第25話 まさかの事態に? なったの、ならなかったの?
あたしの肩を叩いてさらに笑うタル宰相に、ドン引きだ。
ワインを一気の飲み干したのが、さらにドン引きの理由でもある。
『わしに啖呵を切ったのは、そこのリルリア以来だな。一番最短でこの都で資格を取ったのは、リルリアだ。あいつを超えるとは、さすが竜騎士殿よ』
遠回しに、
全く、無理なこと言ってるよね、ガキ。
ってことだろうか。
30分で取得したとかなら、もう希望はない。
かもしれないけど、それでも、努力はしようじゃないか!!!!
何事も、やる前から諦めては意味がない。
資格が取れれば、とにかく、交渉はできるし!
「……そう、なんですね。でも、前例のある方から学べば、もっと最短で取得もできると思いますので、より気合をいれて頑張りたいと思います! では!」
あたしは言い切ると、シラチャの元へと急ごうと、足を向けた。
遠目でもわかる。ウードさんがぴゅんぴゅんしている。
あれは、励ましている、きっと。
焼き場を過ぎようとしたとき、
『サエ、』
見ると、ソーロスだ。
『これ、みんなで食べよ!』
切り分けられているが、本当に大きな肉の塊だ。
シラチャの体の3倍はある。
「でも、ほかの、その」
『いいんだよ、あんなオヤジなんか! 私はパイセンの味方なんで! これはシラチャへのお詫びの肉だし!』
ソーロスの顔が隠れるほどの鶏肉の山を、しょんぼりしているシラチャの元へ、どかりと置いた。
『シラチャ、それ冷めたっしょ? こっち、みんなで食べよ!』
「……うん」
まだしょんぼりのシラチャをあたしはそっと抱っこする。
頬をもじょもじょ撫でると、シラチャがあたしの顔を覗き上げた。
「ね、シラチャ、今度から、いただきますって、みんなでいってから食べようね。……もう、大丈夫。次はいただきますって言えるもんね」
シラチャの頭をゆっくりゆっくり撫でてあげた。
5回なでた頃には、ゴロゴロと喉が鳴り出し、10回なでた頃には、すりすりと頬擦りが始まる。
「シラチャ、お肉食べよっか」
「……うん!」
取り分けられた熱々の胸肉は、めっちゃしっとりジューシーだ。
焼き具合、抜群なんですけど!!
味見程度に小さく切って食べてみたが、見た目は鶏肉。でも食べた肉質は豚肉に近い。
柔らかいが、歯応えがあり、噛めば噛むほど味がでてくる。
少し獣臭さも感じるが、ハーブがしっかり刷り込まれていてるおかげか、獣臭さがちょっとしたアクセントになって、あとひく旨さに変換されてる。
そこに追加で運ばれてきたのが、デミグラスソースに、マスタード、ケチャップなどなど、多彩なソースと、焼き野菜だ。もちろん、エビや魚もある。
多すぎ。めっちゃ、多すぎ。
だが、今は楽しむことが優先!
「シラチャ、これ、どうやって食べる?」
「ぼく、このおっきなおにくに、ちゃいろのソースかける!」
「いっぱい食べようね、シラチャ」
「うん!」
さすがに手づかみはまずいと、フォークを持たせてみた。
「手で食べると汚れちゃうから、それにさして食べてみよっか。……あ、骨つきのはかぶりついていいよ」
「サエ、フォーク、つかっていいの!?」
想定外です。
喜んでいる。
「フォークもナイフも使っていいよ?」
「ほんと!? うれしー! サエといっしょー」
あたしの真似をしたかったのか。
もっと早くに持たせてあげたらよかったかも。
とはいっても、やはり、手は肉球。
うまく握れないよう。
「サエみたいにできないー」
ぐずりだしたシラチャの肉をあたしが切る間、ソーロスがシラチャの脇をくすぐりだす。
『シラチャ、私がシラチャにシラチャ専用のカトラリーセットを作ってあげようじゃないか!』
「ぼくせんよう?」
『うん。持ち手が細くて掴みやすい感じのにしよっか。まずは、フォークで刺して食べてみよ』
ソーロスは、あたしの真似なのか、シラチャを膝にのせて座らせると、切り分けた肉の皿をシラチャに差し出した。
シラチャはぶん! とフォークを振って、皿に突き立てる。
皿が割れるんじゃないかとドキドキするが、それはなかった。
ひどい音が鳴るぐらいで済んだ。……よかった。
どうにかお肉も刺さり、シラチャは満足そうに頬張っている。
「さえ、おにくおいしー! おおきなおにく、おいしー!」
『骨つきのお肉は、シラチャより大きいもんね。いいねー、大きいお肉!』
「うれしー! おいしー! ソーロス、ありがとう!!」
デミグラスソースでベチャベチャの口のまま、ソーロスに頬擦りしだした。
ソーロスのドレスがデミソース塗れに!!
「ちょ、シラチャ!」
『大丈夫っすよ、パイセン! こんなこともあろうかと、汚れ消失する魔法、かけといたんで』
『ソーロスの得意魔法だものね、それ』
にゅっと現れたのはリルリアだ。だが顔がサウナで整っていたはずなのにげっそり。胸すらしぼんで見える。
隣にはウードさんもいる。ウードさんも、ぷりんぷりんのお腹がしぼんでいる。
そんな2人の来た方向を眺めると、タル宰相の後ろ姿が見えた。
「……もしかして、宰相と話とか、してた……?」
『ほとんどリルリア様が話してくれましたが、心臓が口から飛び出しそうでした』
ウードさんはそういうと、給仕から妖精用ジョッキでビールを受け取り、一気に飲み干した。
あまりのいい飲みっぷりに、給仕は笑いながら2杯目を持ってくる。
リルリアも、白ワインをガッツリ握って飲み干すと、自分で注ぎ足し、それすら飲み干す。
『……はぁ。でも、サエもよく言ったわ。あれが正解。やるわね』
『だって、私のパイセンだからな! あーいう啖呵きる人、好きなんだよね、うちのオヤジ。……めっちゃキモ』
自分の親がキモいって気持ち、これだけはよくわからない。
どういう気持ちなんだろう。
軽蔑なのか、恥ずかしいなのか、嫌いなのか……
『リルリアも食べなよ。ウードさんも、ほら!』
ソーロスが促すと2人は席に着き、さっそくと頬張り始める。
『……そうよね。最短資格取得ルートは、明日構築すればいいし……今日はたっぷりお酒を飲んで、しっかりお風呂に浸かって、寝る!! わかった、サエ! 明日からよ、明日から!!』
「は、はい……」
宰相と、どんな話をしたのかも聞けないまま、夕食が始まった。
でも、リルリア、ウードさん、ソーロス、シラチャとの夕食は、とっても和やかで、とっても明るくて、サイコーに楽しくって!
だからちょっとだけだけど、家族団欒ってこんな感じなのかなって、嬉しくなった夕食だった。
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