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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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奮闘

 土の採掘場は、ヘリオ峠の中腹で街道から脇道へ入り、10分ほど進んだ場所にあった。

 幅は20メートルぐらいで、粘土の層に沿って斜面を切り崩している感じだ。


 周囲は樹木に囲まれた山そのもので、アツーカの山育ちの俺には故郷に戻ったように感じられる。

 木は多いが殆どが落葉樹のようで、もう葉を落とす時期だから見通しは悪くない。


 たぶん、夏場の葉が茂る時期だと見通しが悪くなり、魔物の接近を許しやすくなるだろう。

 工房の人達も、そうした状況は分かっているようで、今ぐらいの時期から春先までに、初夏から晩秋までの土も採掘しておくそうだ。


 トラッカーの3人は、採掘場を取り囲むように配置について監視体制を敷いた。

 持ち場につくと、全員が鉄の輪を束ねたものを鳴らし始めた。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン……ガシャン、ガシャン、ガシャン……


 鉄と鉄がぶつかる音は、魔物や獣にとっては武器を持った人間がいると思わせる効果がある。

 群れていないゴブリンやコボルトなどは、この音を聞いただけで避けて通るほどだ。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン……ガシャン、ガシャン、ガシャン……


 トラッカーの3人は、順番に、リズミカルに鉄の輪を鳴らしている。

 こうすることで、より広範囲に多くの者が存在しているように錯覚させるのだ。


 しっかりと連携が取れている辺り、3人は良いパーティーなのだろう。

 誰もサボらずに、順序良く響いてくる音は、作業を進める工房の人達にとっても安心を運んで来る音だろう。


 トラッカーが三方に別れて警護を行っている間、俺は馬車の幌の上で周囲を警戒している。

 馬車を中心として、半径200メートルぐらいの円を描くように探知用のビットをばら撒いた。


 先日の学校襲撃事件の時に、長時間に渡って広範囲の探知を行ったおかげで、探知の範囲も精度も上がってきている。

 やはり、単なる練習ではなく、実戦の場で使った方が鍛えられるのだろう。


 シューレから課題とされている目視による監視も、この機会に改善されるように試みている。

 1点を凝視するのではなく、広い範囲を見るようにしつつ、視界に動く異物が無いか注意を払う。


 目視と探知ビットを併用していると、情報過多で頭がパンクしそうだが、慣れてくれば必要な情報だけを取捨選択できるようになるのだろう。


 陶器工房キーラフトの三人は、スコップもツルハシも持たずに採掘場へと下りて行った。

 まずは採掘する土の状態を調べるのかと思っていたら、予想外の方法で土を掘り出し始めた。


 何の道具も持って行かなかったのは土属性魔法を使うからで、三人が採掘する斜面に手をあてがうと土が隆起し円盤を形作る。

 円盤状に整形された土はトラックのタイヤぐらいの大きさで、表面は崩れないように固められてあるらしい。


 ある程度の数が出来上がると、馬車の荷台へ渡した板の上を転がして積み込んでいく。

 大きな円盤なので、かなり重量があるはずだが、軽々と転がしているのは魔法のおかげというよりか筋肉のなせる技のようだ。


 採掘風景は見ているだけだと簡単そうだが、実際にやるのは難しそうだ。

 うちの兄貴も、こんな感じで土を扱えるようになるのだろうか。


 採掘作業は魔力も体力も使うようで、工房の3人は1時間ほど作業するごとに休憩を取りながら昼まで作業を続けた。


「おーい、昼飯にするぞ! お前らも、交代で休め!」


 イボルの呼び掛けで、トラッカーの3人も馬車の近くまで戻って来た。

 1人を見張りに残して休憩すると言うので、俺も人数に加えるように言ったのだが、これは俺達の受けた依頼だからと断られてしまった。


 真面目なのは良いけれど、カルロッテを見張りに残して休憩に入ったフラーエとベルッチは少々ぐったりしているように見えた。

 朝から気を張りっぱなしだし、これであと半日持つのかと心配になってくる。


「イボルさん。午後の作業はどのぐらい掛かりますか?」

「そうだな、2時間までは掛からないと思うぞ」


 すでに馬車の荷台の半分ぐらいは土が積まれているので、人が乗るスペースを残して積めば終わりなのだろう。

 休憩の間、鉄の輪を鳴らす頻度が下がったからかコボルトが姿を現したが、フラーエが気付いて他の二人に伝えた。


「カルロッテ、ベルッチ、コボルトだ!」

「来たか!」

「今行く!」


