根元を色づける花びらがとても綺麗で良い香りでしたので、綺麗なのだけを選んで持ってきたんです」


 あちらに、と菜明が目で示した先には、木の器にこんもりと盛られた薄紅の梅の花びらが。たくさん拾ってきたようだ。


「私、生まれて初めて梅の花を見たんですが、こんなに美しいものだったのですね」

「そう言えば、百年は咲いてないって話だったけ」

「私の知る梅とは、ただの茶色い枯れ木でしたので……ケホッケホッ」


 菜明が、話の途中で咳き込んでしまった。


「大丈夫、菜明? 風邪?」

「いえ、大したことありません。ここ最近、乾いた日が続いておりましたので、喉を痛めたようで。同僚にも同じように咳をしている者がおりましたが、数日で治っておりましたのでご心配には及びませんよ、冬花様」

「そう……大丈夫なら、良いんだけど」


 確かに、顔色はいつもと変わらない。


「私のことよりも、梅の花のことですよ。これだけ良い香りがする花ですし、飾るだけというのももったいないですよね。何かに使えたら良いのですが」


 花びらの山を見ながら腕組みする菜明の顔は、私を着飾らせる時くらい真剣だ。


「菜明ってば、すっかり梅の虜だね」


「はい」と、菜明は良い笑顔で頷いた。





「――って、話を今朝してね。良かったね、(うめ)さん」


 白瑞宮の裏庭に移植した梅花精さんが宿っていた梅の木に、私が今朝の菜明との出来事を報告すると、彼女はふふと嬉しそうに笑ってくれた。

 ちなみに、毎度『梅花精さん』って呼ぶのが長いから、今じゃ『梅さん』だ。

 喋り方も随分とフランクになった。

 敬語を使っていたら、「もっと距離を縮めてくださいませ!」と言われた。そう言う梅さんの喋り方とは大差ないのに。彼女の言葉遣いは、もうそういうものらしい。


「わたくしの散り花をそのように使っていただけるだなんて、菜明に会える日が来れば、お礼を言いたいですわ」

「もう随分と力も戻って、冬長官にも姿が見えるくらいだもんね」


 廃宮では冬長官には梅さんの姿は見えなかった。

 原因は、呪いによって梅さんの神としての力が弱まっていたからだとか。

 冬長官がはじめて梅さんの姿を見た時に発した第一声だが、おそらく彼なりの最上級の褒め言葉だったに違いない。


『人間でしたら、即座に皇帝のお召しがあったことでしょう』だ。


 美人がはびこる後宮で、そこまで冬長官に言わせるとは……梅さんって、やっぱりものすごく綺麗なんだよね。

 そして、それに対して梅さんが返した言葉が、私は忘れられない。


『ええ~うふふ、そんな拷問受けるくらいなら、業火に身を突っ込んだほうがマシですわ』だ。


 見た目に反して毒舌だった。

 宮廷術士に呪いを掛けられたこともあって、宮廷に住んでいる者が嫌いなのかもしれない。そんな彼女が、菜明にはお礼を言いたいということは、気に入ったというこだろう。


 花びらを拾いに来た時、よっぽど梅さんが嬉しくなるようなことでもしていたのかも。綺麗綺麗って言いながら花びらを楽しそうに拾う菜明の姿が、簡単に想像できる。しかし、梅さんは菜明に姿を見せることができない。


「菜明は白瑞宮の住人じゃないしねえ……」

「はい。さすがに白澤様の言いつけを破るわけにはいきませんし」


 白瑞宮には白ちゃんや梅さんの他にも神様が住んでいる。

 でも、毎日通ってきてくれている菜明も、彼女達の姿を見たことはない。(白ちゃんは神様ってより子牛認識だし)


 白ちゃんが、神様が住んでいるというのを、外部に知られるのを嫌がるのだ。

 冬長官は、私と白ちゃんに直接関わる立場だから許されているが、その他の者達に対して、白ちゃんはなぜかとても警戒する。

 せめて、菜明くらいには教えてもとも思うけど、彼女の立場はあやふやだから駄目らしい。

 確かに、正式な侍女が決まったら、菜明はお役御免になっちゃうけど……。


「白ちゃんって時々よく分からないんだよね」


 きっと、白ちゃんにしか分からない『何か』があるんだろうな。

 そんなことを考えてたら、ちょんちょんと梅さんに肩をつつかれた。


「それと、冬花。前々から聞きたいと思っていたのですが……あちらはなんでしょうか?」


 彼女が指さしたのは、草地の中で四角く土が露出した場所。

 緑色の中にあるか一際目立つ場所。


「あ、あれは兎の畑」

「兎の畑……ですか?」


 梅さんは首を傾げた。


「梅さん、夜中って何してる?」

「夜中は寝ておりますが……」

「そう。気が向いたら、ちょっと起きてみると良いよ」


 きっと変な光景が見られると思うから。




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