第23話 王とはいうけれど
もう髪の毛、ぐっちゃぐちゃなんだけど。
めっちゃツヤツヤのロングがぐっちゃぐちゃ。
なのに、ティアラを外して、頭を振ったらストレートになるって、ヤバくない?
「え、ちょっと待って。髪の毛、形状記憶系……?」
思わず髪の毛に手を伸ばしたあたしに、ソーロスは笑う。
『私の髪、固いのか、めっちゃ真っ直ぐでさ。あんた、名前は?』
「あ、あたしは、サエ」
『いやー、おないの子としゃべるのなんて、ちょー久しぶりなんだけどー。サエか。短い名前で呼びやすい。いいね!』
やっぱり、言ってる。
おない、って言ってる。
同い年って意味、だよね。
でも、ウードさん、16歳って言ってなかったっけ……?
「あのさ、その、あたし、あなたの年齢、16ってきいてたんだけど……?」
どっかり腰をおろしたソーロスが、驚いた顔と同時に、ぐったりとソファに寝そべりだした。
『えー……マジかよー。なんで知ってんの? サエ、異世界の人でしょ? ステータス変だもん。えーーーやだー敬語とかだりーしー』
「いや、タメ語でいいけど」
ちょっと待って。
敬語を使いたくないから、サバよんだの……?
『タメオーケーってマジ? わかってんじゃん、サエパイセーン! で、リルリア、なんで異世界の人おんの?』
もう一発殴られたのは、仕方がないように思う。
ローブを脱ぎ、制服姿になると、ソーロスがじろじろと眺め出した。
『変わった服だ。動きやすそうで、いいね』
「でしょ? うちの制服、ブレザーだけどシンプルで可愛いって有名だったんだ。地元限定ね」
『こっちの女は、ドレスかワンピース。だからシャツとスカートにジャケットなんて、なかなかいないし。いいね、その格好も』
リルリアは慣れた手つきでお茶の準備を整えると、応接テーブルにお茶を並べていく。
席に着く前からわかる。
めっちゃ、いい紅茶だ。
香りが全然違う。ダンチってやつ。
めっちゃ丁寧なお紅茶の香り……!
『サエ、ここのソファに座って?』
1人がけ用のソファに腰を下ろすと、シラチャが頭によじ登ってきた。
「ねー、サエー、このおへや、かっこいいねー」
「そうだね。青が基調で、天窓がドーム型だ。夜空とか、きれいだろうね」
『私もお気に入りなの。サエも気に入ってくれて嬉しいわ』
焼き菓子もどうぞ。言いながらテーブルに置かれた皿には、小洒落たクッキーがある。
薄いクッキーだが、茶葉を練り込んであるのか、小さな粒が白い表面に見え、何より紅茶に勝るほどの甘く良い香りがしてくる。
「シラチャ、クッキー食べる?」
「たべる」
「お腹、いっぱいじゃないの?」
「ぼくね、たくさんたべれるんだよ!」
「……お腹壊しても、お尻拭かないからね」
あたしの膝の上でお腹を面に向けて、人間みたいにちょこんと座ると、あたしに両手を伸ばしてきた。
「よだれこぼさないでよ?」
シラチャにクッキーを手渡すと、両手で摘み、サクサクと食べ出した。
だがさっそく胸毛にクッキーの屑がまぶさっている。
取るのが大変だ。
シラチャの毛は細くて長く、絡まりづらいがゴミがくっつきやすいのだ。
「……今日はお風呂、どこかで入れるかな?」
「ぼくねー、おんせんにはいりたい」
「入れたらいいねー」
あたしとシラチャのやり取りをソーロスは嬉しそうに眺めている。
猫好き、いや、動物が好きな子なのかな。
『ソーロス、改めて紹介するわね。ジョシコウセイ族のサエ、膝にいる子猫がドラゴンのシラチャ、あと、浮いているのが妖精のウードさんよ』
ウードさんの柔らかなお腹が、お辞儀と同時に揺れる。
『お目にかかれて光栄で』
言いかけたウードさんをソーロスはお腹を指で突いて止めた。
『この部屋にいるときは、ただの、ソーロス! そういうのいいから』
心底嫌そうに吐き捨てたのを見て、ウードさんとあたしは見合わせる。
そう言われてもねぇ。という感じである。
『……で、なんでリルリアといるの?』
クッキーをつまんだ指であたしをさした。
あたしもクッキーを頬張り、答えていく。
