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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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30/36

口を塞ぐな、原因を塞げ

店の扉がカラン、と勢いよく鳴った。


入ってきたのは、鼻をつまんだままの女性。

開口一番、切羽詰まった声で叫ぶ。


「職場にいるアイツ……口臭がやばくて……

口を一生開かせないようなポーションありますか!?」


「本人連れてこい」


即答だった。


クリム「きゅ!?」

ルゥ「わふ……(正論)」


女性は固まった。


「い、いや……それは……!」

「それは、なんだ」

「気まずいし……!」

「だろうな。でもな」


俺はカウンターに肘をつき、鼻で笑う。


「“口を開かせない”のは呪いだ。

職場トラブルを殺意で解決するな」


女性は頭を抱えた。


「でも本当にすごいんです!!

朝から夕方までずっと!!

会議室が……密室が……!!」


「分かる。

分かるが落ち着け」


ルゥが足元で小さく咳払いみたいに「わふ」と鳴く。

クリムは「きゅ……」と同情半分、引き半分。


「で、本人は自覚あるのか?」

「……たぶん、ないです」

「ほらな」


俺は棚を探りながら言った。


「大体こういうのは、

歯じゃなくて胃か生活かストレスだ。

あと水分不足。

たまに“強すぎる健康法”」


女性の目が見開かれる。


「え、歯磨きしてても臭うんですか?」

「余裕で。

口は出口なだけだ」


クリム「きゅ(出口)」

ルゥ「わふ(入口が問題)」


俺は小瓶を二つ取り出し、並べた。


「本人を連れてこれないなら、

“間接的に改善するやつ”しか出せねぇ」


女性は身を乗り出す。


「それでいいです!!」


「まずこれだ」


瓶を指で軽く叩く。


「水に数滴混ぜるだけで、

胃の動きを穏やかにして、

口に上がってくる匂いを減らす。

味はほぼ無。

“健康ドリンク”として渡せ」


「渡せ……ますかね……」

「“最近流行ってる”って言え。

嘘じゃない。今ここで流行らせた」


女性が苦笑する。


「もう一本」


二本目を並べる。


「これは“口臭消し”じゃない。

自分の口の状態が分かるやつだ」


「え?」

「飲むと、息が一瞬だけ自分に返ってくる。

きつい人ほど気づく。

他人を殴らず、自分で理解できる」


女性は一瞬沈黙し、

それから真剣に頷いた。


「……それ、優しいですね」


「優しくねぇと職場は回らん」


ルゥが「わふ」と肯定し、

クリムが小さく拍手みたいに前足を打つ。


女性は瓶を受け取り、深く息を吐いた。


「正直……

“黙らせたい”って思うくらい、追い詰められてました」


「分かる。

でもな、相手の口を塞いでも、

お前の鼻は救われねぇ」


女性は笑った。


「……確かに」


扉に向かいながら、彼女は振り返る。


「ありがとうございました。

……犯罪者にならずに済みました」


「それは何よりだ」


扉が閉まる。


俺は棚を整えながらぼそっと言った。


「……口臭より怖いのは、

人間関係が腐るほうだからな」


クリム「きゅ(名言)」

ルゥ「わふ(換気しろ)」


……次は“音がうるさい同僚を無音にしたい”とか来そうだな。


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