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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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雨のルガシマ

 エスカランテ領に入った最初の街、ルガシマの手前で雨が降り出した。

 旧王都まで向かう道中は基本的に野営をして資金を節約する予定なのだが、雨脚は強くなる一方だったので、この日は宿に泊まることになった。


 四人部屋に、ライオス、ガド、セルージョ、俺、兄貴、二人部屋に、シューレ、レイラ、ミリアムが泊まる。

 泊まるだけの安宿なので、着いたら早速布団のダニ退治に取り掛かった。


 空属性魔法で底を網状にした箱を作り、布団を放り込んだら高温の温風で十分ほど乾燥させる。

 これでダニも退治できるし、湿っぽかった布団もふかふかになった。


 仕上げは、乾燥した冷風を当てて少し温度を下げておく。

 冬場ならそのままでも良いが、今の季節だと少し熱くて寝苦しそうだからだ。


 一度に二組の布団を乾燥させ、それを三回繰り返して全員分の布団を仕上げた。

 これで、ダニに悩まされることもなく一晩安眠出来るはずだ。


 いわゆる素泊まりの宿なので、食事は宿の近くの食堂で食べるそうだ。

 雨脚は土砂降りに近いほどだけど、空属性魔法で屋根と路盤まで作ってしまえば出掛けるのも苦にならない。


「いやぁ、ニャンゴ様様だな」

「ふふん、セルージョなんかと比べるのは失礼……」

「ちっ、てかシューレだって役に立ってねぇだろうが」

「それは昔の話……」


 シューレが自慢げにしているのは、ナコートで仕入れた一本のブラシが原因だ。

 ブーレヤマアラシという小型の魔物の針を加工して作ったブラシで、絶妙な弾力性があるのだ。


 あのブラシで毛並みを梳かされると、腰砕けにされそうになる。

 ミリアムなんて、俺や兄貴、セルージョまでいる馬車の中なのに、パンツ一枚の姿でシューレにブラッシングされ表情を蕩けさせていたほどだ。


「ふふっ、ニャンゴも夜を楽しみにしていて……」

「いやいや、俺はセルージョ達と一緒の部屋で寝るから……なぁ、兄貴」

「いや、俺は……そ、そうだな、俺達は男部屋で……」

「フォークス、背中もブラッシングしてあげる……」

「みゃっ、お、俺は……」


 うん、兄貴が陥落するのも時間の問題のようだ……俺は空属性魔法であの弾力を再現して、自分でブラッシングするんだ。

 でも、ブラシだけ作ってレイラにブラッシングしてもらうのも……いやいや、その後に抱き枕にされるから我慢我慢。


 宿で紹介してもらった食堂は、この雨で閑散としていた。

 一度に八人もの客が来て、溜息をついていた女将さんは満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。


「いやぁ、酷い雨の中を良く来て……あら、みんな濡れてないね」

「うちには有能なメンバーがいるからな。女将、お薦めを八人分頼む。それと酒を四杯、ミルクを三杯だ」

「あいよ、腕に縒りをかけて準備するから、ちょっと待っておくれ」


 ライオスが俺の正体を明かさないのは、変にかしこまられたり、疑られたりしないためだろう。

 ルガシマの手前、ナコートの街では俺の正体を明かした途端、人だかりが出来る騒ぎとなったのだ。


 殆どが好意的な反応なのだが、中には敵意の籠った視線を向けて来る者もいるので、明かさなくても良いところでは普通の猫人として過ごすようにしている。

 あれほどの騒ぎになるのはナコートだけなのかもしれないが、猫人を始めとして体の小さな人種の扱いが良くなる一方、体の大きな人種でも恵まれた生活をしていない者は反感を持つようだ。


 これまで虐げられてきた人種が優遇され始めると、自分たちの仕事が更に減るのではないかと考えるらしい。

 前世日本に例えるならば、外国人労働者に対する風当たりみたいな感じなのだろうか。


 ラガート子爵も話していたが、猫人達が普通に扱われるようになるには、世の中全体が豊かになる必要があるのだろう。

 トモロス湖畔の職業訓練施設を見学した後、兄貴とミリアムの顔つきが少し変わった。


 職人としての修業に打ち込む猫人の姿を見て、自分達も負けていられないと刺激を受けたらしい。

 移動の馬車の中でも、兄貴はガドに、ミリアムはシューレに冒険者としての属性魔法の使い方などを聞いていた。


 兄貴もミリアムも、体格的にはガドやシューレとは差があるので、そのハンデをどう埋めるのか二人で話している。

 何にしても、二人が向上心に溢れているのは良いことだ。


「はいよ、お待たせオークのソテー、ルガシマ風だよ」


 出て来たのは、厚く切ったオークの切り身を焼いたものに、たっぷりのソースがかかったものだった。

 ソースはヨーグルトがベースのようで、そこに色々な香辛料が混ぜてある。


 タンドリーチキンのオーク版みたいな感じだ。

 

