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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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33/36

闇堕ちはポーションじゃ止まらない

店の扉がカランッと、

半分ぶつかるみたいな音を立てて開いた。


入ってきたのは、明らかに逃げてきた挙動の女性。

肩で息をして、背後を一度確認してから、

ようやくカウンターにすがりつく。


クリム「きゅ……?」

ルゥは無言で入口側を警戒。

あ、これ“追われてる系”だ。


女性は声を潜めて、真剣に言った。


「……闇堕ちしたヤンデレに効くポーション、ありますかね」


…………。


俺は一拍置いてから聞き返した。


「それ、“本人に飲ませる”前提の話か?」


女性は首を横に振る。


「無理です。

飲ませようとしたら、

“一緒に永遠になろう”って言われました」


「逃げろ」


即答だった。


「ですよね!?」


クリム「きゅ!(即答)」

ルゥ「わふ(正解)」



俺は腕を組み、女性を一通り観察する。


怪我はなし。

震えはあるが正気。

目は覚めてる。


「で、どこまで行ってる?」

「日記が三冊目です」

「重症だな」

「鍵も合鍵作られてて……」

「アウトだ」


女性は半泣きだ。


「だ、だって最初は優しかったんです!

重いくらい愛されてるって思ってて……

気づいたら“闇堕ち”してて……!」


「闇堕ちはな、

“愛が深すぎる”んじゃない。

不安が暴走してる状態だ」


ルゥが低く「わふ」と鳴く。

“ここから先は慎重にいけ”の合図。



女性は縋るように言った。


「落ち着かせるポーションとか……

正気に戻るやつとか……

ありますよね……?」


俺は、はっきり言った。


「本人を変えるポーションは出さない」


女性の肩が落ちる。


「……ですよね……」


「でもな」


俺は棚に手を伸ばした。


「**“お前が壊れないためのやつ”**ならある」


女性が、はっと顔を上げる。



俺は小瓶を二つ、静かに並べた。


一本目。


「これは、

恐怖と罪悪感を切り離すポーションだ」


女性が眉をひそめる。


「罪悪感……?」


「“私が見捨てたら悪化するかも”

“私がいなくなったら壊れるかも”

そういう思考を、一旦止める」


クリム「きゅ(それ大事)」


「闇堕ちヤンデレの一番の武器はな、

“相手の優しさ”だ」


女性の目に、涙がにじむ。


「……私……

置いていくのが怖かった……」


「置いていくんじゃない。

距離を取るんだ」



二本目。


「こっちは、

自分の輪郭を保つためのポーション」


「輪郭……?」


「相手の感情に飲み込まれないようにする。

“私は私”“あなたはあなた”を思い出させる」


ルゥが女性の足元に座り、

どっしりと体重を預ける。


「わふ(離れていい)」


女性は、ふっと力が抜けたように笑った。


「……ヤンデレに効く、じゃなくて……

“私に効く”んですね」


「そうだ。

闇堕ちは、

外から薬を投げても治らん」


俺は続けた。


「本人が自分で“戻る”って決めるまで、

他人ができるのは距離を保つことだけだ」


女性は深く息を吸い、

小さく頷いた。



「……逃げても、いいんですよね」


「ああ。

それは裏切りじゃない。

生存戦略だ」


クリム「きゅ(正解)」

ルゥ「わふ(生きろ)」


女性は瓶を握りしめ、

何度も頭を下げた。


「ありがとうございます……

……ちゃんと、自分を守ります」


「それでいい。

守れない優しさは、

優しさじゃないからな」


女性はフードを深くかぶり、

足早に店を出ていった。



扉が閉まったあと、

俺は深くため息をつく。


「……“闇堕ちした相手をどうにかしたい”って相談、

大体もう片方が限界なんだよな」


クリム「きゅ……」

ルゥ「わふ(助かった)」


次に来る客は、

どうかもう少し平和であってほしい。



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