出撃(後編)
「自分はカーライル騎士団、第三分団長ネルドルフであります。現在の状況をご説明させていただきます」
ネルドルフ分団長から聞かされた状況は、結構悲惨だった。
俺たちが居る場所から、五十メートルも離れていない場所で、悠々と惰眠を貪っている地竜は、三頭のうちの最後に姿を見せた個体だそうだ。
どういう理由で選ばれたのか不明だが、森から真っ直ぐこちらへ向かってきて、城壁を破壊して街に侵入し、家並みを踏み潰したそうだ。
そして、潰れた家並みから犠牲になった人々を掘り出して食べ、腹を満たしたと思ったら、この姿勢になって眠り始めたらしい。
既に粉砕の魔道具を使って討伐を試みたそうだが、僅かに土の鎧を崩しただけで、地竜は目覚めすらしていないそうだ。
「エルメール卿、お願いします、この野郎を討伐してください」
「分かりました、討伐を試みますが、地竜が目覚めて動きだすと、周辺に被害が及ぶ可能性があります。住民の避難をお願いしたいのですが……」
「大丈夫です、住民の避難は既に終えています。何もしなくとも、いずれ地竜は目覚めて家並みを破壊するでしょう。思い切りやって構いません」
「分かりました、それでも、極力被害が抑えられるように努力してみます」
「ありがとうございます!」
遠巻きにしている騎士たちからは、さすが不落の魔砲使いだ……とか、そこまで配慮してくれるのか……といった声が聞こえてくる。
うん、さっきやりすぎちゃったから……とは言えないよにゃぁ……。
カーライル騎士団の皆さんにも離れてもらい、それではチャチャっと討伐しちゃいますかね。
エアウォークで地竜の頭上に駆け上がり、無防備に見える脇腹に狙いを定めた。
「フレイムランス!」
ノイラート辺境伯爵領では、このフレイムランスで土の鎧を熔かし、地竜の腹の中を焼き焦がして倒した。
「にゃにゃ……通らない?」
ノイラート辺境伯爵領では、あっさりと倒せたのに、地竜の土の鎧が上手く突破できない。
「どうなってるんだ?」
何度か場所を変えて討伐を試みたものの、フレイムランスでは歯が立たないみたいだ。
「眠っている時は、守りが硬くなるのか?」
いくら地竜が強い魔物であっても、これほど無防備な姿で眠れるのには理由があるはずだ。
眠っている間、他で使っていた魔力を全部土の鎧に回し、守りを固めているのだろう。
「魔力を増やして守りを固めているのか……だったら、魔力を減らしたら、どうなるのかにゃ? ニャンゴ・ドレイン」
地竜の姿を確認し、致命傷になりそうな首筋に狙いを定めて魔力を減衰させる魔法陣を発動させた。
「からの……ブレイカーはヤバいから威力を落として……ニャンゴ・バスター!」
撃ち出された炎弾は、魔力減衰の魔法陣ごと地竜の首筋を貫いた。
ズドーンっと大きな爆発音がして、瓦礫と粉じんが舞い上がる。
地竜はがビクビクビクっと体を痙攣させると、背負っていた土の鎧がひび割れ、ボロボロと崩れだした。
暴れ回って家並みを破壊するかと思ったが、どうやら一撃で頸椎を破壊して、運動機能を奪うことが出来たらしい。
土の鎧は崩れて小さな山に変わり、先程まで聞こえていた洞窟を吹き抜ける風のような地竜の息遣いが消えた。
「し、死んだのか……」
「しっ、静かに……」
夕暮れが迫る街並みが、シーンっと水を打ったように静まりかえる。
退避していたカーライル騎士団に向かって右手を突き上げると、爆発するような歓声が上がった。
「うおぉぉぉぉ……倒したぞぉ!」
「地竜を倒したぁ!」
「エルメール卿、万歳!」
喜びを爆発させているカーライル騎士団の近くまでスロープを作って滑り降り、捕まらない高さで止まって声を掛ける。
「もう一頭の地竜の討伐に向かいます、後をよろしくお願いいたします!」
「はっ! 全員、敬礼!」
カーライル騎士団に見送られながら上空目掛けて駆け上がり、ウイングスーツを起動した。
