警備依頼開始
チャリオットのみんなと鍋を囲んで、うみゃうみゃな時間を過ごし、ふかふかに干したお布団でレイラと一緒にぬくぬくして、ふみふみして英気を養った。
休日明けの今日からは、またチャリオットのみんなと離れて、王都の警備の依頼に従事する。
タブレットやスマホ、着替えなどを詰めた鞄を背負って、旧王都から新王都を目指して空を移動した。
雲一つ無い空は相当冷え込んでいそうだが、空属性魔法の壁で周囲を囲んであるし、内部には温風の魔法陣も付けてあるから寒くない。
新王都近くまでビューンと飛んだ後、もう一度高度を上げて上空から撮影していく。
早朝の画像と昼間の画像、それに夜の画像で比較すれば、怪しい動きをしている奴らを見つけられるかもしれないと考えたのだ。
新王都の北側から、城壁に沿って時計回りで移動しながら都外の様子を撮影し、続いて反時計回りで第三街区を撮影、更に時計回りで第二街区を撮影してから騎士団に出向いた。
「おはようございます、エルメール卿」
「おはようございます、今日から御厄介になります」
『巣立ちの儀』が終わるまでの間、騎士団の宿舎で寝泊りする。
王国騎士団では、貴族の家の騎士団と共同で訓練を行うことがあるらしい。
その時に、騎士達が宿泊するための施設があり、そこの士官用の部屋を貸してもらえるそうだ。
案内された部屋はシンプルな内装だが、大きなベッドを備えた寝室、書斎、リビング、バス、トイレまで付いた大きな部屋だった。
騎士になる大柄な人種が泊まるのを前提で作られているので、猫人の俺一人では使い切れない広さだ。
荷物の整理を終えたら、騎士団長の所へタブレットを抱えて到着の挨拶に向かった。
騎士団の施設の中では、蹴飛ばされないようにエアウォークを使って歩く。
今日は騎士服を身につけていないが、宙を歩いている黒猫人ならば名乗る必要も無いだろう。
ちなみに、騎士団の施設の中では魔法の使用について色々な制約があるそうだが、エアウォークの使用については事前に許可を貰ってある。
初めて来た時のように、探知魔法を使って怒られる訳にはいかないからな。
騎士団長は専用の個室ではなく、大きな部屋を一望出来る位置に机を置いていた。
五つある机の列は、各師団プラス工兵や兵站を担う係のものだそうだ。
「おはようございます、アンブリス様、今日からお世話になります」」
「おはよう、エルメール卿。こちらこそ、よろしく頼む」
ガッチリと握手を交わしたが、さすがは騎士団長、ちゃんと握力をセーブしてくれた。
もし、騎士団長が本気で力を込めていたら、俺の手なんて潰されていただろう。
「早速ですが、こちらに来る前に、今の新王都の街並みを撮影してきました」
「おぉ、それが噂のアーティファクトか」
「これが上空から見た画像で、こんな感じで拡大してみれます」
「おぉぉぉ! そんなに鮮明な絵が見られるのか」
タブレットの画面を拡大してみせると、騎士団長は身を乗り出して覗き込んできました。
ダンジョンから発掘したタブレットのカメラは優秀で、かなり拡大しても画像が粗くならない。
上空から広く撮影した画像を拡大しても、屋根瓦一枚一枚を鮮明に確認できる。
これならば、土管と粉砕の魔道具を使った大砲を設置しようと試みている連中なんかは一目瞭然だ。
「アンブリス様、新王都の地番が分かるような地図はございますか? 出来れば書き込みが出来るものが良いのですが」
「うむ、有ることは有るが、外部への持ち出しは禁じている」
「構いません、撮影した画像を確認して、怪しい場所を見つけた時には捜索をお願いしたいのですが、地番が分からないと場所の指定が出来ないので……」
「なるほど、確かにその通りだな。では……」
騎士団長は背後の戸棚を開けて、模造紙ほどの大きさの地図を一枚取り出した。
