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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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ダンジョンに向かって

 早朝、イブーロから南へ向かう街道には、馬車が列をなして進んで行く。

 イブーロの交易の殆どは、この王都へと通じる街道で行われているからだ。


 そのため、夜明け前には開門を待つ馬車が南門の前に集まり、官憲による検査を受けたり、知り合い達と情報の交換を行っている。

 今朝の南門前では普段の賑わいに加えて、チャリオットの見送りに来た人の姿が多く見られた。


 ライオス、ガド、セルージョの三人は、イブーロでもベテランとして他の冒険者達とも広く交流があったから当然だろう。

 ボードメンのリーダー、ジルの姿もあったし、トラッカーの三人の姿もあった。


 そして、冒険者達が集まって来たもう一つの理由は、酒場のマドンナだったレイラの見送りだ。

 中には、いきなり結婚を申し込んで、他の冒険者から袋叩きにされてる者もいた。


 俺は、君子危うきに近寄らずという事で、少し離れた場所から見守らせてもらったのだが、多くの冒険者から呪詛の視線を向けられた。

 てか、俺なんか見ている暇があるなら、しっかりとレイラの姿を網膜に焼き付けておいた方が良いんじゃないの?


 見送りには、ギルドマスターのコルドバスも姿を見せた。

 活躍を期待しているという月並みな言葉と、ダンジョンに飽きたらさっさと戻ってきて俺の仕事を引き継げという本音を吐いていった。


 俺のところにも、レンボルト先生やメンデス先生、魔道具を製作販売しているカリタラン商会のルシオさん、貧民街の突入作戦で一緒になったラガート騎士団のバジーリオさんなどが見送りに来てくれて。

 イブーロでは、そんなに長い時間を過ごした訳ではないのに、気が付けば多くの人と繋がりが出来ていたのだと再認識させられた。


 この先、俺がどんな人生を歩んで行くのか分からないけど、晩年はイブーロかアツーカで過ごしたいと思った。

 多くの人達に見送られて、チャリオットの馬車はイブーロを出発し、ノンビリと南に向かって進み始めた。


 これから旧王都までの長旅の始まりだ。

 今日は、トモロス湖畔に建つラガート子爵の居城、ダルクシュタイン城を訪問する。


 俺がダンジョンに挑戦するために旧王都へ拠点を移すと、どこからか耳に入れたラガート子爵が、途中で立ち寄っていくように伝えて来たのだ。

 領主様のご要望とあらば応えない訳にはいかないので、本日訪問すると事前に伝えてある。


 いや、別にトモロス湖で獲れるマルールやモルダールを御馳走になろうなんて考えて……いますよ、猛烈に……。

 ダルクシュタイン城に立ち寄るついでに、貧民街の人達を移住させた職業訓練施設も見学する予定だ。


 ミリアムの兄、コルデロが働いていたラージュ村では、猫人も他の人と同様の扱いを受けていたが、トモロス湖畔の施設ではどうなのか気になっている。

 ラガート子爵が設立した施設だから大丈夫だとは思っているし、むしろどんな訓練で才能を発揮出来ているのか楽しみでもある。


 チャリオットの新しい馬車は、これまでの馬車に比べて荷台の広さは倍以上あるが、引っ越しの荷物なども載せているのでメチャクチャ広くなった訳ではない。

 御者台には、いつものようにガドとライオスが座り、ガドのすぐ後ろの荷台に兄貴が座っている。


 荷台の両側には、幌の骨組みにタンスなどの荷物が縛り付けられていて、その間を抜けた後ろのスペースに俺とレイラ、シューレ、ミリアム、そして後方を警戒するセルージョが座っている。

