じゃじゃ馬慣らし
コジャルの騎士団の施設で一泊した後、いっそ旧王都へ帰ってしまおうかと思ったが、最初に地竜を討伐した街へ戻ることにした。
おそらく、収束砲撃の余波で埋めてしまったカーライル領の領主エイブラム様に謝罪するためだ。
「オーベルズ騎士団長、お世話になりました」
「いやいや、こちらこそ地竜を討伐していただき、ありがとうございました。昨夜のうちに早馬を走らせましたので、エルメール卿の活躍ぶりはエイブラム様に伝わっているはずです」
「ありがとうございます。少し気分が楽になりました」
「はははは……エルメール卿、くれぐれも、じゃじゃ馬にはお気を付けください」
「みゃっ……気を付けます」
「ニャンゴ・エルメール名誉子爵へ敬礼!」
居並ぶカーライル騎士団の面々に敬礼され、こちらからも敬礼を返した後で空へと駆け上がる。
空属性魔法でウイングスーツを作り、ジェットの魔法陣で急上昇から左へ旋回。
一度南へ回り込んだ後、騎士たちの上空を轟音を残して突っ切り、北へと進路をとった。
途中、ジェットの魔法陣から風の魔法陣へと切り替えて速度を落として飛行する。
それでも、最初に地竜を討伐した場所までは、あっと言う間に到着してしまった。
上空を旋回しながら、改めて地上の状況を確認する。
「うわぁ、これは酷い……」
どうやら俺の撃った収束砲撃は、地竜の体を突き抜けた後、地面の中で爆発したらしい。
地面にはクレーターができていて、その周囲に千切れ飛んだ地竜の頭や手足、尻尾などが転がっている。
更には、地竜の胴体と共に、まとっていた土の鎧が飛び散ったようだ。
地竜は街道に沿って進んでいたので、復旧のために多くの人々が動き回っていた。
「にゃぁ、あそこに声を掛けなきゃいけないのかぁ……憂鬱だなぁ」
推進機を消して上昇し、速度が落ちたところでウイングスーツも解除する。
空属性魔法でスロープを作って滑り降りていくと、途中で俺を見つけた人が声を上げ始めた。
作業を指揮していると思われる人物のところへ滑り降りると、敬礼で出迎えられた。
「ニャンゴ・エルメール名誉子爵とお見受けいたします。私はカーライル騎士団、第二分団長のビンセントと申します」
「ニャンゴ・エルメールです。エイブラム様にお目通りをしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「エイブラム様は、この先のローテルにある騎士団の施設にいらっしゃいます。今、部下に案内させます」
「いえ、案内は結構です。どうぞ、作業を続けて下さい……その、やり過ぎてしまったみたいで、申し訳ない」
「とんでもありません! 我々一同、エルメール卿には本当に感謝しております。地竜を討伐していただき、ありがとうございました」
ビンセント分団長が頭を下げると、周りで作業をしていた皆さんからも頭を下げられてしまった。
うん、次からは、ちゃんと後始末まで考えて討伐しよう。
ここでも騎士たちに敬礼で見送られ、ローテルの街まではオフロードバイクで移動した。
街の入り口で衛兵に身分を明かし、騎士団の施設までの道を聞いた。
ここでも衛兵や周りにいた街の人達からメチャクチャ感謝されて、俺はすっかり忘れてしまっていた。
騎士団の施設の前で、名乗ろうとすると、凛とした声が響いてきた。
「待っていたぞ、ニャンゴ・エルメール名誉子爵! 私はアルビーナ・カーライル、いざ尋常に手合わせを所望する!」
声の主は黒虎人の若い女性で、朱色の革鎧を身に着け、右手には木製の槍を携えた姿は美丈夫という言葉が似あう感じだ。
年齢は俺よりも少し上だろうか、手合わせを断るよりも早く、猛然と駆け寄って来た。
ていうか、俺も革鎧は着ているけど、得物は何も持っていないんだけど。
俺が丸腰なのも気にする様子も無く、アルビーナは激烈な突きを放ってきた。