別の引き出しを開けて、何やら帳面に書き込んでいるのは地図の数を確認するためのものだろう。
「エルメール卿、この地図を使ってくれ。ただ、地図に描かれているのは第三街区までで、都外については地番すら付いていない。都外で不審な場所を見つけた場合には、エルメール卿に同行を頼むことになってしまうだろう」
「勿論、その程度の手間は何でもありませんよ」
「そう言ってもらえると有難い。それにしても、まるで鳥の視点で王都を眺めて警戒出来るとは……警備のあり方が大きく変わりそうだな」
「あっ、そうだ……実は、今朝新王都の上空で撮影をしていて少し気になったのですが……」
「何かね? 気になる点は、どんどん指摘してくれ」
「『巣立ちの儀』の会場周辺の下水道って、どうなっていますか?」
「下水道がどうかしたのかね?」
「地上の様子は空から見れますが、地下については全く見れないですし、あの会場の形が気になりまして……」
新王都の『巣立ちの儀』は、ミリグレアム大聖堂に隣接する会場で行われる。
この会場は地上レベルから見ると、地下二階分ぐらい掘り下げた形になっている。
サッカーグラウンドほどの広さがあり、その周囲は階段状になっていて、当日は二万人以上の見物客で埋まる。
昨年は、この会場を標的として上空からの攻撃が行われたのだが、仮に会場横を下水道が走っていたとしたら、その内部から爆破などの攻撃が出来るのではないかと思ったのだ。
「なるほど、たしかにあの場所は掘り下げられているし、周囲が崩れれば大きな被害がでそうだな」
騎士団長は取り出したばかりの地図を広げて、大聖堂の周囲を確認した。
王城から大聖堂までは、真っすぐ南に下る道が続いている。
「この王城から第一街区、第二街区を抜ける道の下に下水道が作られている。下水は大聖堂の敷地にぶつかった所で左右に分かれて、道の下に沿って進む形になっているはずだ」
「アンブリス様、その分岐の所から真っすぐ南に掘り進んだら、王族や貴族の皆さんが儀式を見守る席の真下に辿り着けるんじゃないですか?」
「確かに! ブルーノ、ちょっと来てくれ!」
騎士団長は、第一師団長のブルーノ・タルボロスを呼んで、下水道に関する懸念を伝えた。
「地下か……全く考えていませんでした」
「すぐに人を派遣して確認してくれ。他の師団とも連携して探知魔法を使える者を選び、第二街区の地下は虱潰しに調べろ。それが終わったら第三街区の主要施設の周りもチェックさせろ」
「分かりました。ただちに着手させます」
下水道の捜索を急に申し付けられても、第一師団長は嫌な顔一つせずに席に戻ると、部下と日程の調整を始めた。
それだけでなく、部屋に残っていた他の師団長とも話をして捜索範囲の割り当てを行っているようだ。
「さて、エルメール卿、他に気になった点は無いかな?」
「今のところは他にはありません。これから撮影した画像の確認をすれば、何か見つかるかもしれませんので、その時にはお伝えさせていただきます。それと、昼の時間と夜の時間に撮影を行って、朝との違いを比較してみたいと思っています」
「ほう、夜な夜な怪しげな行動をする連中も炙り出そうという訳だな?」
「はい、その通りです。いくら人目を避けて夜に作業をしようと思っても、明かりが無くては作業出来ませんからね」
「反貴族派の連中も、まさか空から見られているとは思わんだろうな」
「さぁ、どうでしょう。旧王都では空から反貴族派を何度か追い詰めていますから、空を飛ぶのは知られていると思います。ただ、かなり高い所から撮影していますから、普通では気付かないでしょうね」
「うむ、よろしく頼むぞ」
「はい」
騎士団長から地番の入った地図を受け取り、部屋に戻って撮影した画像をチェックを始めた。





