第21話 アイスサウナ、再開!
「サエー、からだ、じんわりあっついー」
シラチャの声に、さっと砂時計を見る。
ひっくり返すのを忘れていた。
気づけば熱いアイスサウナにのぼせてしまう。
「水風呂はいろ!」
飛び出したあたしに、リルリアとウードさんもついてくる。
全身を一度大まかに流してから、どぼんと浸かった水風呂だが、最初は冷たいものの、だんだんと熱を感じるのが面白い。
ささっと上がり、もう一度、椅子へと体を伸ばす。
シラチャはあたしのお腹の上でへそ天しだした。
「はぁ〜……ととのうねー、サエー」
「お、すっかり、サウナーになってきましたな、シラチャ殿」
2人で湧き出る汗を感じていると、リルリアがそれに笑う。
『なに、その、ととのうって』
『わたしも気になっていたんです。ととのうとはなんです、サエ様?』
あたしは寝そべったまま、よりだらりと脱力する。
「こうね、ぼーーーっとする感じあるじゃない。出て、水風呂入ったあとなんか特に。このとき、体のなかでいろんな機能がリセットされたり、心がスッキリしたりするんだ。それの総称を『ととのう』っていうんだよね、あたしたちは」
『面白いわね。私も使おうかしら』
『ととのう。いいですね。心身がととのうのは、たしかにそうですし』
頬をなでる風に驚くが、すぐそれがどこから入ってくるか、判明した。
天井だ。詳しくいうと、天井の下の四方の壁が空いている。
ほどよく日差しが差し込み、空気の流れもつくっているなんて、素晴らしすぎる!
しかしながら、熱さが強い。
アイスサウナは低温でじんわり、のはずなのだが、それでも芯まで届いている熱の具合が普段と違う。
異世界だから、体がついていけてない?
やっぱり、ハーブ水のハーブのほうだろうか……
『サエ、安心しきってるようだけど、やることは山積みよ?』
ととのいだしたあたしに、リルリアの声がガツンと響く。
お腹のシラチャは口を半開きで寝ている。いいなぁ……
「それ、どういうこと……?」
『お互いの契約書はもちろん、あなたも宅急便魔術師として登録しなきゃいけないし』
「……え。めんどくさ」
『お金のこともね。でも基本は30万を固定で、あとは宅急便の荷物によって、歩合がいいかしら。そもそもの基本の金額よね。もう少し高めにしてみる?』
「……え? もっとなんか、めんどくさいんですけど」
ペチンとおでこを叩いたのはウードさんだ。
『サエ様、こういうことはしっかりと! あとから揉めるなど、わたしのような二の舞にはならないようにしてくださいね』
「そう、だね。……うん。ちゃんと、考えるよ」
家族を守るって、大変なんだな。
養ってくれたおじさんとおばさんにも、一応感謝しとかないと、だね。
ま、あたしを育ててくれたお金は、両親の遺産ですけどね!
『それよりもサエ、あなたの魔力、どのぐらいなの?』
あなたの胸、何カップ?
のほうが、まだサバが読めるんですけど、魔力ってなんでしょう?
『わたしも気になります。差し上げたカバンの容量、かなりありましたし』
「え、いや、それ、シラチャの力でしょ? あたしは女子高生。魔力なんてないよ」
『そう? あなたのローブ、あれだけ綺麗に紋様が出るのは珍しいんだけど』
「それ、魔力が関係あるの……?」
『ええ。着ている人に影響するわ』
そういうリルリアに、ウードさんがお腹を揺らして人差し指を立てている。
『わたしは思うのです。サエ様は、ジョシコウセイ族のなかでも、風の加護を受けていると、わたしは思っておりまして』
『どうしてそう思うの?』
食いついたリルリアに、ウードさんが自信ありげに、胸を張る。
『今日、都へと伸びる橋を渡ったのですが、それはもう嵐の如く素晴らしい速度で! あれだけの速さは、加護がなければありえません! 本当に風のようでした。いや、風になっていたのです!』
ウードさんにとって、とっても素敵な出来事だったらしい。
目がキラキラしてる。
こんな少年みたいなウードさんが見れて、あたし、ちょっと感激かも。
──目の前の心配事が一旦、落ち着いたからだろうか。
ウードさんはさらに饒舌になり、リルリアもより打ち解けている。
なにより、あたしも普通におしゃべりができて、めっちゃ楽しい!!
体を丸めてじっとしていたシラチャだったが、ぷーんと飛んで、あたしの頬に張り付いた。
「サエ、わらってるー。ぼく、うれしー!」
すりすりするシラチャに笑っていると、反対側の頬に冷たいグラスが押し当てられる。
『ほら、サエ、シラチャ、イチゴのスムージー。これ飲んで、サウナ、もう1セット楽しんだら、王の元へいきましょ。報告もしなきゃいけないしね』
ブルーベリーが多めになったスムージーに感動していたのに、喉がつまる。
今なんて言った……?
『リルリア様、今、王と言われましたか………』
『ええ、言ったわよ? 現状報告をしないと。それに私に旅通訳がつくなら、王から予算をもらわないとね』
ちょっと待って。
なんかお腹、痛い。痛い。ヤバい。
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