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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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移動初日

 おかしい、魔導車の中では俺の他に侍従と侍女も同乗するから、エルメリーヌ姫に迫られたりはしないはずだったのだが……。

 なぜ俺は、姫様に膝枕してもらいながら撫でまくられているのだろう。


 というか喉……喉はらめぇ……。


「ひ、姫様、このような格好では警護になりません」

「あら、『不落』のニャンゴ様ならば、どんな態勢であろうと守ってくださいますよね?」

「そ、それは守れますけど、この格好は他の騎士に示しが付かないのでは……」

「外からは見えませんから大丈夫です」

「ですが、どこに人の目があるか……」


 実際、侍従と侍女の二人が乗っているのだから、同僚とかに話しちゃうんじゃないのかな。


「ニャンゴ様、人の口に戸は立てられるのですよ」

「えっ、戸は立てられないのでは……?」

「立てられます。余計な事を喋れば、首が飛ぶんですよ……物理的に」

「みゃっ、ぶ、物理的に……」


 いやいや、なんで侍従さんも侍女さんも頷いているんだよ。


「ニャンゴ様……」

「は、はい」

「王族ジョークですよ」

「はぁ……」


 いやいや姫様、笑っていいのか悪いのか分かりませんから。

 エルメリーヌ姫の気が済むまで撫で回されたかと思いきや、今度はポジションチェンジを要求された。


「さぁ、ニャンゴ様、お膝を貸して下さい、いっぱい撫でて下さいませ」

「はぁ……」


 まぁ、姫様から撫でろと要求されてしまったら、しがない名誉子爵が断る訳にもいかないので撫でますけどね。

 てか、未婚の女性王族が、俺に膝枕されながらゴロゴロ言っちゃってて良いのかにゃぁ。


 旧王都へと向かう道中は、天候にも恵まれて順調そのものだ。

 さすがに王家の魔導車とあって、乗り心地は最高で、揺れも音も驚くほど静かだ。


 たぶん、前世の日本で走っていた高級車だったら、この魔導車よりも静かで、遥かに速く走れるのだろうが、オタぼっちな高校生だったので、そんな車には乗ったことが無い。

 前世の知識が限られていたら、転生チートが出来る範囲も限られてくるのだと、改めて思わされてしまった。


 一行は、昼までに二度、昼の休憩を挟んで、今夜宿泊する街までに二度、休憩を挟んだ。

 普段は何もない街道脇の草地に、この日と帰りの日のためだけに、休憩所が設けられている。


 俺たち冒険者は、ちょいと藪に入って用を足してくる……なんて事が出来るけど、まさかそれを姫様がやる訳にはいかないからね。

 やはり王族の移動となると、お金も手間も掛かるんだね。


 王族が王都から離れた領地には、なかなか足を運ばないと聞いた時には、引き籠ってないで少しは地方を巡回しろと思ったが、費用の事を考えると、ちょっと王族の立場も理解した。

