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第27話 力は使ってこそ! ってこと?

 天窓から入る陽ざしで目が覚めた。

 逆に言えば、天窓がついていることに、今、気づいた。

 スマホを見ると朝の6時50分。

 起きてもいいし、もう少し寝てもいいかも。

 となりのシラチャはぐっすりのようで、ピーピーと鼻から変な音が鳴っている。人間みたい。


 改めて寝転がりながら寝室をぐるりと見回した。

 この家も青と白が基調になっている。

 天窓も、白い天井に差し色のように空の青が映えて、ずっと眺めてられる。

 でも、こんな天窓の使い方があるとは驚き!

 確かに寝室は天井しか見ないから、こういう演出、いいね。いいね!


 布団のなかで大きく背伸びをすると、シラチャがもぞりと起き出した。

 もふもふの手で目をこすりながら、なぜかあたしの胸の上に座り込んだ。


「サエ、おはよー」

「おはよう、シラチャ」

「あのね、ぼく、うんちしてくる」

「お尻は?」

「ふいてほしい……へへへ」


 寝室からトイレとシャワールームに行けるのはとても間取りとして最強な気がする。

 いっしょに歩いていくと、短い廊下が目に入った。

 ウードさんはあの、角の客室で休んでいるはず。

 そうと思っていた矢先にドアが開いた。ウードさんだ。


『お、サエ様、起きられましたか。おはようございます。今日もいい朝ですね!』

「おはよ、ウードさん、晴れてるってだけで、気分、アガるよね」

「ぼくははれてても、あめがふってても、きぶんサイコー!」


 トイレから尻尾を持って出てきたシラチャを再びトイレに戻し、やさしくお尻を拭いてあげるのを、ウードさんは微笑ましく眺めている。

 そんな朝の行事を済ませ、3人でのんびり階段をおりていくと、リルリアがキッチンに立っていた。

 カウンターキッチンのため、リビングに入るとすぐにわかる。

 エプロンをしててもわかる胸の大きさに、朝から足の先まで見える自分の胸板を呪いつつ、リルリアに声をかけた。


「おはよ、リルリア」

『早いのわね、みんな。おはよう。ちゃんと休めた?』

「しっかりぐっすり寝たよ」


 リビングの広いスペースで軽いストレッチをするあたしに、リルリアは笑う。

 カウンターごしに、一斤の食パンが掲げられた。


『朝ごはん、サンドイッチでもいいかしら?』

「あ、手伝うよ。顔洗って着替えてくるね!」


 ドタドタと2階に戻ったあたしは、スカートとシャツとルーズソックスにルームシューズを合わせ、洗面所で顔を洗うが、気づく。

 思えば、歯ブラシ、ない。

 温泉宿から持ってくればよかった……!


『サエ様』


 唐突な声に、ひ! と悲鳴にもならない声をあげると、ウードさんだ。


『必要かもと、カバンに忍ばせておきました。10セットほどあります。使い捨てではありますが、数回使用しても問題ない歯ブラシなので、ぜひ、お使いください』


 歯ブラシ。歯ブラシだ!


「ウードさん、本当にありがとう。何から何まで……」

『何をおっしゃいます。サエ様が来られなければ、わたしは、今ここにはおりませんよ?』


 にっこりと笑って差し出された。

 シラチャにも歯ブラシを持たせると、3人で洗面所で歯を磨き、口をすすぎ、1階へと降りると、ウードさんがコーヒー豆のそばへと飛んでいく。


『わたし、これでもコーヒーを淹れるのが得意でして』

『ほんと? ならお願いするわ。道具は?』

『マイ・コーヒーセットがございます。カップはお借りしても?』

『棚から好きなの使っていいわ。……あ、サエー、サンドイッチの具、何がいいかしら』


 その質問に飛びついたのはシラチャだ。


「ぼく、いちごジャム」

「どんだけ、イチゴだよ」

「だってイチゴ、おいしいんだもん!」

『じゃあ、シラチャのサンドイッチはイチゴジャムにしましょう。クリームチーズも入れる?』

「チーズもすき!」


 はしゃぐシラチャを捕まえ、頭に乗せて、ぽんぽんと背中を叩いた。


「プラプラ飛ぶと、毛が散るから。あと、ヨダレ」

「はーい」

『サエは何にする?』


 キッチンにずらっと並べられた食材に驚いてしまう。

 野菜は玉ねぎのスライス、レタス、トマト、きゅうり、肉類は生ハムにハム、そしてチーズはクリームチーズからモッツァレラに、ゴーダチーズまで! 他にも食材が並んでいる。


「いつも、こんな朝ごはんなの……?」

『そうよ? でも昼も同じ。コーヒーと、サンドイッチだけ。スープとか欲しかったら、作ってもいいけど、私は食べない』

「いや、あたしも朝はそんなに食べられないから、それで十分なんだけど……わー悩むわ……」


 考え込むあたしに、リルリアは指をさした。


『ウードさんは、野菜たっぷりのハムサンド。私は桃と生クリームのフルーツサンド』


 ウードさんのサンドイッチはサンドイッチしているが、リルリアのフルーツサンドは、パンの上に生クリームとカットされた桃がのせられている、サンドされていないサンドイッチだ。


「そしたら、あたし、クリームチーズとピスタチオとハチミツにしようかな」

『じゃ、それ以外は冷蔵庫に片付けてくれる?』


 手際よくサンドイッチを作る間、あたしは食材を運び入れるのだが、もう冷蔵庫が冷蔵庫じゃない。

 ()()()()、だ。


「入口と内側の比率があってない。なにこれ……」

『宅急便魔術師の特権よ。アイスロックをいれて温度管理をする必要はあるけれど、魔力に余力がある魔術師は、しまう場所を広げて使うことができるの。リュックはもちろん、財布やクローゼット、靴箱なんかも、しまうものは容量を増やせるのよ? サエも、早くコツをつかめるといいんだけど』


 結構、生活に便利な魔法なことを理解しつつ、あたしたちは朝食を食べ始めた。

 ウードさんのコーヒーは今日も濃いめでおいしい!


