ポーションで魔物を治療すると、わりと高確率で懐かれる
日々の生活の中で、俺は少しずつ、この階層のルールを理解していった。
まず一つ。
ここは“単なるフィールド”じゃない。
どうやら緩やかにエリアが分かれている。
たとえば、草原エリアを抜けて森へ入ると、魔物の顔ぶれが変わる。
鳥型が減って、代わりにキツネや狼っぽい魔物が増える。
湖の近くでは魚型の魔物が水面から飛び出してくる。
そして、いずれのエリアでも、魔物の死骸は一定時間で光になって消え、地面に吸い込まれる。
「やっぱり、ここも“ダンジョンそのもの”なんだよな……」
地面に吸い込まれた魔物たちは、きっとどこかでエネルギーに変換されているのだろう。
そのおかげで、この不自然な四季や青空が維持されているのかもしれない。
そして二つ目。
“ポーションで魔物を治療すると、わりと高確率で懐かれる”。
クリムで味をしめた俺は、その後、森で出会った怪我をした狼型の魔物にもポーションを試した。
「おーい、噛むなよ。噛んだらちょっと泣くぞ俺」
慎重に距離を詰め、小瓶を遠くから転がして見せる。
狼型は警戒しながらも、血だらけの足を引きずっているせいで逃げ切れないらしい。
俺とクリムがじりじりと寄っていくと、ふと、ぐったりと伏せてしまった。
「……これはもう、ダメ元だな」
傷口に触れないよう気をつけながら、ポーションを少しずつ飲ませる。
ほどなくして、光がじんわり広がり、裂けた肉がふさがっていく。
狼型の瞳に力が戻る。
次の瞬間。
「……あのさ。俺、噛むなって最初に言ったよな?」
復活したばかりの狼型が、俺の手首をぱくっとくわえた。
ただし、痛くない。甘噛みだ。
尻尾をぶんぶん振りながら、俺の腕を離さない。
「おおおい、落ち着け、そういうスキンシップは想定してない!」
クリムが「きゅきゅっ」と抗議するように鳴き、狼型にぴょんと飛び乗る。
二匹で俺のまわりをぐるぐる回り始めた。
こうして、拠点の住人が一匹増えた。
俺はそいつを勝手に「ルゥ」と名付けた。
深く考えずに口に出た名前だったが、本人も気に入ったのか、そのあと呼ぶたびに嬉しそうに耳をぴこぴこ動かす。
草原のふちにあるくぼ地拠点は、いつのまにか
「とある錬金術師と、毛玉と、でかい犬(正確には狼型魔物)の家」になっていた。




