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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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トラブルメーカー

 森の陥没範囲が分かるように、調査に来ていたカーライル騎士団の方にも入ってもらい、上空から写真を撮影しておいた。

 陥没の範囲は広いが、見方を変えれば、地下から地上に出るには、それだけの範囲を掘り返す必要があるということだ。


 念を入れるならば、崩落部分の土を固めてしまった方が良いのかもしれないが、固めてしまうと植物が育たなくなる可能性がある。

 ただでさえ崩落によって森がダメージを受けているのに、その回復を阻害するような措置は避けた方が良いような気がする。


「エルメール卿、これで再び地竜が現れる心配は無くなりましたね」

「だと良いのですが……」

「えっ、これだけの範囲を埋めたのに、まだ懸念があるのですか?」

「そうですね、完全に無くなった訳ではありません。たとえば、この陥没した場所に雨が降って水が溜まり、それが地下に流れ込んで行ったら、また穴が開いてしまう可能性があります」


 俺は地質学とか建築学などの専門的な知識を持ち合わせていないが、可能性としては否定できないと思う。

 そもそも、この場所には先史時代の高速鉄道のトンネルまで、何らかの事情で穴が開いていた可能性があるのだ。


 地竜は、その穴から外部の匂いを嗅いだために、穴を広げて出て来た可能性が高い。

 今は完全に埋まっているので、外部の匂いなどは届かないはずだが、トンネルの他の部分に較べたら強度に劣るから掘り返しやすいのは間違いない。


「エイブラム様には報告しておきますが、一応この場所は定期的に巡回をされた方が安心できると思います」

「分かりました。私どもの報告書にも、その旨を書き添えておきます」


 念のため陥没部分の検分を行うという騎士達と分かれて、エイブラム様が滞在しているローテルの街へ戻ることにした。

 再び地竜の通った跡を辿って飛行し、今度は直接カーライル騎士団の施設の門前に着地した。


 ていうか、アルビーナが仁王立ちして待ち構えているんですけど……。


「ただいま、戻りました」


 俺が上空から滑り降りていくと、それまで険しい表情を浮かべていたアルビーナが、ぱっと花が咲くような笑顔を浮かべて迎えてくれた。


「おかえりなさいませ。もう地竜の穴を埋め終えたのですか?」

「はい、エイブラム様に完了の報告にあがりたいのですが……」

「父は現場の様子を見に行っております。ご案内いたします。馬を引け!」


 俺が断る暇も与えず、アルビーナは騎士に馬を引いて来るように命じた。

 程無くして、二人の騎士が馬を引いて戻って来た。


「どうぞ、お乗りください」

「あっ……えっと……すみません、乗馬の心得が無いもので……」


 馬よりも遥かに速い移動手段があるので、乗馬を習おうという発想すら無く、一人で馬に乗れる気がしない。


「では、私と共に参りましょう」


 アルビーナは、騎士の手も借りず、ヒラリと馬に跨った。


「さぁ……」

「で、では、失礼して……」

「エルメール卿、どうぞ前に……」

「はぁ……失礼します」


 鞍の後ろに跨って、アルビーナにしがみ付くのも格好良いとは言い難いが、鞍の前にちょこんと座るのは正直情けない。

 尻が痛くないように空属性魔法でクッションを作って敷いたのだが、後頭部にもふにゅんふにゅんとクッションが当たるんだよねぇ。


「では、参ります。はぁ!」


 アルビーナの乗馬は、侯爵令嬢の嗜みレベルではなく、騎士の早駆けレベルだ。

 乗馬に不慣れな俺は、鞍の上でポンポンと弾む羽目になり、その度に後頭部がポヨンポヨンと接触を繰り返すことになってしまった。


「にゃっ……ふにゃ……」

「喋ると舌を噛みますよ」


 格好良い騎士と、うら若き女性という構図は、ポジションが逆だよね。

 まぁ、こればかりは猫人の体格ではどうにもならないのだ。


 アルビーナは、地竜の討伐現場まで一気に馬を走らせると、馬上からエイブラム様を探して呼び掛けた。


「父上! エルメール卿が戻られました!」


 そして、馬を止めるとヒラリと身軽に降り立った。


「エルメール卿、お手を……」

「ありがとうございます。でも、一人で降りられますから……」


 さりげなく手を差し伸べるアルビーナの仕草に、危うくときめいてしまうところだった。


「エルメール卿、もう埋め終えたのか?」

「はい、現場の写真を撮ってきましたので、ご覧ください」

「おぉ、それが噂のアーティファクトか!」


 そうだった、すっかり日常的に使っているので忘れがちだけど、まだ一部の人にしか見せていないし、噂としては伝わっても実物を見る機会は無いんだよね。


「なんと緻密な絵だ……おぉ、大きくもできるのか」

「父上、まるで小さな窓から現場を覗いているようです」

「アルビーナ、気付いておるか。これは空から見た光景だ」

「あぁ、確かに……このように見えるのですな」


 カーライル父娘の驚きぶりを見て、周りで作業をしている騎士の皆さんも興味津々といった様子で、完全に手が止まってますね。


「エイブラム様、これで当面の間は地竜が現れる心配はございませんが、念のために定期的な巡回をお薦めいたします」

「うむ、確かに、予兆を察知できれば、住民の早期避難に繋げられるな。いや、ありがとう。今回の地竜の討伐、そして穴埋めの措置に関する謝礼は、ギルドを通じて振り込ませてもらう」