「サエ、このジャム、おいしい!」

「よかったね。あたしのもおいしいよ。ひと口食べてみる?」

「うん!」


 あたしのサンドイッチも気に入ったようだ。

 目を丸くしながら食べている。

 だけど、シラチャはすぐ手元の作業に戻った。

 コーヒーのミルクを混ぜる作業だ。

 今日も練習でスプーンを持ってもらっている。

 あたしのコーヒーに牛乳を入れたのだが、それを丁寧に混ぜ続けてくれているのだ。


 カップからコーヒーがあふれ、ちょっとびちゃびちゃしているが、練習だから。練習だから!


「……ね、リルリア、宅急便魔術師の資格のこと、詳しく知りたいんだけど」


 大きな口で桃を頬張ったリルリアが、手で、ちょっと待ってと言ってくる。

 コーヒーで流し、小さく頷いてから話してくれた。


 簡単に言うと、宅急便魔術師の資格は、取ったら終わり、ではないってことだった。


『国ごとや、街ごとで必要なのよ、この資格』

「じゃあ、センタムじゃない場所に届ける場合は、届け先の資格もいるってこと?」

『それは大丈夫。集荷場所の国や街の宅急便資格が有ればいいわ。大抵はそれで事足りるから。……でも、そうね。ここから、例えば空中都市まで配達となると、空中都市は空を飛べる魔法が必要だから、空中都市と繋がっている地上の街まで、になったりはするわね』

「なるほど。じゃあ、空中都市で宅急便をしたいなら、空中都市で宅急便の資格を取らなきゃいけないってことか」

『そういうことね』


 カップがびちゃびちゃになったカフェオレを飲み込む。

 シラチャの思いが詰まっていて、ぬるい。

 シラチャは混ぜるのが楽しくなったようで、コップに入れてもらった自分用のオレンジジュースを混ぜている。

 だいぶ肉球で持つのも慣れてきたようだ。


「じゃあ、センタムは何か必要な魔法とかあるの?」

『ここは大陸だから、とにかく荷物がたくさん運べれば問題ないわ。だから、タル宰相に一矢報いるためには、私よりもすごいものを運ぶ以外にない、とは思ってるんだけど……』


 小さいため息がこぼれた。

 もしかするとずっと悩んでくれていたのかもしれない。

 何も知らないままじゃ、だめなのに、どこから何をしたらいいか、全然イメージできない……

 ヤバい。迷惑しかかけてない……


 大きなレタスをもしゃもしゃと食みながら、ふわりとウードさんが浮いた。


『リルリア様はどのようにて取得なされたのですか?』


 リルリアは、濃いコーヒーをぐっと飲み込み、思い出すように視線を泳がした。


『えっと、私は隣国の宅急便資格を持っていて。でも、もっとお金を稼ぐためには都で集荷したものを運ぶのが一番って思ったの。アピールついでに、隣国から5人の特級魔術師に頼むはずだった木材を、私がいっぺんに運んだのよ』


 もう、規模がわからない。

 1人の割合もわからなければ、5人分運べることがどういうことなのかも意味がわからない。


『それで、サエは一軒家くらい運べば、タル宰相に認められるんじゃないかと思って。実際、案件もあるのよ。頼まれてたんだけど、急ぎじゃないのもあって、まだ受けてなかったのよ』


 案件、あるんですか。

 誰ですが、一軒家ごと引っ越そうと思ってるの。

 だが、それよりも……


「あたしの容量、わかんなくない?」

『そこで、ソーロスの出番! 魔力の容量を知るには、隣国にある魔術学園に行く必要があるの。でもそんなことしてたら、調べるだけで2週間かかってしまう。でも私たちは早く資格を得て、早く領主のところに行きたいじゃない。だから、こっそりステータスをみ』


 ドアの外が騒がしい。

 激しいドアノックに、リルリアの顔が険しくなる。


『なにかしら……』


 キッチン横の柱を突くと、小さな窓が現れた。

 ドア越しの相手が見えるようだ。

 2人いる。


「……は? ソーロスと、……宰相? なんで?」


 リルリアの肩越しに見ていたら、いきなり扉が開かれた。

 どうもソーロスが合鍵を持っていたようだ。


『私が決めたの。関係ないでしょ!』

『そんなこと許さない。勝手すぎる』

『勝手じゃない! 私は決めたの! リルリアやパイセンとあのクソ領主のとこに行くから! だからサエのステータスも見る! 従者のステータスを見るのは普通のことじゃんっ!』



 いきなり、リビングで怒鳴り散らす内容じゃないと思う。

 あたしはしっかり聞いた。


 『リルリアやパイセンとあのクソ領主のとこに行くから!』


 リルリアを見ると、額に手をおき、項垂れている。

 一緒に来るなんて想定外だったのか、想定内だけど、今発動して落ち込んでいるのか。

 どっちにしろ、想定外か。


 とりあえず、残り半分のびちゃびちゃカフェオレを一気に飲み干した。

ご覧いただき、本当にありがとうございます。

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