突然はずされるやつに理由は届かない
「先日まで仲良かったのに、急に仲間はずれにされて……」
店の扉がカラン、と静かに鳴って、
入ってきたのは声を抑えた若い冒険者。
姿勢はまっすぐなのに、目だけが落ち着かない。
クリムが「きゅ?」と様子をうかがい、
ルゥは一歩近づいて、逃げ道を塞がない距離で座った。
「喧嘩か?」
「してません……」
「心当たりは?」
「……ないです」
この答え方はな。
“ない”んじゃなくて、
聞かされてないだけだ。
俺はカウンターに肘をついた。
「いつから?」
「昨日までは普通で……
今日、集合時間も場所も、
自分だけ知らされてなくて……」
声が、少しだけ震えた。
「聞いたか?」
「聞きました。
“ごめん、今バタバタしてて”って……
それで終わりです」
あー……はい。
終わってないのに、終わらせられたやつだ。
クリムが、そっと冒険者の手に触れる。
「きゅ」
“ここにいる”って確認みたいに。
⸻
「なあ」
俺は静かに言う。
「仲良かった“理由”は分かるか?」
冒険者は一瞬、詰まった。
「……一緒に依頼受けて……
雑談して……
たまに飲みに行って……」
「それは“一緒にいた事実”だ。
仲良かった理由じゃない」
冒険者は黙り込む。
「急に外される時ってのはな、
理由があっても本人に説明されることは少ない」
ルゥが低く「わふ」と鳴いた。
“責めるな”って合図だ。
「お前が悪い可能性も、
相手が勝手に決めた可能性も、
どっちもある。
でもな」
俺は続けた。
「説明をしない関係は、
もう対等じゃない」
冒険者の肩が、少し落ちる。
「……じゃあ、
どうしたら……」
「追いかけるな」
即答だった。
冒険者が目を見開く。
「追いかけると、
“戻してもらう側”になる。
それは、あとで必ず自分を削る」
クリム「きゅ(削れる)」
⸻
俺は棚から、小瓶を二つ出した。
「これは、
自分の価値を“その場の人間関係”と切り離すやつだ」
冒険者は瓶を見つめる。
「……そんなの、必要なんですか」
「必要だから作った。
仲間はずれはな、
自己評価を一番歪ませる」
もう一本を並べる。
「こっちは、
“一人で動く不安”を少しだけ軽くする」
「……逃げ、ですか」
「違う。
移動だ」
俺は肩をすくめる。
「人間関係は固定じゃない。
今の場所が合わなくなっただけなら、
場所を変えりゃいい」
冒険者はしばらく考えてから、
小さく息を吐いた。
「……自分、
何か悪いことしたのかって、
ずっと考えてました」
「考えていい。
でも答えが来ない場所で、
自分を責め続けるな」
ルゥが鼻先で冒険者の膝を軽く押す。
「わふ(前を向け)」
⸻
冒険者は瓶を受け取り、
少しだけ背筋を伸ばした。
「……話しかけなくて、いいんですよね」
「いい。
向こうが必要なら、向こうから来る」
「来なかったら……」
「それが答えだ」
冒険者は苦笑した。
「……きついですね」
「きつい。
でもな」
俺は最後に言った。
「理由を説明しないで切る関係は、
最初から長持ちしない」
冒険者は深く頷き、
扉へ向かった。
⸻
扉が閉まったあと、
俺は小さくため息をつく。
「……仲間はずれは、
殴られないぶん、長引くからな」
クリム「きゅ……」
ルゥ「わふ(でも立ち直る)」
次に来るやつは、
どうか“ちゃんと話して切れる関係”でありますように。