「かしこまりました。では、私はエルメリーヌ姫とアンブロージョ様へ報告に参りたいと思います」

「もう戻られるのか?」

「はい、スタンドフェルド領の皆さんも心配なさっているでしょうから、吉報は一刻も早くお届けしたいと思います」

「そうか、そうだな……気を付けて戻られよ」

「はい、失礼いたします」


 エイブラム様と向かい合って敬礼を交わしたところで、アルビーナが駆け寄ってきた。

 握手でもするのかと思いきや、ギューっとハグされた後で唇を奪われた。


「んー……エルメール卿、必ずお側に参ります」

「にゃっ……」

「楽しみにしていて下さい」


 アルビーナは、何事も無かったかのようにエイブラム様の隣に立って敬礼をしてみせた。

 俺も敬礼を返した後、空へと駆け上がり、ウイングスーツとジェットの魔法陣を発動させた。


 楽しみに……とんでもない、トラブルの予感しかしないじゃないか。

 ジェットの轟音を残し、地竜の討伐現場を中心にグルっと旋回した後、進路を旧王都へと向けた。


 ジェットの推進器を消し、風の推進器での飛行に切り替える。

 速度は落ちているはずだけど、今後の対策を思いつく前に旧王都の街並みが見えてきてしまった。


 推進器を消し、北から大きく回り込みながら滑空し、大公家の屋敷の前で急上昇して速度を落とし、門の前に滑り降りた。

 衛士に敬礼した後で、一番聞きたがっているであろう話をした。


「地竜三頭の討伐を終えました、スタンドフェルド領への影響はありません」

「おかえりなさい、エルメール卿。どうぞ、お通り下さい」

「ありがとう」


 俺が屋敷に向かって歩き、門から離れると、後ろから歓声が上がった。


「すっげぇ!一度に地竜三頭の討伐なんて伝説だよ、伝説!」

「あぁ……握手してもらうんだった」

「いや、まだ機会はあるはずだ。俺も握手してもらうぞ」


 いや、俺なんかと握手したって、何の御利益もないと思うけどなあ。

 屋敷の玄関でも同じ話をして、アンブロージョ様に取り次いでもらった。


 執務室へと向かう途中、別棟へと繋がる廊下をエルメリーヌ姫が走ってきた。

 走ってきた勢いのまま、俺に抱き着いてきたので、空属性魔法でクッションを作って受け止めた。


「ニャンゴ様!」

「ふにゃぁ、危ないですよ、姫様」

「どこもお怪我はありませんか?」

「大丈夫です、きっちり地竜三頭を討伐してまいりました」

「あぁ、ニャンゴ様……ニャンゴ様?」


 エルメリーヌ姫は情熱的なハグの後、突如として冷ややかな声で俺の名を呼んだ。


「ニャンゴ様、香水の香りがいたしますが……」

「にゃにゃっ……それは……」


 帰り際、アルビーナに抱きしめられ、ゴシっと頬擦りされた時の移り香だろう。


「カーライル領に現れた地竜は、このような香水を付けていたのですか?」

「そ、それは……そう、カーライル家のアルビーナ嬢に手合わせを望まれまして、もつれて倒れた時のものかと……」

「アルビーナ……じゃじゃ馬令嬢? 強さにしか興味の無い人が……いや、だからこそか……」


 ブツブツと独り言を呟き始めたエルメリーヌ姫の瞳から、光が失われて虚無の深淵がのぞきそうになってるんですけど。

 ほらほら、さっそくトラブルじゃないか……ちょっと怖いです、姫様。


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― 新着の感想 ―
地竜3頭撃破したけど1頭分くらいもらってよかったな。 1頭はバラバラ事件になっとるが・・
そりゃアンタの目の前の男は受信感度のいい女性には目をつけられる奴だぞ、というかアンタもそうやろと
前世が決して恵まれてなかったニャンゴには、オリビエ、レイラ、エルメリーヌ、アルビーナ、誰を選んでもうんと幸せになってほしいんですが。 エルメリーヌ姫のイメージがどんどん変わっていって面白い。
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