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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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姫様の冒険(後編)

 雑貨屋での買い物を終えたエルメリーヌ姫は、ご満悦のようすで俺を抱えたまま店を後にした。

 ここはレイラが、俺の奪還に動くところじゃないのかな。


 というか、姫様に抱えられている姿を王国騎士団の皆さんに見られるのは……あぁ、やれやれみたいな目で見られちゃってるよ。


「姫様、そろそろ下ろしてもらえると有難いのですが……」

「エルです、ただのエル」

「えっと……エル、そろそろ下ろして」

「どうしてですか? ニャンゴ様は普段この格好でも依頼をこなしていらっしゃるのですよね?」

「いやいや、ダンジョンで搬出の見守りをするのと、外で護衛の依頼をするのとでは違いますから」

「仕方ないですねぇ……踏み踏みしてくださるなら下ろして差し上げます」


 それなら失礼して……なんて、出来る訳ないでしょうが。


「いやいや、首が飛びますから、コロコロって転がってっちゃいますから」

「ニャンゴ様は、私の胸が垂れても良いとおっしゃるのですか?」

「いや、そこは身体強化魔法を訓練していただいてですね……」

「レイラさんの胸は踏み踏みするくせに……」

「あれは、手癖と言いましょうか、何と言いましょうか……」

「お風呂も一緒に入られていらっしゃるのですよね?」

「それは、強制的に連行されているからで……」

「それなら私も、このまま次のお店まで強制的に連行させていただきます」

「ふにゃぁ……」


 ああ言えば、こう言う、こう言えば、こう返す……ぜんぜん下ろしてもらえそうもない。

 結局、お昼ご飯を食べる店まで抱えられていく羽目になってしまった。


「エル、下ろして」

「お昼を食べるだけでしたら……」

「駄目だよ、ここから先は戦場だからね」

「は、はい」


 真剣な口振りに気圧されたのか、姫様は俺を解放してくれた。


「い、いらっしゃいませ、何名様です……ございますか?」

「五名です!」


 顔なじみの犬人の店員さんが、いつもとは違ってガチガチに緊張している。

 既に王国騎士団が手を回して、店の中にはチャリオットのライオス達の他には、騎士団の関係者しかいない。


 俺たちが案内されたのも店の中央のテーブルで、周りはライオス達を除いて誰も食事をしていない。

 ここはテーブルのコンロを使って、自分たちで魚を焼いて食べれるお店で、普段だったら魚を焼く煙と匂いが充満しているのだが、今日はライオス達しか焼いていない。


 中央に炭焼きのコンロが埋め込まれたテーブルを挟んで、俺とレイラ、姫様とシューレ、ミリアムに分かれて座る。


「ご、ご注文は、いかがいたしま……」

「干物の盛り合わせ、みりん干しとラーシ漬け、イカの一夜干し」

「あ、ありがとうございます」

「それと、干物が焼けたタイミングでご飯とラーシのスープをお願いします」

「か、かしこまりました」


 ここは俺の行きつけの店で、ご飯と味噌汁は俺の希望で出すようになった。

 メニューも見ずに、食い気味で注文を終えると、ぐぐぅぅぅ……っと俺の腹が戦闘開始の合図を告げた。


「えっと、ニャンゴ様、ここはどんなお店なんですか?」

「姫様、ここは戦場です。ここでは、私の指示に従っていただきます」

「は、はい……」


 レイラが笑いをこらえ、シューレが頷き、ミリアムが呆れ果てているが、ここでは一歩も譲る気は無い。

 コンロの上の炭を均し、手を翳して熱の伝わり具合を確かめる。


「お、お待たせしました……」

「にゃにゃっ、これは……」


 干物の盛り合わせに、普段なら乗っていないキンメダイの干物が鎮座しているではないか。

 これは間違いなく、エルメリーヌ姫様特別仕様だな。


 みりん干しはサバ、みそ漬けはサワラだ。

 いきなりキンメダイに行きたいところだが、まずは、イワシやカマスに似た魚の干物から焼いていく。


「見ている前で焼くのですね?」

「この煙と匂いも料理の一部なのです」


 空属性魔法で作った特製の菜箸を使い、干物を網の上へと並べていく。

 身から滴り落ちた脂が炭によって焦がされて、香ばしい匂いが立ち上ってくる。


「これは……はしたないですけど、お腹が空きますね」

「こ、この、お預けの時間も調味料なんです」


 などと、それらしい事を言っているが、さっきから口の中は唾液が溢れまくっている。

 身がほっこりと焼けたところで引っくり返し、皮目をこんがりと焼いていく。


 イワシは姫様が来るということで、頭を落とし、ワタも抜かれてしまっているのが残念だ。

