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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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34/36

突然はずされるやつに理由は届かない

「先日まで仲良かったのに、急に仲間はずれにされて……」


店の扉がカラン、と静かに鳴って、

入ってきたのは声を抑えた若い冒険者。

姿勢はまっすぐなのに、目だけが落ち着かない。


クリムが「きゅ?」と様子をうかがい、

ルゥは一歩近づいて、逃げ道を塞がない距離で座った。


「喧嘩か?」

「してません……」

「心当たりは?」

「……ないです」


この答え方はな。

“ない”んじゃなくて、

聞かされてないだけだ。


俺はカウンターに肘をついた。


「いつから?」

「昨日までは普通で……

今日、集合時間も場所も、

自分だけ知らされてなくて……」


声が、少しだけ震えた。


「聞いたか?」

「聞きました。

“ごめん、今バタバタしてて”って……

それで終わりです」


あー……はい。

終わってないのに、終わらせられたやつだ。


クリムが、そっと冒険者の手に触れる。

「きゅ」

“ここにいる”って確認みたいに。



「なあ」

俺は静かに言う。


「仲良かった“理由”は分かるか?」


冒険者は一瞬、詰まった。


「……一緒に依頼受けて……

雑談して……

たまに飲みに行って……」


「それは“一緒にいた事実”だ。

仲良かった理由じゃない」


冒険者は黙り込む。


「急に外される時ってのはな、

理由があっても本人に説明されることは少ない」


ルゥが低く「わふ」と鳴いた。

“責めるな”って合図だ。


「お前が悪い可能性も、

相手が勝手に決めた可能性も、

どっちもある。

でもな」


俺は続けた。


「説明をしない関係は、

もう対等じゃない」


冒険者の肩が、少し落ちる。


「……じゃあ、

どうしたら……」


「追いかけるな」


即答だった。


冒険者が目を見開く。


「追いかけると、

“戻してもらう側”になる。

それは、あとで必ず自分を削る」


クリム「きゅ(削れる)」



俺は棚から、小瓶を二つ出した。


「これは、

自分の価値を“その場の人間関係”と切り離すやつだ」


冒険者は瓶を見つめる。


「……そんなの、必要なんですか」


「必要だから作った。

仲間はずれはな、

自己評価を一番歪ませる」


もう一本を並べる。


「こっちは、

“一人で動く不安”を少しだけ軽くする」


「……逃げ、ですか」


「違う。

移動だ」


俺は肩をすくめる。


「人間関係は固定じゃない。

今の場所が合わなくなっただけなら、

場所を変えりゃいい」


冒険者はしばらく考えてから、

小さく息を吐いた。


「……自分、

何か悪いことしたのかって、

ずっと考えてました」


「考えていい。

でも答えが来ない場所で、

自分を責め続けるな」


ルゥが鼻先で冒険者の膝を軽く押す。

「わふ(前を向け)」



冒険者は瓶を受け取り、

少しだけ背筋を伸ばした。


「……話しかけなくて、いいんですよね」


「いい。

向こうが必要なら、向こうから来る」


「来なかったら……」


「それが答えだ」


冒険者は苦笑した。


「……きついですね」


「きつい。

でもな」


俺は最後に言った。


「理由を説明しないで切る関係は、

最初から長持ちしない」


冒険者は深く頷き、

扉へ向かった。



扉が閉まったあと、

俺は小さくため息をつく。


「……仲間はずれは、

殴られないぶん、長引くからな」


クリム「きゅ……」

ルゥ「わふ(でも立ち直る)」


次に来るやつは、

どうか“ちゃんと話して切れる関係”でありますように。




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