 後方の幌を開け放っているので、馬車の中を通り抜けていく風が心地良い。


 馬車は荷馬車なので乗り心地は良いとは言えないが、レイラ、シューレ、セルージョの尻の下には空属性魔法で作ったクッションを敷いてある。

 俺とミリアムの分は、レイラとシューレに抱えられているから必要ないのだ。


「ジェシカは見送りに来なかったわね」

「うん、拠点で食事をした時に、行かないって言ってたからね」

「ニャンゴに会うと、別れが辛くなるからでしょう」

「俺もジェシカが来てたら泣いてたかも……」

「えぇぇ……私が一緒なのに?」

「だって、レイラはオッサン達に囲まれてたから……」

「あら、焼餅妬いてるの?」

「そ、そんなことは……」


 おおぅ、そんなにギューって抱えられたら頭が埋まる……。


「今日も暑くなりそうなんだから、あんまりイチャイチャ、ベタベタしてんなよ」

「なによ、セルージョ妬いてるの?」

「よせよ。そんな気は毛頭無いぜ」

「あら、とぼけたって駄目よ、ニャンゴは渡さないからね」

「いや、もっとねぇよ。俺はそっちの趣味は無いからな」

「じゃあ、安心ね」

「はぁ、勝手にしてくれ……」


 レイラが俺に頬擦りし、セルージョは呆れて馬車の後方へと目を転じる。

 チャリオットの馬車の前後には、それぞれ五台ぐらいの馬車が等間隔で付いて来ている。


 イブーロでも腕利きのパーティーの近くにいれば、魔物や盗賊に襲われても大丈夫だろうという計算が働いているらしい。

 いわば、チャリオットを護衛としてタダで使おうという訳だ。


 街道でアクシデントに襲われた場合、自分の身の安全を確保した上で、最大限の手助けをするのが暗黙のルールとなっている。

 それだけ旅には危険が付き物だし、それぞれに護衛を雇ってはいるけれど、オークの大きな群れと遭遇した場合などでは、一台の馬車では対処出来なくなる。


 そうした場合には、通り掛かった馬車の護衛なども協力して、危機を乗り越えるのだ。

 他の馬車の護衛をしている冒険者も、今朝の見送りの状況を見れば、こうした計算を働かせるのは当然なのだ。


「まぁ、それも今日までの話さ。明日は盛大な見送りとかは無いし、イブーロから離れるほど俺達の知名度も無くなっていくからな」

「でも、名誉騎士様が一緒だから大丈夫よ」

「そうだな、ここからはニャンゴ様々によろしくお願いしよう」


 セルージョがニヤリと笑いかけて来て、向かい側に座っているシューレも頷いている。


「いや、そんなにアテにされても、俺の知名度なんて高が知れていると思うよ」

「何言ってやがる、王女様の危機を救い、王様自ら叙任した名誉騎士様だぞ。知らない奴なんかいねぇよ」

「トローザ村にいた、私の馬鹿兄貴でも知ってたのよ」

「うっ、そうだった……」


 俺が自覚していないだけで、俺が思っている以上に名前が売れているらしい。


「俺の名前を騙る偽者とかいたらどうしよう……」

「それはないわ……不落の魔砲使いとしての実力を示せなければ、すぐにバレるもの……」

「それもそうか」

「それに、王家の紋章が入ったギルドカードなんて偽造出来ない……やってバレれば処刑ものだし……」


 確かにシューレの言う通り、俺のフリをしようにも空属性なんて殆どいないし、しかも猫人で黒い毛並みで……なんて条件を突き詰めていけば、すぐにバレるだろう。

 でも、すぐバレるけど、バレるまでに詐欺を働こうなんて奴が現れないか、ちょっと心配だ。


 イブーロを出発して、二時間ほど経ったところで馬車を道の脇に止めて休憩させる。

 アツーカ村からイブーロに行く時のように、途中で替え馬を用意できないから、馬を労わって進まなければならない。


 ガドが桶を用意して、そこに俺が水の魔法陣を使って水を満たしていく。

 そろそろ気温が上がり始めたので、ここから先は暑さ対策を始めよう。


 チャリオットの新しい馬車は、幌の枠木を伸ばして、馬への日差しも遮るようになっている。

 その下側の空間から、幌の内部までを空属性魔法の壁で仕切り、冷却の魔法陣を発動させれば、暑さ対策は万全だ。


 継続して魔法を使うので、魔力回復の魔法陣を胸当て状にして身にまとう。


「ガド、温度は調節できるから、暑かったり、寒かったりしたら教えて」

「了解じゃ、この夏の盛りに、こんなに涼しく馬車を走らせられるとは本当に助かるわい」


 埃が立たないように、熱せられた道を冷やすように、馬車の前方には水を撒いて行く。

 これは、俺達の後ろに続く馬車も恩恵を受けられるだろう。


「いやぁ、快適そのものだな。馬車で旅をするならニャンゴは欠かせないな」

「当然、ニャンゴは超絶有能……」


 レイラは、俺を抱えてウツラウツラと居眠りを始めたようだ。

 冷房は効いているし、俺を抱えているからお腹も冷えないし、居眠りするには最高なのだろう。


 ミリアムはシューレに抱えられながら、グッスリと寝込んでいるようだ。

 時々、思い出したかのように、しっぽの先がピクっ、ピクっと動くのは愛嬌があるが、熟睡しながらも瞼が半開きなのはちょっと怖い。


 てか、ベロも仕舞い忘れてるし、レディーの寝相としてはいただけないな。

 討伐に向かう訳でもないので、パーティー全体が緩い雰囲気で、セルージョも生あくびを噛み殺している。


 俺もレイラの乳枕で眠ってしまいたいけど、さすがに、これだけの魔法を維持しながらでは眠っていられない。

 あぁ、早くトモロス湖に着かないだろうか、美味しいお魚が食べたいにゃ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ながーい間を開けての伏線改修>偽物
[一言] はい、ゼロちゃんとは後でですね。
[気になる点] そろそろ恋人の絡みうざくなってきたな
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