 明確な目標も無しに、多くの護衛を使い、多くの費用を使うのでは、民衆の理解は得られないだろう。


 もしかして、護衛に騎士候補生を同行させているのは、費用対効果を上げる意味合いがあるのだろうか。

 昼の休憩は、途中にある村の村長宅で、ここには王族、貴族専用の建物があった。


 ここは新王都と旧王都の道中には必ず立ち寄ることになる場所であり、貴族は事前に申請をして使わせてもらうらしい。

 ここでエルメリーヌ姫は、先乗りしていた王家の料理人が調理した料理で昼食を済ませた。


 なぜか、ここでも俺はエルメリーヌ姫のご相伴に預かることになってしまった。

 護衛の王国騎士や騎士候補生は、外で立ったまま軽食で済ませるらしいので、自分だけこんなに優遇されて良いものなのかと罪悪感を覚えてしまった。


 でも、チキンのサンドイッチが、すっごくうみゃかったのだ。

 昼食を済ませた後の道中も、何事も無く進んでいく。


 お腹がいっぱいで、魔導車の心地良い振動に揺られていると、当然のごとく眠たくなってくる。

 昼食の最後に濃い目のカルフェをもらったのだが、その程度で猫人の眠気が抑えられると思ったら大間違いなのだ。


 とはいえ、今はエルメリーヌ姫の護衛を務めている最中だから、意地汚く眠り込んでしまう訳にいかにゃいのにゃぁ……。


「ニャンゴ様、眠たいのであれば、少しだけ眠ってしまった方が、後はスッキリいたしますよ」

「うにゃうにゃ、いけません。護衛が眠っていては話になりません」


 振動が抑えられているはずの王族用の魔導車の中で、一人だけ首がガックンガックンなりながらも、何とか次の休憩所まで護衛を務め切った。

 エルメリーヌ姫が魔導車を降りて休憩している間、俺は屈伸したり、軽く飛び跳ねたりして、とにかく眠気を覚ますために体を動かす。


 その甲斐あって、魔導車が再び動き出した後は、なんとか眠気を抑え込むことが出来た。


「ニャンゴ様は、意外に頑固なんですね」

「頑固と言うより、護衛中に居眠りしている訳にはいきませんよ」


 エルメリーヌ姫に膝枕されていても、周囲への警戒は緩めずにいたが、流石に眠り込んでしまったら警戒どころの話ではなくなってしまう。


「ニャンゴ様は、普段の護衛の依頼では、どのような役割を果たしておられるのですか?」

「その時、その時で変わってきますが、自分は空から警戒する事が多いですね」

「いいですねぇ、私もいつか空を飛んでみたいのですが……」

「陛下のお許しが得られればですね」

「ニャンゴ様、人の口には戸を立てられるのですよ」

「さすがに、ドレス姿の姫様を空にお連れする訳にはまいりません」


 まぁ、ドレス姿でなくても、何かアクシデントが発生したら墜落してしまう場所に、女性王族を連れて行くわけにはいかないでしょう。

 というか、ぷぅっと頬を膨らませて、不満ですとアピールする姫様が、めちゃくちゃ可愛いいんですけど。


「ニャンゴ様のパーティーの女性は、一緒に空を飛んだりなさるのでしょう?」

「そうですね、場合によっては……ですね」

「私は、どうすれば空を飛べますか?」

「空を飛ぶのは危険を伴いますので、やはり陛下の許可は絶対に必要です」

「ニャンゴ様が一緒でも危険なんですか?」

「世の中には絶対ということはありませんから」

「はぁ、ニャンゴ様は本当に真面目ですね」

「姫様は、ちょっと自由すぎじゃないですか?」

「それは、王城から離れているのですから、少しくらい羽を伸ばしても良いと思いませんか?」

「その少しが、どこまでかが問題ですね」


 駄目駄目、そんな上目使いの膨れっ面なんて、破壊力高い攻撃されても飛びませんからね。

 午後の移動も何事も無く終了し、この日は領地境の王家の屋敷に泊まった。


 王家の人間が、どれほど権力を持っていても、移動の速度に関しては俺の比ではない。

 新王都から旧王都まで、ウイングスーツを使えば一時間掛からずに移動が出来る。


 飛行船を使っても、二時間あれば余裕で到着出来るはずだ。

 ところが、魔導車を使っての移動では、どんなに急いだとしても丸一日は必要だ。


 余裕を持っての移動ならば、このように途中で一泊する必要がある。

 こう考えてみると、本当に空属性魔法は有用極まりない属性だ。


 夕食も姫様と一緒にうみゃうみゃして、姫様の隣の部屋で夜を明かす。

 警備は先乗りしていた王国騎士団が選抜した騎士や兵士が行い、俺は休んでいて良いと言われた。


 お風呂に入ってサッパリした後、テラスに出ると空に満月が浮かんでいた。

 前世の日本で見た満月よりも遥かに大きく、遥かに明るく、思わず遠吠えしたくなるような月だ。


 月が明るいので星は良く見えないが、月が沈めば満天の星が見られるはずだ。

 久々に夜空を眺めていたら、姫様に隣のテラスから声を掛けられた。


「良い月夜ですね」

「はい、とても良い夜ですね」


 日が沈んで、空気が冷えて来ている。

 姫様も入浴を終えられているようだが、まだ髪がしっとりと濡れているように見える。


「姫様、ちゃんと髪を乾かさないと風邪をひきますよ」

「乾かして下さいますか、ニャンゴ様」

「では、失礼して……」


 髪を乾かしやすいように、高さを調整して風の魔法陣と温熱の魔法陣を組み合わせたドライヤーを発動させた。


「凄い、ニャンゴ様が一緒ならば、どこでも凍えずに髪を乾かせますね」


 サラサラと手櫛で梳きながら髪の毛を乾かすエルメリーヌ姫は、まるで月の精のようだった。


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魔道具のドライヤーは、既に広まっているだろうし 何より、ニャンゴ関連の事は王家の情報網で 知っているはずだから。 エルメリーヌ姫、ニャンゴに髪を乾かして もらうためにお願いしましたね?(笑) どうせな…
聞くところによると地球の衛星であるお月さまは、地球の質量に対して大きすぎるのだとか。本来ならもっと小さな衛星を持つはずなのに、何らかのアクシデントで不似合いなほど大きな月を持つことになったのだろうと言…
費用が掛かるって事は金が流れるって事なわけで・・・ 経済が停滞してる場所に視察で金を流して一時的な対処して 効果が残ってる間に本格的な対処って経済対策な事が出来なくもないんだよなあ よく利用される宿場…
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