第13話 門番を無事に通過したい!
『いやー、振り落とされるかと思いましたぁ』
都に入る門は3ヶ所しかないため、一番近い南門へ歩いているところだ。
人の流れは見えていたが、橋を渡るとわかった。
ぐるりと向こうに回らなきゃいけない。
まだ歩くのかとウンザリしているのに、ウードさんはなぜか興奮気味だ。
『あれほどの速度がでるとは……! いやぁ、驚きました!』
ただ、速いと言われても、あたしに実感がない。
確かに、思ったよりも早かった、気はした。
でも、目測を誤っただけだと思う。体も全然疲れてないし。
「ぼくもぴゅーんってした!」
「そんなに?」
シラチャがぴゅーんと跳ねて、あたしの頭に飛びのってくる。
ウードさんもあたしの周りをクルクル飛びながら、
『ええ、ええ。やはりサエ様は、竜騎士なのですよ!』
「それ、ちがうって。あたしはただの女子高生!」
ウードさんは改めて悲しそうに顔をつくって、それから笑った。
『その、ジョシコウセイ族のサエ様は、間違いなく風の加護があるのでしょう。そのローブは精霊・シルヴェストルたちが創ったものですが、あれほどの力を引き出せる方は、そうはいませんから』
南門は人通りが少ないとウードさんは言っていたが、それでも門に門番が5人立ち、何かを見せて、確認、それから都の中に入っているようだ。
手荷物検査とかもあるんだろうか。
制服だけは見せないように気をつけないといけないかも。
『では、シラチャ様、わたしといっしょに、フードのなかに隠れましょう』
「わかったー」
るんるんで入っていくシラチャだが、外の様子が気になるよう。
頭の中でもぞもぞ動き回っている。
「ぼくもおそとみたい」
『しかし、この都の人間は、勇者信仰を強めています。ドラゴンだとバレると、大ごとになるかもしれません』
門に入る列に並んだところでこの発言だ。
そういうことは前もって教えておいてほしい。
「ウードさん、その、勇者信仰って、なに?」
ウードさんは、困ったような声をもらしながら、続けた。
『……その、事実ではないのですが、世界を平和にしたのは竜騎士ではなく、勇者が世界を平和にしたという信仰です。……かの竜騎士、タツ様がいらしたときは100年以上も前になります。人間は短命ゆえ、竜騎士の活躍を上手く伝えられなかったのでしょうね』
果たしてそれだけだろうか。
人間のことだから、自分達に都合のいいように解釈、湾曲させて、民をまとめる口実にしたのではないのだろうか。
聞けば、この都はできてまだ100年ほどと、古くはない。
『サエ様、こちらが通行証です。古いものですが、使えるはずですので』
肩から袖を伝って落ちてきたそれを手で受け止めた。
見ると、とても丁寧に模様が彫り込まれた木の板だ。
前方を眺めていると、門番の兵士に、確かに何かを見せている。
「サエー、のどかわいたー」
「中に入ったら休もうね」
前方の人たちは門番と馴染みのようだ。
軽い雑談をしてるが、みな肌の色が小麦色。さらに淡いブラウン系の髪の色をしている。この土地の人間たちの色のようだ。
あたしは改めてフードを深く被り直し、グローブをはめ、通行証を握り直した。
徐々に近づくなか、みな、楽しそうな会話が聞こえる。
こういうのいいよね、いつもの流れなんだけど、和気藹々してる感じ。
あたしの番になり、見慣れないローブ女と一瞥するやいなや、先ほどまでのテンションと変わり、目つきが鋭い。
『……通行証を見せろ』
鎧を着込んだ兵士の声が重く聞こえる。
腰を見れば、剣もある。……怖っ!
あたしは改めて通行証を撫でてから、手渡した。
ちゃんと通れますように、という願掛けである。
『……は? なんだ、これは……』
兵士の驚いた声に、あたしの肩が増える。
シラチャの爪が肩に刺さる。ウードさんのバイブレーションを肌で感じる。
……走って突破するしかないか……
フードの奥から覗き上げるように兵士を見ていると、被っていた兜を外し、眺め出した。
『これは年代物じゃないか……! お前、これ、どこで買ったんだ?』
「……いえ、そ、そ、祖父から譲り受けまして……」
『そうか! ……ということは、長旅だっただろ? ご苦労さんだったな。いやぁ、ローブの型もそうだが、いい趣味してるな。観光か?』
「アイスロックのサウナを……」
『おお! サウナな。温泉もいいぞ? 傷が早く治るんだ。楽しんでけよ。……よし、通れ!』
ポンと肩を叩かれ、さらには手を振られ、あたしは門をくぐっていく。
まだ心臓がドキドキしている。
この門番は単に話好きなのか……?
行列になっていても作業効率を上げない感じは、ちょっと南国な雰囲気がある。かも。
この短いトンネルが、都を覆う壁であり、その中ということになる。
壁画は、勇者がドラゴンを倒し、世界平和になったことをモザイク画で伝えている。
ただ、モザイク画のドラゴンは、ふわふわしていない。
鱗に覆われたトカゲの姿だ。
シラチャも大きくなったら、トカゲになるんだろうか。
ふわふわのままがいいな。
人の流れに乗りながらトンネルを抜けると、そこには、まさしく………
「めっちゃすんごいファンタジー、きたぁぁぁぁぁっ!」




