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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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ベースの管理人

 最下層にある横穴は、ダンジョンの東西の中央部分、対岸へと向かう橋があったと思われる部分の真下を通っている。

 おそらく、海を渡ってからは徐々に深度を浅くして、通常の地下鉄として道路の下を走っていたのだろう。


 横穴へと下りる場所は、やはり駅の改札があったようだ。

 既に持ち去られてしまったのだろうが、何かゲートのようなものが設置されていた痕跡が残っている。


「ニャンゴ、何を見ているの?」


 床の痕跡を調べている俺に、レイラが話し掛けてきた。

 太陽の下ではなく、魔道具の明かりを灯した状況もあるのだろうが、瞳が好奇心で輝いている気がする。


「うん、ここにゲートがあったと思うんだ」

「ゲート? あぁ、そう言われてみれば……」

「この下にある横穴は、乗合の魔導車のための通路だと思ってる」

「乗合の魔導車なら、普通の道を走らせても良いんじゃない?」

「うん、そうだけど、専用の道を走らせた方が、馬車よりも安全に、一度に多くの人を運べると思うんだ」

「ふ〜ん……言われてみれば、確かにそうかもねぇ。でも、よくそんな事を思い付くわね?」

「えっ、う、うん……何となくね」


 レイラには、転生者である事は話していない。

 話しても信じてもらえないだろうし、気味が悪いと思われるのも嫌だからだが、何だか疑われているような感じがする。


「どうだ、シューレ」

「下りて行くのは薦められない……」

「そうか……」


 シューレとライオスが覗き込んでいるのは、横穴へと下りる階段だ。

 言うなれば、地下鉄のホームへと下りる階段なのだが、公設の明かりが点かなくなっている。


 事前の情報では、いわゆるホームの部分までは然程危険ではなく、その先の横穴へと入ると危険度が増すという話だった。


「この前のパーティー連中が突っ込んだ余波じゃねぇのか?」

「ワシもセルージョと同意見じゃな」


 階段の降り口ではガドが盾を構え、その脇にはセルージョが短弓を構えている。

 下へと続く階段は、途中で真っ暗な闇に飲み込まれているようだ。


 耳を澄ませてみると、ガサ……ゴソ……っと何かが蠢く音が聞こえる。

 俺としてはホームがどうなっているのか見てみたいのだが、この暗闇に突っ込んで行く気にはなれない。


「ニャンゴ、このずっと奥に明かりを灯せるか?」

「うん、出来るよ」

「ちょっとやってみてくれ」

「分かった」


 ライオスの要望に応えて、階段を下り切ったあたりに明かりの魔法陣を灯した。

 一応、魔法陣を発動させる前に、階段の通路は空属性魔法の壁で塞いでおいた。


「うわっ……」

「逃げ遅れた奴らだな」


 階段の下の方には、冒険者と思われる遺体が転がっていた。

 うつ伏せで、助けを求めるように腕を伸ばした状態で倒れている。


 既に、肉体は食い尽くされているようで、頭蓋骨の眼窩から小さなヨロイムカデが這い出してきた。


「あっ……」


 突然、明かりの魔法陣が壊されて、階段が再び闇へと沈む。

 俺達からは見えない位置から、何かがぶつかって来た感じだ。


「どうした、ニャンゴ」

「何かがぶつかって来たみたい」

「ここを下りるのは危険だな」

「ちょっと待って、もう一回、今度は場所を増やしてやってみる」


 ライオスが撤退を判断する前に、もう一度、今度は光の魔法陣の数を増やしてみた。

 空属性魔法の探知ビットで、内部の状況をザックリと探知して、ホームの途中あたりまで明かりを灯してみた。


「待て、ニャンゴ!」

「大丈夫、空属性の壁で仕切ってあるから……」


 またしても、明かりの魔法陣に衝撃が走った。

 ただし、今回は壊れずに明かりを灯し続けている。


 魔法陣の周囲も球体のシールドで覆っておいたのだ。

 階段の途中まで下りて覗き込むと、そこには前世では見慣れた地下鉄のホームがあった。


 ひしゃげたフレームしか残っていないが、ホームとレールの間はホームドアで仕切られていたようだ。

 下りて色々と調べてみたいとも思ったが、ここはあくまで地下鉄のホームであって、俺達が目指すようなお宝は眠っていないだろう。


 線路のある方から登ってきた大きなヨロイムカデが、悠々とホームを横切っていく。

 その鋭い顎は、俺や兄貴の胴体なら真っ二つにしそうな大きさだ。


「どう、ニャンゴ?」

「わっ、脅かさないでよ、レイラ」

「だって、凄い真剣に眺めていて、全然後ろに気を配ってなかったでしょ」

「それは、みんなが居てくれるから……」

「そうね、でもダンジョンの中では油断は禁物よ」

「そうだね」


 レイラを促して階段を上がり、空属性魔法で作った明かりを手前から順番に消していった。

 階段を上がってきた俺に、ライオスが様子を訊ねてきた。


「どんな様子だ?」