「シールド……」
俺の胸を狙った突きは、斜めに立てたシールドの表面を滑って逸れていく。
左斜め前へと飛んで距離を取ろうとしたら、アルビーナは地面がへこむほどの勢いで踏み止まり、今度は俺の胴体を狙って右手一本で横薙ぎを叩き付けてきた。
「シールド……」
空気を切り裂くような横薙ぎも、シールドの表面を滑って上へと逸れ、身を屈めた俺の頭の上を通り抜けた。
横薙ぎをシールドでいなしつつ、身体強化魔法も使って、一気にアルビーナの足元へと走り込む。
「くぅ……」
アルビーナは慌てて後退しながら、苦し紛れに槍で足元を払おうとしたが、これは俺に対しては悪手だ。
エアウォークで槍の穂先を躱しつつ、更に宙を蹴って踏み込む。
息が掛かるほど肉薄し、右の掌底で胸元を押し込むと、アルビーナはバランスを崩して倒れ込んだ。
勿論、頭を打ったりしないように、エアクッションの準備も怠らない。
「エイブラム様にお目通りいたしたい。案内をお願いできますか」
馬乗りになった形で案内を頼むと、アルビーナは満面の笑みを浮かべて答えた。
「喜んで案内をいたそう! さすがは不落の魔砲使い、私の想像を遥かに超えていたぞ!」
俺が離れると、アルビーナはエアクッションの感触を確かめた後で、にんまりと笑みを浮かべた。
「なるほど、先程の盾、この敷物も空属性魔法の技なのだな。硬いも柔らかいも自在か……」
アルビーナはエアクッションから立ち上がると、すすっと歩み寄って来た侍女に槍を手渡し、先に立って建物へと歩き始めた。
いやいや、君は武士の生まれ変わりか……。
目線を合わせるようにエアウォークを使って後に続くと、建物の入り口で振り返ったアルビーナは、ビクっと驚いていた。
いや、手合わせの最中もエアウォーク使ったよね。
「ふむ、人が宙に浮いているのは、なんとも不思議な感じだな」
「お気に召さなければ降りますが……」
一応、失礼にならないように、少し見下ろされる程度の高さにはしてある。
「いいや、構わない。この方が話しやすい」
ニカっと笑うアルビーナは、侯爵令嬢というよりも女騎士という感じだ。
だとしたら、さっきの場面では、もう少し追い込めば『くっ殺』が聞けたのだろうか。
アルビーナは、我が物顔で騎士団の施設の中を闊歩し、奥まった一室のドアをノックした。
「父上、エルメール卿をご案内いたしました!」
「おぉ、入っていただきなさい」
アルビーナは、ドアを開けると俺を招き入れるのではなく、ツカツカと先に立って部屋の中へと進んでいった。
「父上、エルメール卿に押し倒されてしまいました!」
「ちょっ、言い方ぁ! あっ、失礼いたしました、お初にお目にかかります、ニャンゴ・エルメールです」
「ふはははは……アルビーナを押し倒したか、さすがは不落の魔砲使い」
「はい、突きも薙ぎもいなされ、あっという間に懐に入られてしまいました」
「ほぅ、ワシでも手を焼く突きをいなしたか」
うわぁ、アンブロージョ様は気骨のある好人物って言ってたけど、これは純粋な脳筋親娘じゃね?
貴族の家に生まれていなかったら、間違いなく冒険者か山賊やってそうだよ。
「エイブラム様、昨日は地竜討伐の際に、少々魔法の威力が強すぎたようで……その……」
「ふははは……あれほどの威力の魔法を目にしたのはワシも初めてだ。神の鉄槌が下されたのかと思ったほどだ。これなどは、あまりの威力に腰を抜かしていたからな」
「ち、父上、それは黙っておいて下さる約束をしたではありませんか!」
「うははは……魔法に腰を抜かし、手合わせでは押し倒されたか」
「はい、これほどの人物には、お目に掛かったことがございません」
ここで、ぽっと頬を染めたりすれば可愛げがあるんだろうけど、二人して獲物を狙う肉食獣の瞳で俺を捕捉してるんだよなぁ……。
俺は、無事に旧王都に帰れるのだろうか。





