第16話 世の中全て、金次第
絶対に、サウナだ!!!!
理由は、小さな小屋から煙突が伸び、煙が出てるから!!!
じっと立ち止まったあたしに、ウードさんがもぞもぞと顔をだす。
同じくシラチャもだ。ふわふわの毛が頬をなでて、気持ちいい。
『あー、あのサウナですね』
「へー! アイスロックのサウナだー。さむそー」
シラチャのいうこともわかる。寒いなかに、裸で入るイメージを想像しているのだと思う。
確かフィンランドのアイスサウナだと、薪ストーブを小屋の中に入れて、煙突につなげてロウリュして、温度を上げて……ってネットで見たけど、ここは異世界。ちょっと違うみたい。
アイスロックの個室で、直接薪か何かを燃やして熱を出し、サウナにしているよう。
異世界版って言ったほうがいいかも。
「そっか。アイスロックって溶けないんだ」
『はい、溶けませんよ。だって、石、ですからね』
「そうだよね……ヤバい、めっちゃ、入りたい……!」
うずうずとし出したあたしに、ウードさんが笑って、胸を叩いた。
『サウナなら、入れますよ、サエ様』
「ホント?」
『はい。使用料は50Gで、レンタル水着は30Gです!』
それではと、張り切ったウードさんだが、受付のお姉さんのところで見た料金表は、全く違う。
【使用料金(90分利用) 3000G】との表示が。
個室にグレードがあるようで、いろんな設備が整っているのは、ゼロが1つ違う。
さらには、オプションでレンタル水着とタオルがセットで1000Gだ。
『今、どのサウナ室も空いてますので、お選びいただけますが?』
「え、いや、大丈夫です……」
そうか。時代が流れ、物価が上がったんだ。
もちろん、国が豊かになっているので、庶民の所得も上がっている。
これが、都での普通の値段なんだ……
「……マジかよ」
『こ、こんなことが……む、昔は、昔は、1000Gあれば、豪遊できたんです……』
「ぼく、ガマンできるよ……」
涙声のシラチャにあたしも泣きそうになる。
お金が、欲しい……!
ふらりと立ちくらみがし、手をついた場所は、まさかのアイスロックの壁!!!!
「ヤバ! ついた……」
フードがパラりと落ちてしまうが、手が離れないので、戻せない。
シラチャとウードさんがフードを被り直してくれたけど、手は離れない。
カバンにまだジュースがあったが、それを開けようにも人間仕様。シラチャもウードさんも栓を抜けない。
「ヤバ! マジかよ!」
あまりの踏んだり蹴ったり具合に放心状態だ。
ウードさんもシラチャも、どんよりと黙り込む。
不意に、肩が叩かれた。
『……あなた、大丈夫?』
金髪に尖った耳。間違いなくエルフだ。
身長も180cmくらいある、綺麗な女の子。刺繍が施されたワンピースは空色で、金色の刺繍が施されている。
見ただけでわかる。
めっちゃ、金持ちだ、この人……!
今、あたしの目は『金』に変換している。
ヤバい。
もっと異世界を楽しみたいのに!!!!
彼女は慣れた様子で、持っていた水筒の水をかけてくれた。
無事に手がはがれたが、世の中、金次第だと思うと、彼女を直視できない。
「……ありがとうございます……はぁ……」
俯きながら、会釈をしたあたしに、ウードさんとシラチャが必死に声をかけてくる。
『気を確かに、サエ様』
「だいじょーぶだよ、サエー」
とぼとぼと歩き出したあたしの肩が、またつかまれた。
『ね、よかったら、いっしょに入らない?』
天使なんでしょうか。輝いています。
すぐあたしは首を横に振った。
「あああありがとうございます! ……でも、あたしたち、お金なくって」
『それは心配しないでいいわ。だって、あなた、入りたいんでしょ?』
「でも!」
彼女の顔が、ぐっと寄る。
鼻の先がくっつきそう……!
めっちゃ目の色、綺麗。肌も綺麗。陶器って感じ! お花の匂いする!!
『……あなた、ここではない、別の世界から、来たんでしょ?』
小声で言われた言葉に、あたしは答えられない。
どう、答えていいかわからない。
『心配しないで、私は、あなたの味方よ、サエ』
あたしの名前を呼んだ彼女は、優しくあたしの冷え切った手を握る。
『私は、リルリア。あなたのこと、待っていたの』
読んでいただき、ありがとうございます!
次回はサウナ回になります。お楽しみに。