キューン……っという高出力な風の魔道具の甲高い音と共に、ぐんっと速度と高度が上がっていく。
いつの間にか太陽は西に傾き、急がないと方向を見失いそうだ。
一旦、地竜の通った跡を辿って北へと戻り、見えて来た別の地竜の痕跡を辿って南南東へ旋回する。
破壊された村だったらしい痕跡を二つ通り抜け、更に飛行を続けると、前方でパッと閃光が走った。
反射的に高度を上げると、少し遅れてズズーンっという爆発音が響いてきた。
「まだ戦ってるのか!」
速度を上げて閃光が走った方向へ飛ぶと、残照に照らされた地竜の姿が見えた。
どうやら、川を渡り土手を上がろうとする地竜をカーライル騎士団が必死に阻止しようとしているらしい。
「ではでは、挨拶代わりに一丁お見舞いしてやるか」
大きく旋回して川上に出たら、高度を下げて川面の上を飛んで地竜の横っ腹へと突っ込んでいく。
「ニャンゴ・ファランクス!」
ズドドドド……っと、地竜の横っ腹に炎弾の連射を打ち込み、土の鎧をバラバラに吹き飛ばしたら一気に上昇する。
捻りを加えて旋回して川下へ向かって飛び、急旋回を掛けて川上へと向かう。
「ニャンゴ・ファランクス!」
地竜の反対側の横っ腹へ連射を叩き込み、もう一度土の鎧をバラバラに吹き飛ばした。
「グオォォォォ……」
俺が急上昇すると同時に、地竜は苦悶の声を上げた。
「攻撃が通ったのか?」
この連射では、地竜の土の鎧を削るのが精一杯かと思っていたが、一度目に削られた分だけ鎧が薄くなっていたのかもしれない。
「それならば……」
捻りを加えて旋回し、再度川上から地竜に向かって飛ぶ。
「ニャンゴ……ヤバっ!」
地竜が俺の方へグリンっと頭を向けたのを見て、反射的に急上昇を掛けた。
「ゴワァァァァ!」
「にゃぁぁぁぁ……」
地竜のブレスの直撃は避けられたが、余波を食らってウイングスーツが木の葉のように翻弄される。
「にゃっ……旋回……そっちじゃない、上昇ぅぅぅにゃぁぁぁぁぁ!」
危うく地面に叩き付けられてしまうところだったが、ギリギリで引き起こしに成功した。
「にゃぁぁぁ……チビるかと思ったよ。よくも、やってくれたな!」
旋回と上昇で速度を殺してからウイングスーツを解除、距離を取って地竜と向かい合う形で、五メートルほどの高さに立った。
魔力回復の魔法陣を作り直し、魔力を充填しながら次の一手を打つ。
「ニャンゴ・キャノン!」
ドンっという重たい発射音と共に発射された炎弾が、地竜の頭に炸裂する。
土の鎧が吹き飛んで土煙が上がる。
ドン……地竜がブレスを吐きかけたが、追撃の一発を食らって頭を下げた。
ドン……ドン……ドン……。
地竜に反撃の暇を与えず、一定の間隔で砲撃を繰り返す。
四発目で鮮血が飛び、五発目で地竜の体がガクンと揺れ、六発目が突き抜けると一気に土の鎧が崩れた。
それを見たカーライル騎士団から歓声が沸き起こった。
「死んだ、地竜が死んだ!」
「誰だ、誰が倒したんだ」
「馬鹿野郎、空から砲撃を撃てる人物なんて、この世に一人しか居ないだろう」
「見ろ、あそこだ!」
「ニャンゴ! ニャンゴ! ニャンゴ! ニャンゴ!」
既に日が落ちて、周囲が暗くなってしまったので、カーライル騎士団の上に明かりの魔法陣を作って散らし、その上に空属性魔法のボードに乗って下りていく。
ニャンゴコールが更に大きくなり、コンサートか格闘技の選手の入場セレモニーのようになってしまった。
軽く手を挙げて応えながら、一番地位が高そうな騎士の所へ向かった。
「ニャンゴ・エルメールです。エルメリーヌ姫の命を受け、地竜の討伐に赴きました。皆さんの手柄を横取りして申し訳ありません」
「と、とんでもない! 私はカーライル騎士団で騎士団長を務めているオーベルズと申します、エルメール卿のご協力に心より感謝申し上げます」
俺とオーベルズ騎士団長が敬礼を交わすと、再び歓声が湧き上がった。
三頭目の地竜の討伐も完了して、これで騒ぎも収束に向かうだろう。