「うみゃ! 肉が柔らかっ! ピリ辛ソースが良く絡んで、うみゃ!」

「ホント、これは美味しいわね」


 レイラもルガシマ風のオークソテーを気に入ったようだ。


「このソースが店ごとに違うの……ここは当たり……」


 エスカランテ領出身のシューレは、あちこちの店で食べ比べもしたらしい。

 辛みの強い店、酸味の強い店など、店ごとの特色があって、中には食べ慣れない人にはクセの強い店もあるらしい。


「良く筋切りをしてから肉を漬け込むの……漬け込む時間とかにも秘伝があるらしい……」


 この他に、ナスとトマトのグラタン、ズッキーニとベーコンのパスタなど、美味しい料理で満腹するまで堪能したが、支払いは思ったほど高くなかった。

 この雨で他のお客が少なく、仕入れや仕込みが無駄になりそうなところに、団体で入ったから少しサービスしてもらえたらしい。


 宿に戻ったら、お風呂タイムだ。

 裏手の井戸端には、水浴び用の仕切りの壁は設けられていたけど湯舟は無い。


 そこで俺が空属性魔法で湯舟を作り、お湯を溜めたところでお役御免になるはずが……引きずり込まれてしまった。


「なんで、あんたまで入ってるのよ……」

「それはレイラに言ってくれ」


 ミリアムにジト目で睨まれたけど、別に猫人の入浴シーンで興奮したりしないから安心してくれ。

 それとも、毛並みが濡れてペショっとするから、貧相なボディーラインが……いや、何でもない……。


 レイラに丸洗いされて、レイラを丸洗いして、湯舟から出たら空属性魔法で温水シャワーを設置。

 全員が泡を洗い流し終えたら、大型の温風機を作って全員の髪と毛並みを乾かす。


 なんだか、折角のお風呂タイムなのに体が休まらない気がする。

 魔力回復の魔法陣を使っているから、魔力切れする心配は無いけれど、それでも魔法を使い続けると疲れるんだよねぇ……


 これから先は、野営の機会も増えるはずだけど、あまり状況は変わらなそうだ。


「今日もいっぱい働いたから、まずはニャンゴからブラッシングしてあげる……」

「みゃっ、お、俺は別にぃぃぃ……」


 シューレに女子部屋に引きずり込まれ、ブーレヤマアラシのブラシでブラッシングされる。


「ふみゃぁ……これは、駄目にゃ……」


 毛並みを調え、地肌を滑っていくブラシの感触は筆舌に尽くしがたい心地良さだ。

 風呂から上がって着たばかりのシャツとカーゴパンツも脱がされて、背中や足もブラッシングされる。


「ふみゃぁぁぁ……」


 この心地良さには抗いがたく、自分でも締まりの無い顔になっている自覚はあるのだが、力が抜けて何もする気が起こらない。


「シューレ、次あたし! ねぇ、まだ?」


 ミリアムがベッドの上で足踏みをして催促しているが、今は俺の番なんだから、大人しく待っていなさい。

 全身のブラッシングが終わって、レイラに抱えられて隣のベッドへと移動。


 もう抱き枕でも何でもしてくれ、俺も乳枕を堪能させてもらうから……と思っていたら、部屋のドアがノックされた。


「ニャンゴ、冷房止まっちまってるぞ。おい、寝ちまったのか?」


「ふみゃぁ……今、無理……」

「おぃ、ニャンゴ。このままじゃ暑くて寝てらんねぇよ」


 男性陣が泊まる部屋、女性陣用の部屋、どちらにも空属性魔法のエアコンを設置してある。

 冷却の魔法陣、風の魔法陣、除湿の魔法陣を組み合わせた本格タイプで、ムシムシ、ジトジトな部屋の空気をカラっと涼しくしていたのだが、ブラッシングの気持ちよさで気が緩んで魔法陣が消えてしまったのだろう。


「ニャンゴ、おいニャンゴ聞いてるのか?」

「うみゃぁ、うるさいにゃぁ……作り直すから待ってて……」

「おぅ、冷房さえ作り直してくれたら、後は好きにしてくれていいからな」


 文句を言われないように、少し強めの設定にして冷房の魔道具を作り直した。

 女子部屋の冷房は、冷えすぎないように少し弱めの設定で作り直し、レイラに抱えられて眠りに落ちた。


 どうせ雨で足止めになるなら、森の中でレイラと二人きりの方が良かった……なんて、ちょっとしか思ってないよ。

 翌朝、セルージョは鼻をすすりながら現れた。


「ニャンゴ、冷房効きすぎだぜ。この時期に、布団にくるまって震えて眠るとは思ってなかったぜ」

「まったくだ、寒さをしのぐために窓を開けてたぞ」


 ライオスもしかめっ面で現れたが、ガドは何ともなさそうな顔をしている。


「あれっ、ガドは平気だったの?」

「ワシは、フォークスを抱えてたからな」

「なるほど……」


 ガドに抱き枕にされるとは、やっぱり兄貴はそっち系に目覚めてしまったのだろうか……。


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― 新着の感想 ―
[一言] そっち系に目覚めても私達は味方よ!(謎の声)
[一言] まぁ、アッー! に目覚めてはないんだろうけど、逆にトラウマにもなっていない様なので良いことだ。
[一言]  こいつのせいで猫人どもがつけあがりやがる、とか思ってるのがいるんだろうね。「好青年揃いの自警団」が「無法な猫人」に襲われて「已む無く反撃」なんてことが起きたりしないと良いが。
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