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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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騎士見習い奮闘記 - 後編(オラシオ)

※今回もオラシオ目線の話です。


 革鎧の胸当てと背当てのみ着けた騎士候補生の制服姿は、都外で聞き取り調査をするには適した格好だったけど、反貴族派の摘発に向かうには適さなかった。

 タルボロス第一師団長に諭されて、僕とトーレは不安な気持ちを抱えながら訓練所への帰路についた。


「トーレ、騎士候補生が負傷ってニャンゴは言ってたよね?」

「コリント達だろう……」

「えっ、それって僕らから聞いた情報を横取りしたってこと?」

「考えたくないけど……たぶん」

「でも、情報を入手した時は、自分達で摘発しようとせずに騎士団に知らせる決まりだよね?」

「そうだけど、この前の手柄で味をしめたのかも……」


 コリント達は、ニャンゴが追い掛けていた反貴族派の構成員を捕まえる手柄を立てた。

 一度でも手柄を立てれば十分だと思ってしまうが、トーレが言うには周囲から賞賛されたのが忘れられなかったみたいだ。


 訓練所へと戻り、先に帰っていたルベーロ、ザカリアスと情報の擦り合わせをした。

 二人とも、負傷した騎士訓練生はコリント達だと思ったようだ。


「オラシオの手柄を奪おうとした罰が当たったんだろう」


 ザカリアスが辛辣な言葉を口にする気持ちは分かるけど、ニャンゴの切羽詰まった感じからすると、襲われた騎士候補生は軽い怪我ではなかったような気がする。

 そして、騎士候補生にとって最大の楽しみである夕食の前に、僕らと同期の騎士候補生全員が講堂へ集められた。


「既に聞いている者もいるかもしれないが、お前達と同期の騎士候補生コリントが反貴族派と思われる猫人の自爆攻撃によって死亡した」


 教官の言葉を聞いた直後、講堂は時が止まったかのように静まり返った。

 まさかコリントが命を落とすとは思っていなかったので、僕も同期のみんなと一緒に言葉を失ってしまった。


 でも、講堂が静まり返っていたのは少しの間だけで、直後に怒りの声に包まれた。


「許せねぇ! ふざけんなよ反貴族派!」

「くそっ、一人残らず捕まえて処刑してやる!」

「そもそも都外の連中なんて、全員まとめて追い出せばいいんだよ!」


 仲間が殺されたことで反貴族派に留まらず、都外で暮らす人々への感情までが悪化しているみたいだ。

 普段なら騎士候補生が騒ぎ出せば、すぐに怒鳴りつけて静める教官も、今は静かに見守っている。


 教官は暫く僕らの様子を見守った後で、演壇に拳を振り下ろした。

 ドーンという大きな音で、騎士候補生の視線が演壇へと注がれる。


「静まれ! 貴様らは何者だ!」


 ビリビリと講堂の空気を震わせる教官の一喝に、集められた同期達の背筋が伸びる。


「貴様らは王国騎士を志す者じゃないのか! 王国騎士になれば、常に死が隣り合わせとなる。油断、判断の誤り、そして慢心すれば、死神は貴様らの魂を狩りとっていくぞ!」


 てっきり教官は、同期達の怒りに賛同してくれていると思ったが、どうやらそうではないらしい。


「貴様らには、任務を言い渡した時に言っておいたはずだ。不審な者がいたら、報告に戻れ。間違っても自分達だけで対処しようなんて思うなと」


 確かに言われたし、だから僕とトーレは騎士団に報告に出向いたのだ。


「コリントが自爆攻撃を受けた状況は、情報を聞いて偵察に赴いたニャンゴ・エルメール卿がアーティファクトによって記録していた。私も記録を見せてもらったが、コリント達四人は反貴族派の疑いがある猫人数名を見つけた後、耳や尻尾を掴んで引き摺り回したり、殴る蹴るの暴行を働いていた。その直後、黒い服を着込んだ猫人がコリントにしがみ付き、自爆した」


 撮影していたニャンゴの場所からは距離が離れていて、咄嗟に空属性魔法の盾を展開したけど間に合わなかったらしい。

 しがみ付かれた状態で自爆されたコリントは、胴体がバラバラに吹き飛んでしまい、原型を留めていたのは頭と手足の一部だけだったそうだ。


 ニャンゴは騎士候補生四人が負傷したと言っていたけど、あの時点でコリントが死亡したのは分かってたのだろう。

 一人が重傷と言っていたのは、コリントではなく別の候補生だった。


「死者に鞭を打つような言葉は好きではないが、貴様らに分からせるために口にする。コリントが死んだのは慢心したからだ! ちょっと同期の者よりも手柄を立てたからと調子に乗り、ちょっと家柄が良いからと都外の住民を見下し、ちょっと魔力や体が強いからと猫人を侮った結果だ!」


