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第15話 まさかの、サウナが!

 手が震えてくる。

 こんな大勢のなかから、エルフの女性を探すのか……?

 確かに都に入ってから、エルフの姿は少なめではなかったけど、少ないわけじゃない。


『サエ様、お腹が空きましたか? 手が震えてますよ? さ、サンドイッチでも』


 そっと、タンテさん特製サンドイッチが手渡され、思わず口に運んでしまう。


 うまい……!


 たくさんの弁当をうまいうまいと食べていた隊長並みにいいたくなる。それくらいに、


「うっま! なにこれ?」

『彼女特製のローストビーフとベリーソースのサンドイッチです。絶品ですよね』

「ぼくもたべるー!」


 スマホを見れば、もうすぐ正午にさしかかったところだ。

 お腹も減っていて当然な時刻。


 まばらに通り過ぎる人たちを背に、あたしたちはサンドイッチを頬張りだした。

 天気もいいし、サンドイッチも美味しいし、なにより、オレンジジュースとの相性がいい!


「サエ、おいしいね! みんなでたべるとおいしいね!」

「ホントだね!」

『ご一緒できて、わたしも嬉しいです』


 心のざわめきが落ち着いたのを機に、あたしはウードさんに尋ねてみる。


「ウードさん、まさか、人混みからリルリアさんを探すわけじゃないよね?」

『ちゃんと、アテはありますよ? サエ様、リルリア様のところまで行ってくれるんですか。もうここでお別れかと……』

「サエはやさしーからね!」

「やめてよ、シラチャ。だってさ、ウードさん飛んでるの見つかったら、見世物になっちゃう」

『ええ、まあ、そうですが』


 そういうウードさんの顔が嬉しそうだ。飛び方もふわんふわんとかわいらしい。

 そんなに全身で喜びを表現されると、なんだか照れてしまう。


「ほ、ほら、アテはなに?」


 あたしがウードさんのお腹をつつくと、ウードさんはぽよんとお腹を揺らし、人差し指を立てた。


『待ち伏せ作戦です』


 作戦はこうだ。

 ここは物流の中心でもあるため、集荷場が設置、それを運ぶために、宅急便魔術師が多くいるという。


『この都の一番大きな集荷場に行けば会えるはずです。本来なら、人物指定で荷物を運んでもらうよう集荷場受付に頼めばいいのですが、それほどお金がないもので……』


 どこでもお金だ。

 お金が必要なのだ。

 やだやだ。


「小さいところに来ない理由は?」

『リルリア様クラスだと、かなり大きな物、それこそ建物なども運ぶことが可能です。そういった方は貴重ですし、リルリア様宛の荷物は厳重な管理も必要なことが多い。指名もされるとなれば、仲介場所は、大型集荷場しかありません。小さいところは荷物の受け渡しのみですから』

「よかったぁ。闇雲に探すのかって、ドキドキしちゃった」


 膝の上でサンドイッチを食べていたシラチャは、いつのまにかベリータルトを頬張っている。

 また胸毛が紫色になってる。


「シラチャ、お風呂、すぐ入れないんだよ?」

「だいじょうぶ。べろべろする。ずっとおいしいよ?」

「ない。それはない」


 シラチャは自分の胸毛を味のある毛とでも思っているんだろうか。やめてほしい。ガピガピになりそう。

 改めて食べ方を教えなきゃダメだなと思いつつ、あたしとウードさんもタルトに手を伸ばしていく。

 時間が経つと、生地がしっとりとしていて食べやすく、朝よりもシナモンの香りが引き立ってて、よりスパイシーで美味しい!


