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第37話 帰宅!

 ほんのり不安を抱えながら、再びあたしたちは飛んで帰ることに。

 『魔法はイメージ』というけれど、まさか座った感じで飛んでいるのはあたしぐらいだ。

 この原因は間違いなく、乗り物文化だと思う。

 この世界は馬車や、馬的な動物、または魔法で飛ぶ、というのが一般的。

 モーターで動くものは存在しない。存在しなくても問題ない世界だから、それが発達していないのだとあたしは思っているけど、だからこそ、飛び方は昔からの流れがそのままなのだと思う。

 だって他で飛んでいる姿を見たことがないだろうし。


 ……そう考えていくと、不思議な気持ちになってくる。

 もしかするとあたしの飛び方が今後、一般的な飛び方になるかもしれない。


「……ちょっと、ドキドキしてきた………」

『なにが? 緊張してるの?』


 自分が発案者になるかもしれない未来に心を躍らせていたのを落ち着かせ、あたしはリルリアにぶんぶんと顔を横に振ってみせる。


「大丈夫。えっと、あと、サイン書いてもらった用紙を事務所に届けたらいいんだもんね?」

『そうよ、グルーガーに渡せば完了。通常は受付で済むんだけど、依頼額が高かったり、重要度が高いものは、グルーガーから依頼が入って、グルーガーに完了を伝えるようになってる。彼がいない日は代理に伝えるって感じ』

「グルーガーさん、すごいんですね」

『彼があの大規模な集荷場を回しているといってもいいわ。……少し、急げる? 見て』


 リルリアが日差しを指さした。

 白かった太陽に赤みが増えている。

 夕陽になりかかっている、ということだ。


「オケ! 野宿は勘弁だし、お風呂とサウナには入らないといけないしね!」

『じゃ、ついてきて』


 リルリアはぐんと速度を上げた。

 ブンと鈍い風を切る音がして、見る間に距離が離れていく。

 あたしもイメージする。

 もっと早く飛ぶように、素早く動くツバメのように───


 イメージは無事にできたようで、予定よりもずっと早くに帰ってこれたが、どっと疲れがわいてくる。

 地面を歩く脚がぐにぐにする。


「サエー、ちゃんとあるいてー」


 シラチャの応援とも言えない声におされながら、集荷場へ入り、グルーガーがいる事務所へと向かう。

 門番に話は通してあるので、彼は執務室で待っている。


「階段も辛い」

「サエ、またとべばいいよー」


 名案だといわんばかりにシラチャがフードの中で言うけれど、そんな気力もない。


「無理だよ、シラチャ。ぜんぜん、力入んない。今もしかして、魔力がめっちゃ減ってるとか……?」


 どこを見たらわかるかもわからないため、手をにぎにぎしてみるが、リルリアはポンと肩を叩く。


『いいえ、違うわ。飛ぶのに慣れていない疲労よ、それ』

「じゃあ魔力残量は?」

『半分以上あるわよ?」

「なんか、減ってて欲しかった……」


 明確な理由が体のだるさと直結して欲しかった、と言ったほうがいいのかも。

 慣れてないことをしたから、体がだるいというのは、なんとなく自分の中で説得力にかけるというか、自分の体力に自信がなくなるというか……


 ダラダラと歩き進めながら、5階にある執務室へとたどり着いた。

 ドアは開けっぱなし。デスクには資料なのか、紙の束が積み上がっている。


 開いたドアにノックをし、声をかけた。


「戻りました、サエです」

『書類を』


 デスクの資料を見たまま言われたので、あたしはダラダラと用紙を差し出した。

 しっかりとサインがある。問題ない。


『……ありがとう。では、仮免許のカードを』


 下を向いたままなので、その視界に差し込むようにカードを滑らせる。

 グルーガーは同じようにカードを滑らせ手に取ると、足元のゴミ箱へ、無造作に捨てると、引き出しを開け、ごそごそと探り始める。


『あった……これがサエの免許カードだ。この都近辺であれば配達の依頼が受けられるものとなる。今回の依頼金は、明日、そのカードに振り込む。振り込まれ次第、金額が銀枠に浮き出るから、見ておいてくれ。……以上だ。お疲れ様。無事に届けてくれてありがとう』


 今度はしっかりと目を見て言ってくれた。

 薄く微笑んだのが、なんともイケてる雰囲気で、きっと彼のファンがたくさんいそうだ。


 執務室をあとにして、家に向かっていく。

 カードを見ても、仮免許のカードと違うのは、金額が出る銀枠があるぐらいだ。

 その銀枠は、2つ枠がある。


「リルリア、なんで2つあるの?」

『上が依頼分の入金で、下の枠が残高ね』

「へー。このカードにそのまま貯金されてくんだ」

『そ』

「失くしたらどうなるの……?」


 一抹の不安がよぎり聞いてみると、リルリアは笑う。


『絶対に無くさない』

「なんで? カードじゃん」

『それ、サエの魔力に反応するようになってるの。形があるように見えるけど、落とせば形がなくなるわ。逆に、サエが望んだ場所に出てくるから、誰もそれを盗めないし、誰もそのカードを使えないの』


 貸して? 言われてリルリアに渡そうとしたが、リルリアの手に触れた瞬間、消えた。

 砂のようにサラッと消えてしまった。


「え、マジ? え?」

『サエが欲しいところにあるわよ?』


 慌てて体を叩いてみると、……あった!

 ローブのポケットに入ってる!!


「あった! あったけど、なにこれ……」


 ちょっと怖い。

 あたしの魔力に反応って、どうやってそうなるようにしているのか、全くわからないし。


「サエ、カードもかぞくだねー」


 シラチャの声に一度首を傾げたが、


「……もしかして、ずっといっしょだから?」

「そーだよー!」


 確かにそうかもしれない。

 このカードがないと、あたしはずっと自立できない。


「確かに、大事な存在だわ」


 慣れてきた道を歩きながら、雑踏に塗れて帰っていく。

 首の横から顔を出したシラチャに頬擦りすると、シラチャもぐんと頬を押し返してくれた。


 明日にはお金が手に入る。

 必要なものを買い揃えたい。


 露店や商店を軽く見ながら、何が買えるか想像するのはとてもワクワクする。


「リルリア、明日、あたし、買い物に行きたい」

『そうね。あ、でも、場所は伝えれるけど、いっしょには行けないかも。明日指定の届け物があるのよ』

「ぜんぜん。店の場所だけ、教えてくれたら大丈夫。……あと、買い方ね。これ、一番大事」


 少し遠回りしながら、ここの地区には何があり、ここの店はこれが有名など話を聞きながら家に着くが、玄関に入る前から騒がしい声がする。


 玄関を開けた途端、文字通り飛んできたのはウードさんだ。


『よくお戻りでー!』

『よかっただー! パイセン、帰ってきたぁぁぁ!』


 プンプンと跳ねて飛ぶウードさんの体が、ちょっと透けて見えるけど、消えてなかった。

 よかった。


 ……よかった!!!!

ご覧いただき、ありがとうございます。

もっふり女子成分を次回は強めでいきたいと思っております。

引き続き、お読みいただけたら嬉しいです。

いつもありがとうございます!

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