 教官が言葉を切ると、講堂は先程とは違った空気の沈黙に包まれた。


「だが、それはコリント達だけに限ったことではないぞ。反貴族派と一口に言っても、色々な者がいることは教わっただろう。反貴族派を名乗って私腹を肥やそうとする者もいれば、貧しさゆえに騙されている者もいる。都外で暮らす者達は、やむにやまれぬ事情を抱えている者も多い。それを一人残らず処刑しろとか、全員まとめて追い出せなどと言っていて、この国を守っていけるのか! 貴様らは、いつからそんなに偉くなった!」


 講堂を満たしていた反貴族派への怒りの熱気は、冷水を頭から浴びせられたように冷めている。


「現在、ルベーロ、ザカリアス、トーレ、オラシオの四人から提案があった、都外で『巣立ちの儀』を実施する計画が進められている。これは都外の住民からの要望を受けて行うもので、騎士団や騎士候補生への感情を軟化させるのに役立っている。今回、コリント達が踏み込んだ反貴族派のアジトも、都外の住民との交流の中でもたらされたものだが……力が弱く、経済的に恵まれない猫人が自爆したことで、我々への風当たりが強くなることが予想される。改めて言っておくぞ、都外の住民から無駄に敵視されるような行動は絶対にするな!」


 教官は言葉を切ると、一人一人の表情を確かめるように講堂を見回した。


「最後に、コリントは失敗を重ねたことで命を落としてしまったが、失敗は誰にでもあることだ。コリントの名誉を汚すような誹謗中傷は絶対に許さん。見聞きした時点で処罰されると思え。そして、コリント達の暴走を止められなかった自分達の未熟さを反省しろ。全員、黙祷!」


 教官自らが手本を示すように敬礼したのを見て、同期の候補生全員が敬礼し、コリントの冥福を祈って黙祷を捧げた。

 解散が命じられた後、僕ら同室の四人は教官に呼び出された。


「今回の一件について、お前ら四人には何の落ち度も無い。ただ、先程も言った通り、折角築いてきた都外の住民との関係にヒビが入るかもしれん。それでも都外での『巣立ちの儀』実施の計画は進めるか?」

「勿論です!」


 真っ先に答えたのはルベーロだ。


「この計画は僕らの実績云々ではなく、これからの新王都を安全で暮らしやすい街にしていく上で重要な取り組みになると思っています。それに、今更中止したら余計に反発を招くのではありませんか?」

「そうだな。それならば、お前達に課題を出しておこう。都外の人達には頭を下げて良好な関係を築けたのだから、同期の連中とも頭を下げてでも良好な関係を築いて味方を増やせ。今のままでは手が足りないんじゃないのか?」


 確かに教官の言う通り、計画を進めるのに手が足りていないのも確かだ。


「時を同じくして訓練所に入り、同じ訓練を受けて、同じ飯を食ってきた連中に頭を下げるのは気が進まないのは分かるが、都外に暮らしている者ならば同じ歳の者にも頭を下げられるのではないか?」


 言われてみれば、訓練所以外の人ならば、年下相手でも頭を下げられるけど、同期の訓練生となると反発心が湧いてしまう。


「それは、言ってみれば同期の連中を家族や兄弟と同じ様に感じているからだ。同期なら頼まなくてもやってくれる……なんて思うのは甘えだぞ。例え本当の家族だって意見が食い違うことはある。ましてや、これだけの人数が居るのだから、反発し合うのが当然だ。自分とは異なる意見の人間を、いかにして自分達の側に引き入れるかも勉強だと思え」

「はい、分かりました!」


 教官との話を終えて食堂へと向かうと、同期の訓練生の視線が僕らに集まってきた。

 こうした場面は、ニャンゴ絡みで何度か味わっているが、今回は少し違っているように感じる。


 カウンターで食事を受け取って空いていた席に座ると、隣りで食事をしていた同期がルベーロに話し掛けてきた。


「なぁ、都外で『巣立ちの儀』をやるって本当なのか?」

「あぁ、都外の住人は新王都の住民として認められていないから、大聖堂でやる『巣立ちの儀』には呼ばれないんだ」

「マジか、じゃあ、どうやって魔法を使えるようになるんだ?」

「色々苦労しているみたいだぞ。だから都外でも『巣立ちの儀』をやるって言ったら、凄い数の申し込みが殺到している。今日の情報も、そうした中で教えてもらったものだ」

「マジか……」


 いつの間にか、僕らの席を取り囲むように同期達が集まってきている。

 教官は頭を下げてでも協力者を増やせと言っていたけど、どうやらそこまでの必要は無さそうだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] まだまだ解ってないやつがいっぱい居たね。
[一言] コリントは自らの言動のツケを支払うことになったようですね
[気になる点] 不当なイジメ(暴行)を記録していたんだろうけど、もしかしたら死なせずに済んだかもしれない可能性を考えると···しばらく傷心でしょうなあ。 なお、死なせずに済んだかもって対象は、イジメら…
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