 ゆっくり食べ終えたあたしたちは、ひと息ついて、立ち上がった。


『さ、腹ごなしに歩きましょう。大型集荷場は、ここからもっと東になります』

「場所、わかるの?」

『はい。地図、持ってますので』


 再び、どこからか取り出した地図を見せてもらうと、大通りを中心にした地図が広がった。

 大通り沿いには、さっき見た通りの商店が並んでいて、さらに右側に、宿屋や飲み屋街が広がっていたようだ。左側には住宅街の他、集荷場が点在しているのがわかる。


 集荷場はこの都の中に5つ。

 受付のような小さな集荷場が4つ。都のはずれに、広大な土地を有した集荷場が1つある。

 ウードさんが言っていたのは、この集荷場のことだろう。

 集荷場の名前は、センタム集荷場とある。


「ちょっと奥まってるね。じゃあ、さっそく、行ってみますか」


 大通りの他に、裏道もあるが、住宅街の裏道はあまり治安が良くないとウードさんが言う。


『流れ者が居着いているところもあるといいます。遠回りでも、大きな道を行きましょう。あと、カバンはローブの中に。スリも都は多いですから』


 海外みたい。行ったことないけど。

 ちょっとビクビクしながら歩いてしまうが、それも付け狙われると、胸を張る。


 昼時なのもあり、屋台に人が並び、露店横の椅子やテーブルではそれらを囲んで昼食タイムだ。

 見る限り、パンやスープが見える。串焼きもあるようだが、香辛料が多めの味付けの雰囲気。


「……ヤバ。見てたらお腹減ってきた」

『わかります』

「ぼくねー、あのいちごたべたい」


 イチゴが木の器に入って売っている。

 あたしの世界のものより大ぶりだ。食べ応えがありそう。


「ダメだよ、シラチャ、お金ないから」

『イチゴを買うお金ぐらい、持ってますよ?』


 ウードさんの声に、あたしとシラチャの目が光る。

 つつっと屋台まで行けば、甘酸っぱいイチゴの香りが鼻をくすぐる。

 あたしはすぐに値段を確認した。


「……は?」

『どうしました?』

「ウードさん、イチゴ、1000って書いてある」

『1000? 屋台でですか?』

「うん」

『あの、今、わたしの手持ちは、1000です』

「……やめよう」


 駄々をこねるかと思ったシラチャだが、ぼくがまんできるよ。なんて言い出した。

 ヤバい。健気すぎる。


「お金かぁ……稼ぐ方法探さないとな……」


 そうは思うが、働くにも仕事を探さなければならない。

 女子高生のあたしでもできる仕事なんて、この世界にあるんだろうか。


「ここ、お腹空くから、一本奥の道に行こうか」


 大通りを外れたが、入った道は道具屋通りだった。

 防具、剣、杖、鎧など、さまざまな道具が店の前や、大きく取られたショーウィンドウから眺められる。


「変な感じ」

「なにがへんなのー?」

「あたしの世界と全然違うから」

『どういうところが違うんですか?』


 ウードさんも気になるよう。少し、戸惑いながらも、楽しそうな声がする。


「あたしの世界って、馬車とかなくて、道路も石畳の道じゃないんだ。建物はもっと硬い石を固めた四角いのが多くて、漆喰とか木材の家は少ないんだ。道具もね、剣とかも売ってないんだよ?」

『では、他のエリアを渡るときは、どうするんですか?』

「飛行機っていって、空を飛ぶものがあるの。それに乗って移動したりするんだ」

『襲われないのですか?』

「襲われるんですか……?」

『都付近はモンスターが出ないよう、結界を張ったり、冒険者たちが駆除をしたりしているので、とても安全ですが、それ以外の場所はそれなりにおります。陸、海、空、それぞれおりますので』

「……やっぱ、異世界だな、ここは」


 高い建物がないぶん、空がとても広く見える。

 香辛料の強い匂いがなくなり、道具屋特有なのか、革の匂いや金属を焼いた匂いがする。

 通り過ぎる人たちも、冒険者、なのだろう。

 鎧や剣、杖を携えた人ばかりだ。

 あたしはローブ姿なのもあり、それほど違和感なく歩けている。


『この通りを抜けて、もうひと区画歩けば、大型集荷場になります』


 集荷場に向かう馬車が多いのも、なぜか魔術師が多いのも、あたしは目に入らない。

 あたしの視線を釘付けにするもの、それは───!


「……あれって、アイスロックのサウナじゃない……?」

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