第38話 帰ってきたら温泉&サウナです
半泣きの2人が言うには、あたしたちが都を離れた辺りで会話が通じなくなり、ついさきほどウードさんが透けはじめたのだそうだ。
『ウードさんと、ずっと筆談とジェスチャーでさー、めっちゃ大変で。でもウードさんがこっちの言葉、読み書きできてめっちゃよかった……!』
『いやー、こんなことになりますよね。想像が足りませんでした。シラチャ様のお力の偉大さを痛感いたしました……』
「サエー、ウードおじちゃんに、あたらしいけだまあげてー」
むんずとシラチャを捕まえ、どういうことですか? と聞いてみると、
「ぼくのけにまりょくあるから、うーどおじちゃん、けだまがあったら、しばらくきえないよー」
「でも、透けてたよね?」
「あたらしいのあげたら、しばらく、だいじょーぶ……たぶん」
「たぶんって……」
小さくため息をつくあたしに、ウードさんがパンと胸を叩いた。
『シラチャ様がそういうなら、大丈夫ですよ、サエ様。今度お出かけの際は、新しい毛玉をいただければ』
言いながら、温泉宿から出てくるときに作ったシラチャ玉が出てきた。
「これがお守り……」
『しらちゃだまー!』
シラチャは再び自分の毛玉で戯れ出した。
ポーンと投げたソファにゴロゴロと転がっていく。
その前のリビングのテーブルには資料がどっさり積まれている。
『明日にでもご説明しますね。温泉宿、復活するための資料です。ソーロス様の案はとても画期的で素晴らしいのですよ!』
『やめてよ、ウードさん。ウードさんのやる気を形にしてるだけだし!』
お互いにお互いを褒めつつ、異文化交流をした2人の1日は濃厚だったと思う。
もちろん、あたしも、サイコーの門出だった!
『……で、どうでした、パイセン?』
「見て、ソーロス!」
あたしがカードを掲げると、ソーロスはまじまじと見て、ピョンと抱きついてきた。
『やった! パイセンならやると思ってた! おめでとう、パイセン!』
『おお、免許を取られたのですね! おめでとうございます! おめでとうございますっ』
プンプン飛ぶウードさんにならってか、シラチャも同じようにプンプン飛び出す。
「サエすごーい! サエすごーい!」
そんなシラチャをふんわりキャッチしたソーロスは、シラチャに頬擦りする。
『シラチャ、今日はもっと大きな、ピガーの丸焼き、食べよっか!』
「ほんとー? ぼく、ちゃんといただきますしてからたべるよー!」
『えらいね、シラチャ! 今日は、サエパイセンのお祝いしなきゃねー!』
はしゃぐソーロスの間に入ったのはリルリアだ。
『その前に、サエをお風呂とサウナへ』
思えばずっとメガネをかけているリルリアの顔が真剣だ。
『お、ホントだ』
ステータスを見たのだろう。視線があたしよりも浮いている。
でも、何が本当なのだろう?
魔力の減りはそれほどないって言ってたはずなのに。
『パイセンの疲労がヤバいっす』
『そうなのよ。今ならスライムの攻撃でもぶっ倒れると思うわ』
「さっきはまだ半分あるっていってなかった?」
『あったの。あったの。でも、今、めっちゃ減ってる』
リルリアの言葉に、この世界にスライムがいることと、さらにあたしのヒットポイント、ようはHPがレッドレベルなのだとわかる。
「もしかして、そのメガネかけたら見えたりするの?」
リルリアのメガネをかけさせてもらおうと手を伸ばすが、サラリとかわされた。
『ダメよ。これ、めっちゃ目が疲れるから。今のあなたが使ったら、ぶっ倒れるし』
「えーーー」
『えーじゃないっすよ、パイセン。それマジっす。アタマ、グルグルしますから。……よし、風呂ってる間に、ピガーの準備してもらおう』
動き出したソーロスに合わせ、リルリアも風呂の準備をしてと言ってくる。
ダルい足取りで2階へ移動していくと、ウードさんもついてくる。
ソワソワしている気もする。
「なにかあったの、ウードさん?」
『その、あの、』
廊下の天窓から、星が見える。
ちょうど、月もある。
満月だ。
『実は最後の脱皮が今日起こりそうなんです……』
「え? ウードさんの命に関わる感じ!?」
焦るあたしにウードさんは笑いながら首を振る。
『わたしたち妖精は、おおまかな周期のなかで脱皮し、若さを維持しているのです』
「いいね! で、それが?」
『若返るのは間違いないのですが、その……』
はっきり言わないウードさんに、あたしはしびれを切らす。
「もう、なに、ウードさん、早く温泉いこ?」
『……性別が』
「せいべつ?」
『性別が変わる可能性がありまして……』
あたしはシラチャを見る。
恋をすると性別が決まるんじゃなかったのか?
シラチャはあたしに視線を合わせない。
『その、人間の方々は性別が変わることを快く思わない方も多いと……だからその、一度、村へ戻り、皆さんが戻ってくるのを待と』
あたしはむんずとウードさんを捕まえる。
進撃してる巨人になった気分だけど、食べたりはしない。
部屋に入り、ベッドの端に腰をかけ、あたしも腰を下ろす。
「ウードさん」
『はい』
「あたしは、どんなんでもウードさんだから、大丈夫! むしろ、性別って、あってなかった感じなんだね。そっちのほうがなんがびっくり」
あっけらかんと喋ってしまったのがいけなかったか、ウードさんは呆然とこちらを見ている。
『その、あの、でも』
「言いたいことわかるけど、妖精さんのなかじゃ、男の子だろうと女の子だろうと、変わるかもしれないただの区別くらい、だったんでしょ?」
『いや、まあ、そうです。我々は、一人で子どもを身ごもりますし……』
もう一度シラチャを見る。
ほぼ背中を向けている。
『最近だと、その区別すら面倒だと、中性的に振る舞う妖精が増えてきました。わたしは昔からいる者なので、わたし自身がそう振る舞えるかというと、それは難しいのですが……』
あたしは優しくウードさんの背を撫でる。
「大丈夫! だから、みんなで、温泉宿、復活させようね!」
『……ありがとうございます、サエ様……』
小さな手でゴシゴシと顔を擦るウードさんの向こうからリルリアの声がする。
『サエー、カバンおいて、そのままきてー! 着替え貸すからー! ウードさんもはやくー! 私、今、とってもサウナに入りたいんだけどー!』
リルリアの必死な声が届く。
『リルリア様も、もしかしたら、気を張ってらしたのかもしれませんね』
「そうかも」
「はやくいこー、ウードさん、サエー!」
シラチャの対応の仕方が、ちょっと大人でびっくりした。
でもその呼び方なら、今後、どっちになっても問題ないだろう。
ちょっと、どっちでも楽しみなんだけど!!!
読んでいただき、ありがとうございます
次回は温泉&サウナ回なので、お楽しみに