 俺の探知ビットに引っ掛かった反応は8頭で、手出し無用の頭数は超えているが、まずはお手並み拝見といこう。

 3人は盾や槍、弓は背負って、左手に持った鉄の輪を鳴らし、右手には石ころを持っている。


 右の腰に下げた革袋には、予備の石ころが入れてあるようだ。

 威嚇の唸り声を上げながら近付いて来るコボルトに、カルロッテが石を投げつけた。


「ギャン!」

「ざまぁみろ! 近づいて来るなら、たっぷり石をお見舞いしてやるぞ!」


 日頃から練習しているのだろう、3人の投げる石はかなりのスピードで、コントロールも良さそうだ。

 この護衛の依頼では、魔物は討伐ではなく追い払わなければならない。


 あまり殺傷性の高い武器では、誤って殺してしまう恐れがあるし、大量に出血させると血の匂いで他の魔物を引き寄せかねない。

 その点、石礫ならば余程当たり所が悪くなければ死なないし、遠目から攻撃するから安全だし、何より費用はゼロだ。


 突っ込んで来ようとするコボルトには、中央のカルロッテが出鼻を挫くように石を投げつけ、フラーエとベルッチは外から回り込まれないように巧みに牽制している。

 拳よりは少し小さい程度の石だが、身体の小さいコボルトにとっては当たった時の衝撃は大きいようで、徐々に怯んだような表情を見せ始めた。


 それでも簡単に逃げ出さないのは、冬が近づいて山の食糧が少なくなっているからだ。

 アツーカ村では、そろそろゼオルさんが村のおっさん達を率いて、ゴブリンの巣を潰して歩いている頃だろう。


「ギャイン!」

「キャーン!」


 一撃を食らったコボルトは、腰が引けて動きが悪くなり、更に投石の餌食にされ始めていた。

 射撃場では自信なさげに見えたベルッチも、他の二人と同様に落ち着いて対処出来ているように見える。


 15分ほどの対峙の後で、敵わないと悟ったコボルト達は尻尾を巻いて退散していった。

 コボルト達が戻って来ないように、トラッカーの3人は少し追い討ちを掛けてから、戻って来た。


「ほう、なかなかやるじゃないか」


 イボルの言葉にワーダルとナブエロも頷いている。

 陶器工房の3人は、こうした状況を何度も見物しているのだろう。


 トラッカーの対応振りは、どうやら及第点をもらえたらしい。

 この様子ならば、次の依頼も受注出来るだろう。


 トラッカーの3人から視線を外したナブエロが、ニヤリと笑い掛けてきた。


「ニャンゴ君は出番無しみたいだな?」

「俺はオブザーバーだから、出番無しの方が良いんですよ」

「そうだな。出番があるようだと俺達にも危険が迫っているって事だもんな」

「はい、ですが皆さんには危険が及ばないようにしますから、ご安心下さい」

「よろしく頼むよ」


 戻ってきたトラッカーの3人は、少し肌寒いくらいの気温なのに汗ビッショリだった。


「お疲れさま。少しの間、俺が鉄の輪を鳴らしてるから、その間に休憩と準備をすれば?」

「はぁ、はぁ……悪い、ちょっと頼む」


 体力がありそうに見えるカルロッテでさえも、息を荒くして袖で汗を拭っている。

 フラーエとベルッチは水筒の水を煽り、ようやく人心地ついたみたいだ。


 汗を拭って水を飲み、投石用の石を補充してから10分と休まないうちに、カルロッテが俺から鉄の輪を引き取った。


「もういいの?」

「あぁ、本当ならばニャンゴに頼れないからな」

「真面目だねぇ……」

「当たり前だろう。真面目にやらなきゃ冒険者なんて簡単に死んじまう仕事だからな」


 真面目に、堅実に、カルロッテ達は一歩ずつ上を目指して進んでいるようだ。

 気の合う友達と一緒に活動するのは楽しそうだが、ライオス達のようなベテランから指導を受けられないのは不安だろう。


 陶器工房の3人は、一時間ほどの休憩の後、午後の作業に取り掛かった。

 成形して、運んで、積み込む……作業自体は単調なので、余計に疲労を感じそうだ。


 トラッカーの3人も午前中と同じ配置に着いて、また鉄の輪を鳴らし始めた。

 ただ、少々疲れが出て来ているのか、時折リズムに乱れが生じていた。


 ガシャン、ガシャン……ガシャン……ガシャン……ガシャン、ガシャン……


 それでも3人とも頑張っているし、土の掘削も8割以上終わっているように見える。

 このまま何事もなく終われば……と思っていたら、来てほしくない連中が姿を現した。


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― 新着の感想 ―
[一言] > 来てほしくない連中が姿を現した。 ブロンズウルフの群れですね。 無双のチャンスです。
[良い点] 探知用のビットを広範囲にバラまいて広範囲を索敵できるとは、 さすがはニャンゴ。 真面目に堅実に護衛任務に励む、カルロッテ達も好感が持てますね。サボらずに準備万端にして、頑張る彼らは応援し…
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