「たぶん、乗合の魔導車のための乗り場で間違いないと思う」

「そうか、何か面白いものは見つかりそうか?」

「無いと思う。あるとしたら、その乗合魔導車が行き着く先、さっき発掘した先にあるはずの街だね」

「そうか、ならば無理をして下りる必要は無いな。よし、今回はここまでにして上がろう」


 初回のダンジョン探索の最後に俺達が向かったのは、ベースと呼ばれている施設だ。

 地上から続く七十階層の一番下に、強固な砦状の建物が築かれている。


 言うなれば、避難用のシェルターのようなものだ。

 大量の魔物に遭遇した場合などに、逃げ込んで、籠城しながら戦える構造になっているそうだ。


 周囲には、煌々と明かりが灯されていて、ベースの内部には弩弓なども備えつけられているらしい。

 俺達が近付いて行くと、内部から野太い声が響いてきた。


「周りに魔物はいないか?」

「あぁ、大丈夫だ」

「これから、扉の掛け金を外す。素早く中に入ったら、戸を閉めて掛け金を下ろせ!」

「了解した!」


 ライオスが大声で返事をすると、ガチャンと重たい音を立てて掛け金が外されたようだ。

 ガドが取っ手を握って戸を開いたが、かなり重たそうだ。


 全員が入ったところで、ガドが戸を閉めて掛け金を下ろした。

 ガチャンという音が、外界から隔絶する合図のように聞こえる。


 中に入ってみると良く分かったが、細い覗き窓がいくつも作られていて、そこから弓矢や槍で外の敵を攻撃出来るようになっていた。

 ベースの広さは、体育館二つ分ぐらいだろうか、内部には更に同じような壁があり、その内部がベースの本体らしい。


 中に入るには、外壁と内壁の間の通路をグルっと反対側まで進む必要があった。

 内側にも狭間が作られているのは、ここまで侵入された時を想定しているからだろう。


 内壁の中に入る扉に辿り着くと、またガチャンと掛け金が外れる重たい音がした。


「見ない顔だな……」


 扉を開けてぬっと顔を出したのは、ゼオルさんと同年代ぐらいの狼人の男性だ。

 赤茶色の髪には白髪が目立ち、顔には深い皺が刻まれているが、体格はガッシリしている。


 おそらく、元は高ランクの冒険者だろう。

 内壁の中側は、更に囲いが作られていて、休息するのはその内側らしいが、冒険者の姿は見当たらない。


 囲いの奥にも通路があり、その先が地上へ向かう階段のようだ。


「ダンジョンに潜るのは今回が初めてだ。俺はチャリオットのリーダー、ライオスだ」

「このベースの管理人をやっているバリッツだ。これからダンジョンに潜り始めるとは、酔狂な連中だな」

「そうでもないさ、またすぐに賑やかになるぞ」

「止めておけ……お前さんらだけじゃ、あの横穴は攻略できんさ」


 悪いことは言わないとばかりに、バリッツは手を振ってみせた。


「勿論、俺達は横穴を攻略するつもりは無いさ、あの先には何もない……いや、あるのだろうが進むにはリスクが大きすぎる」

「ほう、幻の王宮とも、別の地下都市への回廊とも言われてるんだぞ」

「そうみたいだな、だが、俺達は別ルートで進む」

「別ルートだと? 面白そうだな、俺の退屈しのぎに話して聞かせろ。カルフェを飲ませてやる」


 丁度、地上に戻る前に一休みしたいと思っていた所なので、バリッツの誘いを受けた。

 カルフェを淹れてもらったタイミングで俺が名乗ると、バリッツは慌てて跪いた。


「こいつは失礼いたしやした」

「あぁ、気を使わないで下さい。ここではただの冒険者ですから」

「構わないので?」

「えぇ、ダンジョンデビューしたばかりのルーキーですから、色々と教えて下さい」

「分かりやした。あっしでお役に立てるなら、なんでも聞いてくだせぇ」


 バリッツは元Bランクの冒険者で、ダンジョンで長く活動してきたそうだ。

 しかも、ゼオルさんとは知り合いだそうだ。


「ゼオルの野郎、そんな楽隠居みたいな生活してやがるんですか」

「はい、おかげで色々と教えてもらえましたよ」

「あいつは、ちょっと変わった野郎でしたからね。旧王都にいながら、あまりダンジョンには興味が無いようで、新王都へ往復する商隊の護衛をやる事が多かったですね」

「バリッツさんは、もっぱらダンジョンだったんですか?」

「そうですね。あっしらが現役で潜っていた頃は、潜れば何か見つけられて金になってましたからね」

「また、そんな時代が来るかもしれませんよ」


 俺達が推測した、ダンジョンが元は海上都市で北側には対岸があると話すと、バリッツは口を半開きにして言葉を失っていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] レイラとセルージョはニャンゴについて当たらずとも遠からじな予想を立てているのでバレているといえばバレてますね。
[一言] ニャンゴは対岸に何かあるとみているけど、この巨大な建造物の周囲半径数百m以内にも色々遺跡化しか構造物はありそうですね。
[一言] もう枯れてくだけだと思った熟練冒険者がギラギラし始めちゃいそうな情報よねw
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