「えっと、ウードさんの村にある温泉宿を復活させたくって。で、共同経営していた方のところに鍵を届けてもらおうと、リルリアのところに来て、いろいろ話をして、今、ここにいる感じ」
『温泉宿って、あそこの?』
指をさした方角は、間違いなく、ウードさんの村の方角だ。
『そうです。わたしたちの温泉宿を復活させたく……』
『でも、お金、あげたよね』
『それは、わたしたちの元には………。その、話すら来ておりませんもので……』
ソーロスが摘んでいたクッキーが粉々に砕けた。
『あのヤロー……』
大雑把に紅茶を飲み干したソーロスの肩をソファへ押し戻したのはリルリアだ。
『待ちなさい、ソーロス』
『待てるかよ。バカにしやがって。……私が王だからって、適当なことされるとどうなるのか、わからせてやる……!』
額の血管が切れそうなほどのブチギレ具合に、あたしはそっと紅茶を飲み込む。
怒らせたらヤバいタイプかも……
でも、怒りたい気持ちもわかる。
きっと王の立場になって、彼女なりに努力もしてきてたんだと思う。
彼女なりに、考えて考えて、きっと民を思って決めたんだ。
なのに、その気持ちを利用して、さらには自分たちだけいい思いをしている、なんて、あたしも許せない。
許せない……!
「……こわい」
シラチャがクッキーを食べ切らず、あたしの胸元に顔を埋めたのを見て、ソーロスは顔色を変えた。
『え、いや、あ、ごめん、シラチャ……あー! 初めての神獣に嫌われたくなかったのにー!』
地団駄を踏みながら、シラチャにどうしていいかわからないソーロスに笑ってしまうが、あたしもどうしたらシラチャの機嫌が直るかわからない。
昨日は焼けたキノコで機嫌が直ったけど……
「シラチャ、怖かった?」
「……うん」
「ソーロスがごめんねって。だから、今日はシラチャの好きなもの、ソーロスが食べさせてくれるって」
『……は? あ、へ、あ、うん! シラチャ、なんでもいいよ! 言ってみて!』
チラッとソーロスを見て、笑顔で手を振っているのを確認し、シラチャはぼそりと言う。
「……おにく。……ぼく、おにくたべたい」
『いいよ、いいよー! この、ソーロス、約束は絶対果たすよ! どんなお肉かな?」
絶対に叶えるよ。と言ってくれた声に、シラチャは見る間に笑顔になる。
「ぼくねー、おっきいおにくがいい!」
シラチャは腕いっぱい広げて、大きな円を描いて見せた。
シラチャにとって夢のお肉のよう。
黒目が大きい。興奮してる。かわいい。きゅるっとしてて、めっちゃかわいい!
『じゃあ、カルコン鳥の丸焼き、しよっか。カルコン、くったことある、シラチャ』
「あの、めっちゃくっちゃおおきなとり?」
『そ。めっちゃくっちゃ大きな鳥』
聞いた途端、シラチャの口からよだれがこぼれだす。
「おいじぞ」
ヨダレを吸い込みながらしゃべるため、変な口調になっている。
あたしは手でヨダレを受けるか迷うが、さすがにソファに垂らすわけにはいかない。
「え、シラチャ、ちょっと……、あ! たらさないでっ!」
『シラチャは正直でいいね。……そして、サエも』
テーブル越しに、ヨダレのついていない方の手を取ったソーロスは、にひひと笑う。
『私、人のステータス、見ることができるんだ。サエは本当に正直で、素直。……あたしが怒ったとき、サエも怒ってくれたよね?』
確かに、怒った。
ソーロスの気持ちを踏みにじり、さらには年齢にそぐわない大変な仕事をしているのを逆手に利用するなんて、ひどいって怒った。
え? そんなのもステータスに出るんですか!?
『めっちゃ嬉しかったんだ。パイセンのために、私、めっちゃ頑張るね!』
まさかの後輩ができたけど、国の王ですよ。国王ですよ。
いや、女王なのかな?
でも、後輩ができたのは、なんか嬉しいかも。
そうして、2人でにししと笑いながら、夕飯の準備に動こうとなったわけですが。
やっぱり、そう簡単にはいかないよね、人生ってさ。
宰相の登場で、空気が変わったんだよね……
あたしの給与の話、戻ってこーーーい!!!!!
読んでくださり、ありがとうございます
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