 チラっと厨房の方へと視線を向けると、分かっていますとばかりに、熱々ご飯と味噌汁の乗ったお盆を持って、店員さんがこちらへと向かってきた。


「お待たせしました、ご飯とラーシのスープです」

「では、姫様、温かいうちにお召し上がりくださいませ」


 姫様のお皿に、完ぺきな焼き具合のイワシとカマスを盛り付ける。

 みんなのお皿にも盛り付け、最後に自分の分を盛り付ける。


「いただきます、んーっ! うみゃ! 脂が乗っていて、うんみゃ!」

「美味しい、お魚って、こんなに香ばしいものなのですね」

「さぁさぁ、姫様、遠慮なさらずに、どんどん食べて。どんどん焼いていきますからね」


 イワシの丸干しとご飯のコラボレーションを堪能し、味噌汁を一口飲んだら、次のお魚をコンロに並べていく。

 次はみりん干しとみそ漬けだ。


 サバの脂が炭に落ちて火が着いたら、すかさず極小の水の魔法陣で消し、味噌が焦げないように引っくり返すタイミングを計る。


「うんみゃ、カマスもホロホロ、ホコホコで、うみゃ!」

「これは、骨でしょうか?」

「姫様、カマスは小骨が多いので、気を付けて下さい」

「はい、でも味わいが深くて美味しいです」


 味噌漬けを先にひっくり返し、身の厚いサバはじっくりと火を通していく。

 味噌やみりんの焦げる香りが、食欲をさらに加速させていく。


「姫様、こちらは魚をラーシに漬けて味をしみこませたものです」

「いい香りですね」


 サワラの味噌漬けは、生すぎず、焼き過ぎず、しっとりと絶妙の焼き加減だ。


「うみゃ! ラーシ漬けうみゃ、ご飯うみゃ、うんみゃ!」

「ふふっ、ニャンゴ様に焼いていただいて、食べると、より一層美味しくなります」


 サワラの味噌漬けを食べ終えたタイミングで、サバのみりん干しが焼きあがる。

 身はほっこり、皮はパリっ、こちらも焼き加減は完璧だ。


「みりん干し、うみゃ! 脂乗り最高で、うんみゃ!」

「これはまた味わいが違って美味しいですね」


 みりん干しを味わいながら、イカの一夜干しを炙る。

 焼き過ぎると固くなってしまうので、表面に軽く焼き目が入ったら引っくり返し、空属性魔法で作ったナイフとフォークで切り分ける。


「んーっ! イカがムチムチでうんみゃ!」

「これは歯ごたえが変わっていて、美味しいですね」

「イカはカラカラになるまで干しても美味しいんですよ」


 バルドゥーイン殿下あたりは、酒のツマミに食べていそうだけど、女性の王族ではスルメを食べる機会は無いんだろうな。

 貴族も上級貴族だと、こうした庶民の味を知る機会は無いのかもしれない。


 もし俺が、前世の記憶を持ったまま上級貴族に生まれていたら、こうした店に足を運んでいただろうか。

 高級な料理も悪くないだろうが、丼を抱えてご飯を掻っ込む……みたいな食べ方をしたくなって、下町に足を運んでいただろうな。


 そんな事を考えつつも、目はコンロの上から離さない。

 本日のメインディッシュ、キンメダイの干物を焦がすわけにはいかないのだ。


 これまで食べたお魚も十分にうみゃかったけど、キンメダイの焼けていく姿からはオーラのようなものを感じる。

 タイミングを慎重に計り、引っくり返した身はこんがりと焼き目が入り、プチプチと脂が湧きだしていた。


 うにゃぁ、許されるなら、ペロペロしたいけど、今はまだ我慢なのだ。

 皮目を焼いている間にご飯と味噌汁のお替りを頼み、準備万端整えた。


 焼きあがったキンメダイの開きを姫様の皿に盛り、手早く骨を取り除く。


「どうぞ、召し上がれ」

「ありがとうございます。ん-、ほこほこで、うみゃ!」


 姫様のうみゃをいただいたところで、俺もキンメダイに取り掛かる。


「うんみゃ! 皮ぎしの脂があみゃ、うみゃ! ご飯との相性抜群で、うみゃ!」


 キンメ、ご飯、キンメ、キンメ、ご飯、味噌汁、キンメ、キンメ、ご飯、キンメ、キンメ……。

 キンメダイの干物、ご飯、味噌汁のコラボレーションは、無限ループが可能だと思われたが、それでも物事には終わりが来てしまうのだ。


「ふぅ、お腹いっぱい、もう食べられにゃい」


 店員さんが気を利かせて、お替りしたご飯が大盛りになっていたから、お腹がパンパンになってしまった。

 大満足で眠くなってきたんだけど、まだやる事があったような気が……って、姫様の護衛中だったよ。


 いや、忘れてないよ、忘れてなんか……みんな、お魚が美味しいのがいけにゃいんだ。


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― 新着の感想 ―
ここは読者が飯テロと戦う場所という意味で、戦場であった。 くっ、もうダメだ⋯⋯(じゅるり
キンメの干物にはかないませんねぇ(笑)
店員からは「姫様相手にさすがエルメール卿」とか尊敬されてそうだw
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